第十四項 寝耳に血
どうも。新参猫です。
お気づきだと思いますが、投稿直後はレイアウトが直せていません。通知を出した後には直っています。
日が暮れる頃。
全員の杯に酒が注がれ、全員の手に肉が渡った。町は人で埋め尽くされている。
宴の始まりを知らせる声を誰もが今か今かと待っていた。
ようやく廃材で作られた櫓にザックが現れると皆歓声を上げた。
その歓声に負けない声でザックは叫んだ。
「勇ましいジャルジュの勇士達に乾杯っ!」
「「乾杯っ!」」
わあっと叫び声が上がり、宴会が始まった。
サピエ、ジャルジュ関係なく兵士達は笑いあって肉と酒を貪っている。
あるものは語り合い。
あるものは肩を組んで同じ歌を歌う。
一際目立つのは今回の特別企画だ。
特別企画についてはノーコメントだ。
まあ兵士がこれだけ集めれば血の気の多い奴もいるわけで。
怪我しないと良いが。
会議室からその光景を眺めていると、猫が肉をくわえて隣に座った。
皿を貸してやると猫は肉を置き、クルリと宙返りをして変身した。
「よく取ってこれたな?ルナ」
「足元をすり抜けて取ってきたのよ。猫の姿はこういうとき便利なのよね」
肉を一口食べるとニッコリ笑ってニャアと言った。
「本当に猫みたいだな」
「元は猫ですもの。そういえば知っている
かしら?ジャルジュになるときに人間と動物どちらの自我が保たれるか」
そう言うと俺の杯をサッと奪い去る。
ルナを見るとケタケタ笑ってさあ答えは?
と聞いてきた。
どうやら正解しないと返して貰えないらしい。
「動物か?」
「残念、ハズレよ。人によって違うのよ。
お互い人間側、動物側っていがみあっている
けれど」
そう言って手に持ったノルト酒を飲み干した。
しょうがないのでルナの肉を少し貰うと口に放り込んだ。
ルナから抗議の声が上がるが黙殺する。
「そうかい。で、ルナはどっちだ?」
「私は動物側。うちの隊は全員そう。人間側のジャルジュは皆メルフィの隊に配属されるのよ」
だからうちの隊と相性が良いのか。殆ど獣だからなあいつら。
「そういう分け方か。だが人の記憶が残っていたら面倒じゃないか?」
素朴な疑問をぶつけるとルナは口の中の肉を
飲み込んでカップを取る。
だが、飲み干してしまったので当然中身はない。自業自得だ。
仕方ないと溜め息をつきルナは諦めて話を続けた。
「人間側と分かると、魔術で記憶を消されるのよ。それ後フォルスを崇めるように教育らしいわ」
「どうやって見分けてるんだ?」
「簡単よ。作られた直後は服を着ていないのよ。それで恥ずかしがれば人間側。そうでなければ動物側よ。」
そりゃ知らない人の前で真っ裸になれば誰でも反応するだろ。
えげつない選別方法だな。
「・・・意外と簡単だな」
「合理的よね」
暫く黙って飲み食いしていた。
が、ふと手を止めてルナがポツリと呟いた。
「それにしても、本当に仲良くできてるわね」
「だから言ったろ?とは言ってもほとんどザックのお陰だな。パルバールは流れ者に寛大な事で有名だからな」
「それにしたって得体の知れない種族と仲良くできるのね」
肉を食べ終わると、ルナは立ち上がって猫に姿を変える。
そしてニャアと鳴くと窓の外へ走っていった。
気紛れなのも猫譲りか。
ЖЖЖ
気が付くと床に寝ていた。
どうやら疲れていたらしい。
外を見ると皆だいぶ酔いが回ってきたようで騒ぎ声が一段と大きくなっていた。
「痛ててて。クソッやっぱり自分の部屋で呑めばよかった」
痛む体を起こすと部屋の端でぼんやり外を眺めるリュークが視界に入った。
リュークは俺が起きたことに気付くと骨付き肉を一つ投げてよこした。
何とか骨の部分を掴んで受けとり、肉を頬張る。口のなかに絶妙な塩辛さと柑橘系の香りが広がった。
「旨いな!この肉」
「だろ?俺の隊の料理担当が作った」
「良い腕の料理人だな。うちの隊にも欲しいよ」
「やらん」
「だよな・・・」
残念だ、と呟いて立ち上がると、リュークは窓の外を向いたまま独り言のように言った。
「・・・これからは食いに来ればいい」
「え?」
と、その時空き地からわあっと歓声が上がった。見ればザックがテヨンを肩車して何やら叫んでいる。
窓を開けるとザックの声が驚くほどはっきり聞こえてきた。
どうやら特別企画の結果発表らしい。
「優勝はジャルジュのテヨンだっ!偉大なる戦士に拍手!」
歓声と共に拍手が鳴り響く。テヨンは嬉しそうに雄叫びを上げた。
「へぇテヨンやるな!」
「当然だ」
どこか嬉しそうにリュークは言った。さっきの続きが聞きたいが。
まあまたいつか聞けるだろう。
「そして、お待ちかね!エキシビションマッチだ!相手は何と、大陸最強のサピエだ!
3つ数えたら俺が出番だっ!と叫ぶ。
その後、お前らは名前を叫べ!良いな?」
ほう、そんな奴まで連れてきたのか。
一体どんな奴だ?リュークも気になるのか
窓の外を食い入るように眺めている。
「1つ!」
町から笑い声が止んだ。
「2つ!」
皆が酒をテーブルに置いた。
「3つ!」
皆が息を吸った。そして―――。
「出番だっ!」
「「大将ぉぉぉぉお!」」
その声は天をも貫いたように思われた。
少なくとも俺の脳天は貫かれた。
聞いてない。そんな話聞いてない。
確かに特別企画と称して武闘会を開くのは目を
瞑ったけどよ。
「嘘だろ?相手がテヨンだぞ?勝てるかよ!?」
呆れて隣を見やるとリュークは腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。
「頑張れ。テヨンは強いぞ?」
「・・・。」
意気消沈して会議室を後にした。武器を取りに行かねえと。
ЖЖЖ
武器を持って表に出ると人垣が二つに割れた。
ゆっくりとテヨンの元に歩いて行くと、野次馬が声を上げた。
「やってやれ大将!」
「仇をとってくれよ?」
「大将に金貨5枚賭けたんだ。勝ってくれ!」
最後の奴は馬鹿だな。
勝てるかよ、あんなやつに。
試合会場につくと一際大きな拍手が起きた。
ザックが握手を求めてきたが当たり前のように
殴る。
「この間抜け!勝手に人をエキシビションマッチに使うな!」
「済まねえな大将。今回だけ頼む!」
ザックは勢いよく頭を下げる。
パルバールの連中の目が恐い。
ボスに頭を下げさせている訳だから当然と言えば当然だ。
仕方ないので今回だけだ、と言ってやるとザックは頭を上げて観衆に向き直った。
「試合開始前にあらためてエキシビションマッチのルール説明だ!
まず武器の使用は全面許可だ!ただし刃がついている武器は鞘をつけろよ!
次に本来なら空き地から出た場合失格にしていたが、エキシビションマッチでは範囲を
町全体まで拡大する!
そして最後だ!勿論殺しは禁止とする!
以上だ、わかったな!」
「「おぉぉぉぉ!!」」
そいつらに分からせてどうする、と口悪く罵ると剣を構える。
テヨンは嬉しそうにはしゃいでこちらに飛び掛かろうと構えた。
両者が勝手に準備を終えると、ザックは手を上に挙げて再度両者を交互に見た。
「さて、二人とも準備はいいか?」
「早くしろ。ザック。待ちくたびれた」
「くどいぞ。俺は早く寝たいんだ、早く始めろ」
そうかい、と落ち込みぎみにザックは答える。
そして息を思いっきり吸い込んだ。
次の瞬間―――。
「始めっ!」
有らん限りの声を張り上げ、手を降り下ろして
合図をした。
「りゃっ!」
先制攻撃に出たのはテヨンだった。
持ち前のスピードとパワーを生かして
飛び掛かってきた。
何とかそれを避けて構え直すと、テヨンが既に
二度目の攻撃をしようと目の前に飛び掛かって来ている。
大剣を盾代わりに使うが後方に吹っ飛ばされた。辛うじて受身をとり、
大剣を防壁代わりに地面に突き刺すと三度目の
攻撃を仕掛けたテヨンが激突して辺りに轟音が響いた。
「危ねえ・・・」
大剣を杖代わりにして立ち上がり、テヨンを
見下ろす。
刹那、テヨンが放った蹴りが頬をかすめた。
お返しに右手の剣をテヨンに叩き込む。
グッと呻き声を上げてテヨンはバックステップで距離を取った。
大剣を引き抜いて、今度はこちらから一気に距離を詰める。
左手の大剣と右手の剣をうまく織り混ぜて連続で剣を振るった。
しかしテヨンは全て楽々と避けて拳で反撃をする。
だが俺の方はそれも折り込み済みだ。
半身で拳を避けて大剣の腹で後ろから全力で殴ってやると、テヨンは綺麗に吹っ飛んで地面に叩きつけられる。
けれども、まだまだ余裕なのかすぐに立ち上がりこちらを向いた。
「青いの。本気出せ」
「嫌だね。俺はあの状態の俺が嫌いなんだよ」
「そうか。なら無理やりなってもらう」
そう言うとテヨンは足元の砂利を全力で蹴り上げる。
咄嗟に大剣で防ぐが運の悪いことに小石が眉の上にヒットした。
そして拭う間もなく血が目に流れ込んだ。
ЖЖЖ
再びあの感覚が体を駆け巡る。
制御できない感情に対する恐怖感もあるが、
それを上塗りする程の享楽感が徐々に恐怖感を
消していく。
口元に笑みがこぼれ、目は見開かれる。
大剣を肩に担ぎ、右手の剣を前に構えた。
「詫びを入れるなら今の内だぞ?」
「やっと本気を出したか。楽しみだ!」
笑いながら飛び掛かって来る。
同じ技を何回も使うのは愚作というものだ。
大剣を振るって横に弾き飛ばす。
が、吹っ飛ばされた先で壁を蹴って
再び飛び掛かる。
「つまらん」
今度は飛んできたテヨンを上に打ち上げた。
だが彼は笑みを崩さず、落ちてくる時に踵落としで反撃を繰り出す。
大剣でそれを受け、テヨンを弾き飛ばした。
いい加減このやり取りも飽きてきた。
体勢を立て直しているテヨンに向かって大剣を
投げつける。
テヨンは間一髪で避けるとチャンスといわんばかりに飛んできた大剣の柄を掴んで、そのまま投げ返した。
だが、彼が大剣を投げた先には誰もいない。何処に行ったか探そうとした途端、四肢に激痛が走った。
「ガッ!?」
背後を見たならば冷たい目の口だけ笑顔という異様な俺の姿が映ったことだろう。
残念ながら後ろを見ることも叶わずにテヨンはその場に崩れ落ちた。
会場に歓声が上がった。
ザックが何か言っているのは分かる。しかし言葉が頭に入ってこない。
体は燃えているように熱くなり、視界はますます紅く染まっていく。
次の相手は誰だ?と口が勝手に呟いた。
すると待っていたかのように後ろから氷水をかけられた。
塩が入っていたらしく目に入った時に凄く染みた。
ひとしきり目の痛みに悶絶した後、
後ろを向くとアジャスとレティアが立っていた。
「目ぇ覚めたか?大将」
「まだ冷却水はありますよ」
「いや、もう十分だ。助かった」
視界から血は洗い流されている。
もう少しあの状態が続いたらヤバかったかもな。
部屋に戻ろうと歩き出すと急に睡魔に襲われた。レティアが悲鳴を上げているのが遠くに聞こえる。
だが意識は長く続かなかった。
済まない、と言って俺の意識は完全に途切れた。
いかがでしたか?一章もだいぶ長く続いています。まだまだ続くのでお付き合い頂ければ幸いです。




