第二十三項 帰還と騒乱
どうも。新参猫です。
寒いので反復横跳びをしていたら
肘をぶつけて痣が出来ました。
目が覚めると朝陽が昇り始めた頃だった。
妙にフカフカなベッドに寝たせいか、
体が固まっている。
起き上がって軽く体操をして体に血を巡らせた。
鎧をつけ、武器を装備し終えると部屋を出ようとすると問題が発生した。
不思議なことにドアが開かない。
何度もドアノブを回すが結果は変わらない。
どうやら鍵を掛けられたみたいだな。
こんなことをするのは一人しかいない。
あのデブだ。
それなら此方にも考えがある。
窓を開けて何処に馬小屋があるか確認する。
予想外な事にこの部屋の真下にあった。
よしこれならいけるな。
懐からミニ角笛を取り出して鳴らすと、
ノーグが馬小屋から飛び出てきた。
「ノーグ!俺の所まで来い!ただし、飛ぶのは
禁止だ」
そう言うとノーグは凄まじい速さで駆けていった。
さて、俺を閉じ込めたこと後悔するといい。
ЖЖЖ
暫くすると廊下でガチャガチャと鎧がたてる音がし始めた。
どうやら衛兵が駆り出されたらしい。
死ぬなよ?衛兵さん。
すぐに衛兵の悲鳴と共にドドドドッという地鳴りのような足音が鳴り響いた。
3回程衛兵とノーグの追い掛けっこは続いたが、4回目で俺の部屋の前で足音がピタリと止まる。
ようやく到着したか。
急いでドアから離れて机を横倒しにする。そしてその影に俺は隠れた。
「ノーグ!壊せ!」
バゴンッというとんでもない破砕音がしたと思うと足元に巨大な宝石がゴロゴロと転がってきた。
ドアノブの残骸だな。
頂いていこう。
懐に宝石を捻り込むと立ち上がってノーグに姿を見せる。
「よくやってくれたな!」
首の横を撫でるとグゥと嬉しそうに鳴く。
そのまま背中に乗せてもらい、城を走り抜ける。
さあ凱旋の時間だ。
城の中は酷い有り様だった。
壁の金箔は剥がれ、大理石には爪痕が大量にあり、ドアというドア全てが破壊されている。
何も知らない人が見たなら、
革命軍が攻めてきたのか?と疑うほどだ。
王宮の庭に出るとまたもや宰相が立ち塞がった。
怒りのあまり鼻だけでなく顔全体が赤く染まっている。
いや、お前のせいだから。
だが証拠があるわけでもないので
何も言わないことにする。
「アクリエス卿!何をしているのですか!
王宮をメチャクチャにして!反逆同然ですぞ!」
まるで自分は悪くないような言い方だな。
答える価値もない。
今回の事で懲りろ馬鹿。
数多の悪口が喉まで上がってきたが何とか飲み込んだ。
「黙ってろ、行くぞ!ノーグ!」
ノーグが飛び立つと赤い花弁が舞い上がった。
さながら赤い風といった具合だ。
さーて、今度こそマイソーカに帰るぞ。
ЖЖЖ
30分程でマイソーカについた。
特に心配なこともなく、アクシデントも無かったのはいいが……。
「これは一体何事だ?」
上空から確認した限り、皆俯いたり泣いたりしている。
何だ?誰か死んだのか?
だとしたら急いで確認しないとだ。
町の広場に降り立つ。
雑に敷かれた石畳、広場の中央に立つ巨大な時計、遠くに見える兵舎。
全てが懐かしい。
少し見なかっただけでこんなに懐かしく思えるのか。
ただ、懐かしくないものもある。
皆ポカーンと口を開けたまま突っ立ったって此方を見ている事だ。
「何だよ、労ってくれてもいいだろ?」
俺の声を聞くと皆凄まじい反応を示した。
ある者はその場に座り込み。
ある者は立ったまま大声で泣き出す。
またある者は涙を流して笑いながら走り去った。
何が何だかサッパリ分からない。
数分間唖然として立っていると、アジャスが慌てて駆け寄ってきた。
見れば彼の目は真っ赤に腫れ上がっており一晩中泣いていたことが一目で分かる。
どいつもこいつも泣きやがって、
一体何が起きた?
「大将!生きてたのか!」
「誰が死ぬか!ったく情けない面しやがって」
「普通あの高さから落ちたら死ぬぞ!」
「悪いが俺は普通じゃないんでな」
笑いながら小突いてやった。
鼻を啜りながらアジャスは無理矢理笑う。
「よく帰ってきた、本当によく帰ってきたな
大将!」
肩をポンポンと叩いて笑いかけてやる。
すると逆効果だったのか大声で泣き始めた。
いい年した男が泣いている割には回りの目は
暖かい。
中には一緒になって泣いている奴もいる。
「済まないな、心配かけた」
アジャスを彼の弟分に託し、第一部隊の兵舎に向かう。
他の奴等を探さないと。
特にレティアとザックとアンセル。
こいつらは何をするか予想が出来ない。
ЖЖЖ
兵舎に着くと中はいまだかつてないほど綺麗に掃除されており、椅子が同じ方向に向けて大量に並べられている。
その先にあるのは棺桶だ。
全ての座席に人が座っており
皆嗚咽を漏らしたり
啜り泣きをしていたりした。
何で葬式やってんだ?
そして棺桶には誰が入ってるんだ?
少しすると部隊の連中が泣きながら棺桶を運びはじめる。
棺桶は簡素だがとても良い木材で作られているのが遠くから見ても分かった。
まさか、俺の葬式じゃないだろうな?
「おい!誰の葬式やってんだ!」
俺の声に、参列していた人から驚きの声が上がる。
途端に広場と同じような光景が繰り返された。
嬉しいのは分かったから、落ち着いてくれ。
先頭で棺桶を運んでいたザックは目をパチクリさせ、自分の顔を殴る。
「痛え!夢じゃねえぞ!大将が帰ってきた!」
棺桶を手放し、皆泣きながら手を叩いて喜んだ。
ドンッという音を立てて棺桶が地面に落ちる。
そんなに嬉しいか?
「よう、死んでねえぞ?」
「空から落ちたって聞いたぞ!何で生きてんだ!?」
「宴会やらないで死ねるかよ!ほら、分かったなら葬式を止めて宴会の準備をしろ!」
「おうよ!お前ら泣いてねえで机を並べろ!」
グズグズと鼻を啜りながら兵士は立ち上がって椅子を退かし始める。
ふと見慣れた背中が視界に入った。
「アンセル!お前もここに居たのか」
振り向いたアンセルの顔はアジャスと同じように目が真っ赤に腫れ上がっている。
声をかけられ、アンセルは目を拭きながら笑った。
「本当に、死んでも死なない人だね」
ザックはアンセルの頭をグリグリと撫でながら
カラッと笑った。
目からダラダラと涙を流しながら。
「こいつ、一晩中シュドムは死んでないって泣いてたんだぜ?」
「ザックだって、な……泣いてたよね!
しかも今も泣いてるよ!」
「うるせえ!泣いてねえ!
目が溶け出してるだけだ!」
「……逆に心配になるよ、それ」
周囲からゲラゲラと笑いが起きる。
そうだ、こうでないとな。
第一部隊に暗い雰囲気は似合わない。
「ところで、棺桶には誰が入ってんだ?」
まだ釘打ちされていなかったので蓋を開けてみる。
中身は予想の斜め上を行っていた。
中に入っているものに親しみはあるし、
お世話になったと思う。
けどこれは入れないだろ?
額を押さえて顔を上げると俺はザックを見た。
「おい、これは何だ?」
「今朝死んだ……鶏だ」
相変わらず泣きながら答える。
鶏が死んだのがそんなに悲しいかっ!!
「……俺が鳥頭と言いたいのか?」
「そうじゃない。大将、肉好きだろ?あの世に行っちまっても肉が食えるようにと思ってな」
あぁ成る程な、理解はした。
納得はいかねぇ。
「だからって普通鶏を入れるか?怒りを通り越して滑稽に思えてきたぞ!」
「シュドム、滑稽じゃなくて烏骨鶏だよ!」
「馬鹿は黙ってろ!ったく意味の分からない事しやがって。宴会で食うから料理係に渡しとけ」
鶏をザックに押し付けると彼は泣いたまま鶏を持って地上に歩いていった。
……何も知らない奴が見たら面白いだろうな。
部隊の連中に言うことがあるので笑いを堪えながら近くにあった椅子に登る。
「おい、お前ら!よーく聞け!」
作業がピタリと止まり全員此方を見た。
「もし、俺が死んだなら葬式はするな!代わりに宴会を開け!俺は死んでからお前らが泣いてる姿を見るのは死んでも御免だ!返事は!?」
「「おぉぉぉぉお!!」」
久々に聞く第一部隊の雄叫びだった。
この音は隊が始まって以来ずっと聞き続けてきた。
ここを俺の居場所だと肯定してくれる声だ。
ソルネアス攻略の時も聞いていたが、やはり本場には負けるな。
「良し!作業に戻ってくれ!俺はレティアを探しに行く」
椅子を降りるとアンセルがそっと耳打ちしてきた。
「レティアなら部屋に籠ってるよ」
「そうか、ありがとな」
地上に向かおうと歩いていくとアンセルに呼び止められた。
「待って!」
「何だ?」
「お帰り!団長」
何だよ愛嬌のある事言いやがって。
俺は振り返らずに右手を挙げる。
「……今帰ったぜ」
ユルナス「レティアさん、開けて」
レティア「嫌です。今日は部屋の中で喪に服します」
ユルナス「その必要はないんだってば。
シュドム君帰ってきたよ!」
レティア「嘘です。もし本当なら彼は会いに来る筈です」
ユルナス「会いに行ってあげたら喜ぶと思うんだけどな」




