やっぱ絶交だよ
俺たちは雷辛のいる郡城に到着すると、すぐに太守府へと向かった。
太守府の門は開かれているが、左右に鎧を着て槍を持った兵士が入ろうとする者を誰何している。
仕事が出来る雷辛がトップだからか、下っ端の守衛まで真面目そうだ。
「緑県県丞、陸子安と申す。太守殿はおられるか?」
「来訪されたらいつでも通すよう伝えられております。どうぞ!」
守衛にそう名乗ると、俺たちはすぐに通して貰うことが出来た。
いつでも通せって、不穏だな。仕事の予感がする。
太守の執務室に入ると、いつも通りピシッとした雷辛がいた。
「おぉ、子安。早かったな」
「もしかして、呼び出しの手紙でも出してたのか?」
「出してないぞ。そろそろ来る頃だろうと思っていただけだ」
あーやだやだ。
なんか見透かされてるじゃないか。嫌な予感しかしないぞ。
俺と雷辛が親しげに話すのをみて柳瑛がキラキラした視線を俺に送ってくる。山賊の砦を出てからと言うもの、柳瑛の視線が熱い。
よせよ、俺に惚れるなよ。俺はずっと碁を打っていたいん―――こいつ碁が強いからアリかも。
「で、子安。何が見つかったか聞こうか?」
「横流しの不正をこの柳恵華が見つけてくれた。恵華、大手柄だな!」
俺は柳瑛の背中を押して前に出した。
「……君は?」
「おおおお初にお目にかかります。緑県で陸寧様の補佐を仰せつかりました柳瑛と申します」
「……なるほど」
雷辛は何かを納得したように大きく頷いた。よし、これで手柄は柳瑛のもの。俺は意気揚々ともう一つの悪事についても告発した。
「横流しの首謀者は県令董粛、やつは恵華が不正の証拠を掴んだ事を知ると、俺共々殺そうと賊と結託して襲わせたのだ!」
「ほう、で、その賊はどうした?」
「この恵華が全員をちぎっては投げの大活躍で始末した。だから討伐は不要だ」
「……なるほど」
雷辛が先ほどより一段大きく頷いた。
「それと、県内の村の収穫を偽って税収をごまかした疑いも恵華が見破った。証拠はこれだ」
俺は懐から糺単村に関する書類を出した。
雷辛は書類を受け取ってそのまま机に置いた。
「見ないのか?」
「お前が見たのなら俺が読むまでもない」
「俺じゃなくて恵華が、だぞ」
「お前も見たろ?」
「恵華が疑いを持った後にな」
「……そういうことにしといてやるよ」
そういうことなんだから信じろよ。疑い深い役人は嫌われるぞ。
「事情は分かった。すぐに緑県に人をやろう。お前たちは、しばらくここで休んでいると良い」
俺たちは雷辛の執務室を退出した。
「しばらくここで休んでいろ、ね」
雷辛のやつもたまには良いことを言う。見直しちゃうね。
「……陸様、もしかして」
柳瑛が何かを悟った。はは、当たり前だろ。
「恵華殿、碁を打とう!」
ここ数日歩いてばかりだったから、俺は碁に飢えている。今日は倒れるまで打つぞ!
俺たちはあてがわれた部屋に行くと、さっそく一局うった。
「……恵華、調子悪いのか?」
俺は率直な疑問を口にした。碁を打ち出してから柳瑛の様子がおかしい。いつもなら手を留めず容赦なく打ち返してくる場面でじっと盤面を見て考えている。
「そ、そんなことは……」
「もしかしたら腕を上げたのかもな。恵華に勝ちたくて研究を重ねているのに全然差が縮まらないと思ってたんだが、俺と同じくらい恵華も成長しているんだな!」
うれしいね。役に立ってるよ俺。
「は、はははい、陸様のご指導の賜物デス」
恵華は震えながら石を置いた。
うん、やはり調子が悪いんだろう。今日はこの一局で終わりにしよう。
こうして数日、俺は思う存分碁を打つ生活を手に入れた。雷辛大好き。
柳瑛が郡の役人に聞いてきたところによれば、雷辛はすぐに董粛捕縛のために兵士たちを向かわせたらしい。
兵たちが董粛をつれて太守府に戻ってきて、すぐに取り調べが開始された。
董粛は罪を認め、雷辛によって処断された。
めでたしめでたし。
―――とはならなかった。
「では子安、君を緑県県令に任じる」
なんでそうなる。おかしいだろ。俺は何も手柄立ててないのに。
「おい子龍」
「なんだ?」
「何で俺が県令なんだよ。恵華だろ、ここは。手柄立てたんだぞ」
「彼女は君の補佐役だ。つまり彼女の功績は君の功績だ」
おかしい。絶対におかしい。俺の功績だなんて俺は認めない。
「じゃあ恵華は?」
彼女の功績にはどう報いるんだ。俺はそれを主張しようとした。
「ポストが空いた県丞とする」
悔しいことに雷辛の手配は完璧だった。
「……いやだ」
県令になんてなったら、碁を打つ時間が減る。冗談じゃない。
「分かってると思うが、拒否権はない。あと辞める自由もない」
なんでこうなった。
やっぱこいつとは絶交だ。




