第九章 北辰星 漆 北極星
ここは静かだ……。
白い天井、白い部屋、白いシーツに布団。
目に映るモノ、すべてが白い。
まるで私の思考までも白くなってしまったのではないかとすら感じる。
遠くに白の嫁の声が聞こえる……。
「おじいちゃん。また来るからね。早く一緒にごはん食べようね……」
あぁ……。
陽の光が気持ちいい……。
とても……、心地がいい……。
***
「……さん、……いさん、清さん!
まあ、清さん、こちらにいらしたんですか。そんなところにいますと濡れますよ。
あら? 雨は止んでおいでなんですね」
気付くと、私は自宅のベランダから夜空を見上げていた。
ここ数日降り続いた雨は止み、空には満天の星が輝いていた。
照が傍に立ったことが、その甘い香りでわかった。
桃と柑橘が絡み合うニオイ。
鬢付けの香りだろう。
照のお気に入りのそれだ。
実は、私もこの香りが大好きだ。
まあ、コトバに出すことは絶対にないのだが。
「よかったですねえ。長雨も止んで」
照はそう呟くと、微笑を浮かべる。
目尻の皺が、なんとも愛らしい。
そこに刻まれた一つ一つに私たちが共に過ごしてきた時間や、想いが抱かれているように思う。
嗚呼、こうして、ずっと傍にいて欲しい……。
「清さん、聞いています?」
おっと。
どうやら、少し物思いに耽っていたようだ。
私は、微笑を照に向ける。
そこには昔ながらのムクレ顔があった。この顔を今まで何度と見てきただろうか?
が、眼は静かな喜びをたたえている。
「まったく……。清さんったら、いつもそう。もっと『しゃんと』してくださいな!」
そういって、照の表情は柔らかい笑顔に変わる。
「明日は雄の子が生まれますからね。私たちも立派なおじいちゃん、おばあちゃん。なんか、とっても不思議ですわね……。
清さんと海野商店ではじめて出会ったのが、つい最近のことのようなのに……。あっという間に長い時間が過ぎてしまったんですね……。
それにしても、とってもキレイな夜空!こんな夜空はいつ以来でしょうね!」
照が珍しくはしゃいでいる。
髪には簪の朱が彩を添える。
まるで少女のような語り口に私の頬も心なしか緩む。
まったく。
いい歳になってもこの人は可愛らしい。
私はそんな想いを見せることなく「ああ」とだけ応える。
本当にキレイな夜空だ。
こうしてずっと見ていたい。
照と一緒に。
「あ!
流れ星! 一番光っている星に近づいていくわ!
まるで雄の子の誕生を祝っているよう……」
「ああ……。
あの子は私たちの導の星だ……」
(了)




