表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

パン焼き窯のなかにはパンも入っていたし、瓶詰も使った痕跡がある。

つまりは、ここには間違いなく今現在、誰かが暮らしている。

そして、その住人は、ホビットのように保存食作りの上手い種族だ。


「カトラリーの数も多いし、けっこう大家族やろうね。」


棚の下の引き出しを見て、グランは言った。

なんだ、グラン、騒ぐだけじゃなくて、ちゃんと観察もしてたんだ。


「うちは、じっちゃんばっちゃん、父ちゃん母ちゃん、弟妹に、叔父さん叔母さん、いとこたち。

 それから、よく近所の人も混ざってましたからね。

 大家族といえば、大家族でしたけど。」


「流石、ホビット族ですね?」


「そのくらいの数のカトラリーはあるようやね。

 くもりもないし、これは、今も毎日使ってるんと違うかな。

 ・・・あれ?」


グランはきれいにスプーンの並べられた木箱を取り出した。


「これだけ分けてあるなあ・・・」


「あ!それ!」


フィオーリは木箱を指さして叫んだ。


「それ、おいらたちきょうだいの、っす。

 スプーンだけはそれぞれ、自分のが決まってて、生まれたときからずっと使ってるんっすよ。」


「へえ~。

 確かによう使い込まれとるなあ。

 これは、銀、かな?

 ちょっとでもほっといたら、すぐに色が変わってしまうんやけど。

 どれも、よう手入れされてて、ぴかぴかやな。」


「母ちゃんが、毎日、磨いてたっす。

 子どもたちのことを思ってこれを磨くのが楽しみなんだ、って言って。」


フィオーリはグランから木箱を受け取ると懐かしそうに眺めた。

それをグランは横から覗き込んで言った。


「こんなぴかぴかやということは、ずぅっと休まんと、毎日磨いてるっちゅうことやね。」


「ずっと、休まんと、毎日?」


それが意味することにその場の全員が思い当たる。

みなの中に、一斉に歓喜が湧きあがろうとした。

そのときだった。


「こらっ!泥棒っ!

 いいから、その木箱をそこへ置きなさいっ!」


「へっ?」


いきなりな怒鳴り声に、驚いて振り返ったところを、いきなり、ばさばさと叩かれた。


「う、うわっ!」


「え、ちょっ?」


「あわわわわ・・・」


「待って、待ってくださいっ!」


阿鼻叫喚の大混乱。


とっさにそこを抜け出して、僕は天井近くまで飛び上がった。


「・・・うわあ・・・」


目の下では、ほうきやらはたきやら持ったホビットたちが、仲間たちをさんざんに叩きのめしている。


「・・・バリア・・・」


僕は小さな声で魔法を唱えた。

うちの聖女様だけは、一応、守っておかないとね。

まあ、ほうきとはたきじゃ、大怪我はしないだろうから、他のやつは別にいいや。


そうしておいてから、ゆっくり観察する。

ホビット族は、ひのふのみ・・・あれ?何人いるんだ?

ホビット族って、みんな小柄だし、服装もそっくりだ。

ちょこまか動いてたら、数えにくいったらありゃしない。

帽子だけ、みんな色違いの三角帽をかぶっている。

もしかしてあれって、目印?

同族でも見分け、つかないとか?


「ちょ!母ちゃん?

 母ちゃんってば!

 おいらだ!おいらだよっ!」


「オイラーなんてやつは、この郷にはいないよっ!

 よくもまあ、フィオーリそっくりな声を出しやがってっ!

 この、悪者めっ!」


うわー・・・この古典的なボケ、誰か、なんとかして?


「だからっ、フィオーリだ、って!」


「うちの息子の名前を騙るんじゃないっ!」


「騙ってなんかいないって。

 おいら、帰ってきたんだ、って。

 父ちゃん!じっちゃん!ばっちゃん!

 ルネマルテメルコジョヴェヴェネルサバトドメニカ!」


???それは、なんの呪文?


「あ。兄ちゃんだ。」


けど、呪文の効果は絶大だった。

ひとりのホビットがそれを聞いていきなり手を止めた。

兄ちゃんと言ったところを見ると、フィオーリの弟か、妹?

それを見たほかのホビットも、みんないっせいに、ほうきではたくのをやめた。


「母ちゃん?」


髪に盛大にほこりをからみつかせて、フィオーリは母親らしきホビットを見る。

当たり前だけど、フィオーリには全員ちゃんと見分けはついているらしい。

母親の帽子は緑色。

ちらりと胸元に見えたのは、クローバーのネックレス。


母親の手から、ぱたり、とほうきが落ちた。

それから、母親は、ゆっくりとフィオーリに近づくと、ほこりまみれなのにも構わずに抱き寄せた。


「フィオーリ!おかえり!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ