第六項 過去との出合い
南に飛び続けること3時間。
流石にお腹も減ってきた。
私は保存食を食べれば良いけどルージャは何か動物を捕まえないといけない。
ルージャもあんまり元気がないんだよね。
どうしようか考えていると丁度、デノデトの大群が眼下に見えたのでルージャと2人で狩りをすることにした。
狩りと言っても単純に空から急襲をかけて捕まえるだけだけど。
私は腕を竜化させるとルージャの近くを飛び回った。
「ルージャ、準備はできた?」
「いつでも良いよ」
「それじゃ、行くよ」
その一言を合図に2人で急降下を始める。
空からの襲撃者にデノデト達は気が付かない。
そのままルージャの口に1頭、私の両手に1頭ずつ、合計3頭が捕まえられた。
ようやく私達の存在に気が付いたデノデト達は仲間を置いて一目散に逃げて行く。
追ってもいいけど、これ以上獲物を持つのも難しいから今回の狩りはこれで終わり。
地上に降りてその場に座るとルージャも降りてきて適当な場所に寝そべった。
「ルージャ、3頭で足りる?」
ルージャは捕まえたデノデトを丸呑みにして此方を見た。
「充分だよ」
そう言ってルージャは口を開ける。
その口に向かって最後の抵抗を続けるデノデトを投げ込むと、ルージャはバリバリと音を立ててそれを食べた。
「もう一匹はここに置いとく」
「逃げちゃわない?」
「足の腱を切っておいたから逃げられない」
「リアンって時々えげつない事するよね?」
そう言いながらもルージャは美味しそうに最後の一匹も平らげた。
一方私は自分のリュックから干し肉を取り出してかじっている。
以前捕まえた猪の肉を塩やスパイス、香草などと一緒にタレに浸けてその後、天日干しにしたものだ。
中々美味しい。
テナと一緒に食べるつもりだったんだけどね……。
私が肉を食べ終わる頃には日が傾き始め、辺りは夕日によって赤く染められていた。
「ルージャ、今日はここで野宿しよ」
「了解、それじゃおやすみ」
「え?もう寝るの?」
「夜まで僕が寝るからそれまでリアンが見張ってて」
「分かった」
交代制なんだね。
ЖЖЖ
完全に日が沈み、辺りは真っ暗になった。
私は焚き火を起こしてボーッと交代の時間を待っている。
交代制だと自分で言った割にルージャは寝たまま起きる気配がしない。
暇だから全身を竜化させてみると意外なことに顔と上半身の前側は人間の物から変化しなかった。
胸とかは柔らかいままなんだね。
まあ鱗だらけになっても困るけど……。
顔も例外があって目と耳と牙だけは竜化した。
普段見えないような光の流れが見えるし、何より夜目がきく。
遠くの音もよく聞こえるし、全ての五感が強化された感じがする。
面白がって辺りを見回すと知らない男の人が笑って此方を見ていた。
白髪、黒目、少しあどけない顔をしてるけど何か熟練の戦士みたいな雰囲気の人だね。
「貴方誰?」
「その前に君は人間かい?」
意外なことに彼は一切驚かずにそう言った。
恐らく目の前には化物がいる筈なんだけど……。
世の中には面白い人がいるんだね。
「元々ね。今日、ハーフドラゴンになった」
「その割に落ち着いてるね!?」
「深く考えないのがウォーリンデの美徳だから」
完全にドラゴン王の受け売りだ。
しかし、ウォーリンデの姓を聞くと彼は納得したように頷いて笑った。
「ウォーリンデって事はアジャスの娘さん?」
「お父さんの知り合い?」
「戦友だよ。今も昔も一緒に戦ってるからね」
「……貴方革命軍の人?」
「そうだよ。革命軍特務隊長、アンセル・オグマ。お父さんから聞いたことない?」
期待に目をキラキラさせてアンセルは此方を見てくる。
残念だけど1度もないんだよね……。
「お父さん仕事の話しはしないから聞いたことがない」
私がそう言うと、アンセルは分かりやすく肩を落として溜め息をついた。
「相変わらず外の世界について教えないのか…………って!何で君、村から出てきてるの!?」
「君じゃない、リアン」
「ああ、ゴメン。で何で!?」
「村はもう残ってない。お父さんも死んだ」
「なっ!?アジャスが死んだ……?」
アンセルは顔を真っ青にしてその場に膝をついた。
お父さん人望があったんだね。
「詳しく話すと長くなるけど聞く?」
「うん……お願いするよ」
ЖЖЖ
「そっか……村は壊滅、アジャスは討ち死にか……」
話を聞いたアンセルはうなだれてポツリと呟いた。
目には涙を浮かべ、声は震えている。
本当に悲しんでくれてるみたい。
私は自分の表情を変えないで、アンセルの顔を覗き込む。
「でもお母さんは死んでない。だからマゴヨントルに行く」
「僕も付いていって良いかい?」
「良いけど何で?」
「マゴヨントルには知り合いもいるし何より用があるからね」
そう言ってアンセルは笑うと剣を抜いた。
「それに、こういう時に助けてあげないとね」
そう言った直後、彼は背後に迫った敵を切り裂いた。
話に夢中になって気が付かなかったけど私達は囲まれていたらしい。
ルージャを叩き起こすと私は空に飛び上がって空を旋回する。
空から見た限り敵は10人。
全員ナイフか剣を持った盗賊達だ。
じりじりと囲いを狭めていく戦法は人狩りと同じだ。
そう思った瞬間、私の中で何か嫌な感情が爆発した。
始めて会った筈なのに盗賊達に対して凄まじい怨みと怒りが沸いてくる。
「許さない」
急降下して感情の赴くままに鉤爪を振るう。
バターを切るように一切の抵抗を感じずに私は2人の盗賊を切り裂いた。
「ば、化物だっ!」
「逃げろ!」
逃がさない。
1度上昇して、別の盗賊に狙いを定めると急降下して彼等を切り裂いていく。
アンセルは既に剣を納めて戦いを終えているけど私の気持ちは収まりそうも無い。
「許してくれ!」
「殺さないで!」
口々に喚き散らす盗賊達を執拗に追いかけ、全員を切り裂くとようやく私の気分も落ち着いてきた。
いい気味だ。
焚き火をしている所まで戻ると何故かアンセルがルージャを撫でている。
知り合いだったのかな?
竜化を全て解くと私は焚き火の近くに腰を下ろした。
「ルージャ、この人知り合い?」
「うん、昔1回だけ乗せてあげた事があるんだ」
「ふーん」
「えっと、リアンはルージャと会話できてるのかい?」
アンセルは困惑したように笑いながら言った。
「うん。ハーフドラゴンになったみたいだから」
「そ、そうなんだ」
必死に作り笑顔をするとアンセルは私をまじまじと見つめる。
何か付いてるかな?
「どうかした?」
「いや、アジャスに似てるなーって思ってさ。目とか戦う様子とかね」
「戦い方がお父さんと?」
「そう、アジャスも暴走しながら戦ってたからね。よく深追いして総団長に怒られてたよ」
「総団長?」
「革命軍のリーダー、シュドムっていうんだけど知らない?」
「知らない」
残念そうに笑みを浮かべるとアンセルはふと思い付いたように手を打って此方を見た。
「そっか…………もし良ければアジャスの昔の話をしてあげるよ?」
「聞きたい!」
「いい返事だね、さてどこから話そうかな……。そうだあれは今から16年前の事でね―――」
アンセルは私が眠るまで昔の話を聞かせてくれた。
ソルネアスでの話、マイソーカであった宴会の話、お母さんとお父さんの結婚秘話。
大人が何も教えて貰えてなかった事を痛感したけど、それでも凄く楽しい話ばかりだった。
殴りあって結婚したなんて初めて聞いたよ……。




