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魔法を撃たないと死ぬ病弱少女は、今日もダンジョンを徘徊します  作者: 京々
一章

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2/12

2話 魔法技術


 ダンジョン配信者、というのが流行っているらしい。


 ある日突然、地球に未知のダンジョンというものが出現したことが話の始まりだ。大抵、洞穴とか階段とか、地下への入り口としてそれは現れる。


 その中には何があったか?

 地下にあるとは思えぬ巨大空間・環境、巨大化・凶暴化したモンスターともいうべき生き物、未知の道具であるアーティファクト、そして魔法技術。


 危険と隣り合わせながら、人類にとって垂涎ものの未知がそこにはあったのだ。


 多くの人々が探索者を名乗りダンジョンへと潜っていった。そんな中で、ある法律も定められた。


『特定迷宮内における探索活動の適正化及び記録の管理に関する法律』


 簡単に言うなら、

 ①ダンジョン領域では映像等の記録を取りなさい

 ②その記録は国の探索振興機構に提出、あるいは一般公開しなさい

 ……というもの。


 未知の脅威に対する情報共有と生存率の向上、ダンジョン内という無法地帯での犯罪抑止、また素材の密輸防止なんかのためと言われている。

 あとは、魔法技術って乱用すると激しい中毒症状が出るので医療記録としても使用されるとか。


 それが今では人気エンターテイメントと化したというわけだ。


 説明終わり。




 ***




「はじめる……」


 浮遊カメラをつけて、掠れた声で一言だけ呟いて、私はふらふらと歩き始めた。


 私も一応、ダンジョン配信者というやつに該当するんだと思う。ダンジョンに潜ってその様子を配信する人のこと。


 でも、普通の配信者は見栄えってものを重視する。

 配信する時間は視聴者に合わせて、カメラを回し始めたら挨拶をして、名乗って、「今日はどこどこのダンジョンに潜ってこれこれをします」って小粋なトークというやつを披露する。


 残念ながら、私にそんな余裕はなかった。


 全身だるいし、喉が焼けるように熱くて呼吸がつらいし、頭痛いし頭痛いし頭痛頭痛頭痛。両手も火傷してるみたいヒリヒリする、というか多分火傷している。今日は高熱症状(パイロ)が強いみたいだ。


 そんな状態なものだから、もう歩くのもつらかった。いつものこととはいえ嫌なものだ。今すぐ誰かに助けてほしい。


 なんでそんな体調でダンジョンなんか潜っているのか?


 違うんだよ、潜らないと死ぬんだよ、私は。


 :乙

 :おつ

 :今日も気をつけて

 :足取り怪しくね?魔力中毒?


 配信画面に視聴者のコメントが流れる。


 残念ながらお返事をする余裕もなかった。私は炎を吐いているかのような熱い喉を冷やすために、背負ったリュックから携帯アイスを取り出す。可愛い怪獣ちゃん型のバニラアイスをぱくり。


 ……少し、マシ、かも?


 ぐらぐらと煮え立つ頭が少しだけ冷えたような気がする。気がするだけだ。


 ちなみに、魔力中毒とは魔法を使いすぎて出る中毒症状のことだ。症状には、使用する魔法によって実に様々な種類がある。


 そして、まあ、なんだ。視聴者さんのご指摘はまさにご慧眼。私のこれは間違いなく魔力中毒だった。


 :アイス食っとる

 :新規?

 :珍しいね

 :この子の配信はいつもこうだよ。なんか食べながらダンジョン歩き回るの

 :マ?


 私がコメントに反応しないのはいつものこと。既存の視聴者さんが親切にも解説をしてくれた。こんな「ただ義務だから配信してます」って感じの配信者なのにありがたいことだ。何が楽しくて見てくれてるんだろう?


 :魔力中毒ってヤバいじゃん、通報と救急搬送はよ

 :でもこの子まだ一発も魔法撃ってないよ

 :???


 普通、魔力中毒は規制を無視してたくさんの魔法を撃つと出てくる症状だ。


 よって、魔力中毒=魔法規制法違反。刑罰も適用される重罪になる。あと普通に死ぬ可能性もある。


 私は次の携帯アイスの袋をやぶった。次はチョコ味の怪獣ちゃん型アイスをぱくり。


 :魔法撃ってないのにこんななの?

 :うん

 :そう

 :怖


 流れていくコメントはほとんど読んでいない。


 私はアイスを食べて、燃えてるみたいな体を気休め程度に冷やしながらダンジョンの中を歩いた。


 そうしているうちに、やっとモンスターに行き合った。

 よくいるタイプの狼のモンスターだ。


 :気をつけろ、フォレストウルフは群れてるぞ

 :慣れてきた子が放送事故起こすのわりとこういうモンスター相手だよな

 :大丈夫だよ、この子は


 魔法を使うためには『発動機』と『魔法アンプル』が必要だ。


 発動機っていうのは、いわゆる魔法の杖みたいなもの。実際にはブレード型、ガン型、ランス型、色々ある。大抵は武器の形をしている。


 私のは旧型も旧型のなんかよく分からん型。昔の発動機って武器の形じゃないんだよね。なんか、チョーカーと四角い小さなポーチみたいなのが細い管で繋がってるみたいな形。ポーチにアンプルをセットすることで魔法が使える。


 魔法アンプルは、魔法を撃つための術式みたいなもの。使いたい魔法に合わせたアンプルがある。


 今日は炎系の魔法がぶっ放したいので、私は赤いアンプルをガシャっとポーチに差した。


 :なにその発動機!

 :骨董品だよ

 :魔法技術博物館とかダンジョン歴史館とかで見れるやつ

 :なんで??


 息を吸って、ガオっと口元から魔法を放つ。


 炎を発射して広範囲を薙ぎ払う魔法だ。火炎放射と言い換えてもいい。狼たちはなすすべなく丸焦げになった。


 :威力やば

 :毎度思うけどランクいくつのアンプルなんだろ

 :3はいってる

 :惜しい、PV4のファイアブレス

 :魔法鑑定士さんちっす

 :4なんだ、やば

 :森狼さん相手には過剰

 :おおかみさんかわいそう

 :この子に襲いかかったのが運の尽きよ

 :実力だけなら相当上位だよこの子


 魔法を撃つと、私に変化が出てくる。私ははーっと深呼吸した。さっきまで呼吸もつらかった。けれど。


「……ふはぁっ、きもちぃ」


 喉を焼く熱が少し引いた。


 まだまだ熱は燻っているけれど、このままどんどん魔法を放てば楽になるだろう。ああ、さっきまで焚き火をそのまま食べましたって感じの苦痛が、コンロの火くらいに治まった感じ。いやもうだいぶ楽。


 私はぐっと伸びをした。でもまだ関節が痛い。気だるい。頭痛頭痛頭痛。肺が熱い。両腕も熱い。全快してないのに調子に乗ってしまった。それでも。


 :今日のきもちぃいただきました

 :最初よりむしろ元気だな?

 :中毒症状っぽいの明らかに引いてる

 :ね

 :だろ

 :なんで?

 :さあ

 :魔法射出の快感で変な脳汁出てるとか

 :アンプルに快楽物質入ってる?

 :単に魔法中毒者、略してマホ中

 :危なすぎw

 :これ見るために配信見てるいつも


 コメントが流れている。ちょっと文字を追う余裕も出てきた。気がする。気がするだけだ。まだそこまで元気じゃない。早く次を探そう。


 :というかこの子の名前は?

 :知らん

 :名乗ったことない

 :そもそも滅多に喋らんしなこの子


 再びアイスを咥えながら歩き始める。ダンジョン探索は始まったばかり。まだまだ行くよ。


 :だからこの子ホリックちゃんとか呼ばれてんだよ

 :草


 でもバッチリあってるよ。私、慢性的な魔力中毒者だから。


 まあ、今の時代はほとんどいないらしいけどね。

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