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セイギノチカラ  作者: 混沌
第二章 冬休み位ゆっくりさせてくれ
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第17話

 超能力者、且つ犯罪者の四賀憲太郎。

 同級生の宇都忠に犯行を止められた上、能力も使えなくなって敗北の道をたどっていた。


 フロアは宇都と四賀が暴れまわったせいで無残な状態になっていた。

 粉々になった壁。潰されたアルミ缶という凶器。中身が零れ落ちている弁当。

 ヘヴン・ヘルデパートの中で特にカオスなフロアと化していたのだ。


 宇都は既に離脱している。

 身の危険を案じ、柱に埋められている四賀を助け出すことができず、やむを得ず離脱したのだ。


 フロアはまるで大地震が来ているかのように大きく揺れ始めていた。

 右へ、左へ。

 まるで遊園地にあるアトラクションのように。


 四賀は、逃げ遅れていた。

 というよりも、逃げることができない。

 柱の周りに瓦礫が落ちている上、体力や体の状態は最悪。

 指一本動かす気力すらない。


 四賀の顔からは、不気味な笑顔は消えていた。

 何かが変わり始めていたのだろう。

 四賀はゆっくりと、自分の事について思い出してみる。


 四賀は、幼少の頃からゲーム、アニメに没頭していた。

 暇があればゲームを極め、アニメを観る生活を延々と繰り返していた。

 それも、十年以上。


 しかし、四賀の趣味は学校の全員には受け入れられなかった。

 そして人と関わることを嫌っていた四賀は、学校でのいじめに遭う事もしばしばであった。

 いじめられてから、四賀は一層人を嫌うようになる。


 四賀のゲーム、アニメ好き以外の特徴としては。

 それは、とにかく要領よく仕事をこなすことである。

 どういうことか。

 出された課題、宿題は必ず期日まで出せるよう、短時間でいかに要領よくやるか考えることが人一倍才能があったのだ。


 それ故、周りの人間がヒイヒイ言いながら膨大な課題に追われている時でも、四賀はものともせず課題を要領よくこなすことができた。

 四賀に、なぜそのような才能があったのだろうか。


 結論を言うと、ゲームのおかげである。

 ゲームに没頭していた彼は、ゲームを極める道を突き進んでいた。

 だから彼がいつも考えていたこと。

 それは、いかに効率よくゲームを進めるか。

 RPGならば、いかに経験値を短時間で稼ぐことができ、いかに短時間でクリアできるかを考えていく。


 この経験のおかげで、彼は現実世界でも要領よく仕事をこなせるようになったのである。

 つまり、四賀は人間味が無いが仕事は人一倍できる才能を開花させていたのだ。

 人との関わりが苦手だが、仕事はできる。

 珍しいタイプの人間だった。


 高校生になってからもゲームやアニメを買いまくっていた四賀は、いつしか貯金が底をついてしまった。

 ゲームやアニメは低価では買うのが難しいので、当然の結果である。

 そこで四賀は、アルバイトを始めようと決意した。


 そこで採用をしてもらったのが、このヘヴン・ヘルデパートのコンビニエンスストアであった。

 コンビニの名前は「マサムネ」。

 ここで四賀はアルバイトを始めたのだ。


 しかし。

 アルバイトは決して楽では無かった。

 そもそも人と関わることを苦手としていた四賀にとっては、同シフトの人と協力して作業を進めることができなかった。


 完全なる独断プレイ。

 仕事も要領よくこなし、そこには失敗は無く欠点は無い仕事ぶりであった。

 が、次第に彼とシフトを組みたがる者は一人もいなくなってしまった。

 一緒にいてもやりづらいと一蹴されてしまう存在となったのである。

「ロボット人間」

 それが、四賀につけられた皮肉ネームであり、次第に陰口をたたかれるようになってしまった。


 そして、彼の店長も追い打ちをかけていた。

「このやろう! 勝手に行動するなと言っているだろう! まともに人の指示も聞けないのか君は!」

 四十代後半で男性。彼の店長だ。

 店長は、何かにつけて毎日四賀に対して叱ることを繰り返していた。


 四賀は、高校生に入学してから勤務を始めたが、周りからの陰口などの圧力、店長からの追い打ちをかけられ続けたので、すぐに辞めてしまった。

 そして考える。


 絶対に許さない。

 ちゃんと仕事もしているのに、なぜ人から攻撃を受け、店長にも認めてもらえないんだ。

 僕は何一つ得ちゃいない。損ばかりしている。

 何もかもめちゃくちゃに壊してやりたい。

 全部一つにまとめて、丸めてゴミ箱に捨ててしまいたい。


 彼には憎悪の感情が一層高まった。

 アルバイトの経験により、彼はやる気を失い働く気にはそれからならなくなる。


 が。

 そんな彼に転機が訪れる。

 超能力開発カリキュラムだ。

 VR(バーチャルリアリティ)の中でしか実現をすることができないことが、現実世界でできるようになったのだ。

 四賀はいささか喜び、復讐を胸に超能力を鍛え上げた。


 ヘヴン・ヘルタウンを破壊してやる。

 そしてマサムネの従業員も、助けてくれなかった周りのフロアの奴も。

 全部無にしてやる。

 圧縮して、一つにまとめてちり紙のように捨ててやる。

 そう考え、四賀はこの日の為に綿密に計画をしたのだ。


 しかし。

 彼に邪魔が入る。

 目的は成し遂げられたが、完全なる勝利を収めることができなかった。

 宇都忠、秋芽萌の存在である。


 超能力者という同じ立場の人間だったが、思想はやはり異なっている。

 当然、思想が異なれば(いさか)いが始まるのだ。


 四賀は、もともと一般人を巻き込むつもりは無かった。

 この日の事だ。

 大学生になってから疎遠な間柄となっていたマサムネへ足を運び、店長に対し今までの不満を全てぶちまけてやったのだ。

 そこで、店長と四賀の喧嘩が始まり。

 腹を立て、感情を抑えきれなくなった四賀は能力を解放させ、すべてを破壊したのだ。


 店長は何か言いたげであったが、かっとして抑えられなくなった四賀は、容赦なく店長を殺害した。

 それは、音速のスピートで。

 VRならばプレイヤーキラーとして名が残ることになろうが、ここは現実世界だ。

 犯罪者のレッテルを貼られるのだ。

 知ったことか。


 現実で殺害をした、犯罪者という現実味を感じ取った四賀は、またもや興奮状態へと陥る。


 宇都によって敗北をしたが、目的は達成できた。

 四賀はゆっくりと目を閉じ、崩れゆく柱の近くで、最期を覚悟する。


 それにしても。

 最後の能力が使えなくなったのは、なぜだろうか?

 そんなことを考えながら眠りに落ちようとした。


「まったく、君は何をしているのデスカ」

 再び四賀は目を開ける。

 急に話しかけられたので非常に驚き、体が大きく、ビクと動いた。


 外国人?

 目の前にいるのは、留学生であろうか。

 決して流暢ではないが、日本語を喋るカナダ人風の男性が崩れゆくフロアの中で急に話しかけてきたのだ。


 その留学生は「正義-judgement」と書かれたTシャツを着ており、ジーンズを履いている。

 海外で流行っている、日本語プリントのTシャツだろうか?

 そしてスニーカーも履いていたが、三千円そこらで購入できるような変哲のない靴を履いていた。

 ただ季節は冬だというのに、服装が寒そうだ。


「誰だ」

 四賀は、消え入りそうな声で留学生に問いかける。

「イヤー、君が四賀君デスカ。能力をひけらかしては駄目じゃないデスカ」

 答えになっていない。疑問詞を用いた質問をしているのに、誰という答えを満たした答えになっていないので、四賀は少々いらだつ。


「そこの外人さん、何者だ?」

「オオウ、外人さんなんて言葉は使ってはいけないのデスヨ? 私の名前はトム。ハハハ、覚えやすいでしょう?」


 トムは笑顔で四賀に語り掛ける。

 実はこの男、秋芽との買い物中に宇都から不意打ちタックルを仕掛けられている。

 完全に不意打ちを鳩尾(みぞおち)にくらったトムは少々驚いたが、わざとじゃないと分かったため許した。

 というよりも、わざと普通の人を装ってその場を凌いだように見せたらしい。


「お前、TFM(サーティファイブメンバーズ)の一員じゃないな?」

「フフ、Who am I?(僕は誰でしょうか?)」


 何だお前と返してやりたかったが、力が体から抜けていくのを四賀は感じていた。

 もう、戦う事も、立ち上がることも覚束(おぼつか)ない。

 段々と意識が遠のいてきている。


「言っておきマス。先ほど、貴方スキルを使えなくなったでしょう。それ、僕の能力デス」

「......? なんだと」

「宇都君との事の経緯を見ていましたガ、見てるだけじゃ済まなくてデスネ。つい横槍を入れてしまいマシタ」


 こいつは何者なのだろうか。

 四賀は、聞く気力さえ起こらない。

「......」

「一つ言っておきましょう。ワタシは、超能力者です」


 四賀は、それ以上の事を追及したかった。

 TFMじゃないのに。

 国家レベルの機密事項でもある超能力を、なぜこの留学生が知っているのか。

 不思議でしょうがなかった。


「もう聞けないようですネ。それでは、よい夢を見てくだサイ。犯罪者サン」

 トムは助ける素振りも見せず冷静に言い放った。


「......く」

 消え入るような声。

 本当に耳を澄まさないと聞こえないほどであった。


「これからは、私たちの時代になるデショウ。天から見守っていてくだサイ」

 トムはテレポートをしたのか、一瞬にしてその場から消えてしまった。


「......ふ。本当に僕って、人づきあいが下手だな」

 四賀が最後に呟いた言葉は、後悔の言葉。

 そのまま今度こそ、ゆっくりと目を閉じた。


 フロアの揺れが激しくなる。

 右へ、左へ。

 柱に次々と亀裂が入っていく。

 バキバキバキとコンクリートがひび割れる音であった。


 全フロアの重量を支えきれず、砕けていく。

 もう耐えきれないと叫んでいるかのような柱。

 フロアに立っていられないほどの震度。


 フロアの中でこのような事が起こっていたことなど、誰が予想できたであろうか。

 また、トムの存在は四賀にしか把握できていない。


 宇都の超能力による非日常的な生活の要素が、また一つ増えた瞬間であった。

1月も終わりですね。

2月も頑張ります! 2015/01/31

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