第八章 破軍星 弐 生まれついての商売人
再びの雄との生活がはじまった。
昔の雄とは見違えるくらいに仕事に精を出し、毎日時計のてっぺん頃には酒に酔って帰ってくる。
連れ合いの久も忙しく、日中は私一人の時間が確保される。
もう少しすれば、この静寂は喧騒に変わる。
「ひいじいじ~。ただいま~! 昨日の続き~! 軍人将棋! 軍人将棋! 今日は負けないからね~!」
白の娘の詩が学校から帰ってきては、これをせがむ。
子女が軍人将棋に勤しむとは、なんとも滑稽なことか。
それだけ社会も世界も、戦争というものを抽象化し、一つの遊戯にしてしまう。
そんな現在の緩さ……。いや。平和ボケになんとも危機感を覚える。
だが目の前にしているのは、平和のそれではないか。
なんとも世界は、社会は、移ろうものだと感じる。
私という人間を圧倒的にひとり取り残して……。
***
「白、私の事業を手伝ってみないか?」
夕飯時に切り出してみる。
白は近くに分譲マンションを購入し、ほぼ毎日、家族全員で夕食を共にする。
共働きで子どもが幼いうちは、実家に近い方が色んな意味で助かるとのことだ。
自立しているのか、自立していないのか、私としてはなんとも不思議な感覚だ。
このタイミングであればこれまでの「教え」以上に、経営や事業・組織運営を教えていくことができる。
「ん? いいよ。仕事もそんなに大変なわけじゃないし、じいちゃんには子ども達とも遊んでもらっているからね。じいちゃんの仕事を手伝えるなんて、なんか認めてもらえたみたいで嬉しいよ。
それに経営にも興味があるんだよね。なんでもいってよ。それなりに勉強はいろいろとしてきていたところなんだ」
サラリという。
経営や事業運営は、そんな簡単なモノではない。
まあ、これくらい軽い気持ちで考えているのであれば、それこそ教育しやすい。
ゆくゆく私の事業は白に任せていくつもりなのだ。
あそこで転がっている白の息子の虎の時代には、世を射抜く会社となって欲しいとも思う。
まあ、私の個人的な夢ではあるが……。
***
「それで、五年間の貸借と支出詳細を見せてもらっていいかな?」
なんと。
思った以上にヤル。
確かに雄の子ども達の中では、最もあたまがキレるのは白だと思っていた。
だがここまで理解が早いとは。
いくつもの事業があるはずだが、それらの内容をすぐに把握し、そして次は収支表を出せという。
事業ごとの進捗や実情を把握したいということなのだろう。
ここまで手塩にかけ、育ててきたかいがあるというものだ。
オモシロイ……。
この子はより事業を大きくしてくれる。
朧気ながらそんなイメージが湧いてくる。
この感覚は久しぶりだ。
「あのさ……。これちょっとおかしくない? この事業って確か、英叔父さんがやっている事業だよね……? 悪いけど、じいちゃんの確定申告も見せてもらってもいいかな?」
なんと。
そこに気付くか。
丁度いい機会だ。白に任せてみてもいいかもしれない。
そろそろきちんとすべきなのだ。
ここまで甘やかしてきたのだ。このタイミングできちんと整理するべきなのだろう。
「ワシの確定申告? とりあえず三年分でいいか? そこから何がわかるんだ? 何かおかしいところでもあるのか?」
そ知らぬふりをして投げかけてみる。
どういう回答がくるのか? こいつは見ものだ。
白はひと沈黙を置き、申し訳なさげに言う。
「あまり…、言いたくないんだけどさ……。じいちゃんにも会社にも大きな問題になりそうなんだよね……。もう少し、しっかりと見てみないとはっきりしたことは言えないけど……」
心の中でニヤリと笑う。
「なんだ? 言ってみろ。ワシになんの遠慮をする必要があるんだ?」
さて、白よ。なんと返す?
「多分……、英叔父さんは会社の利益を着服している……」
(つづく)




