1-12 神の子とパーティーのその後
久方振りの投稿です
「・・・ここは・・・・・?」
目元に光が当たり、目覚める。そこに広がっている光景は石で作られた無機質な見知らぬ部屋だ。家具もなく、真ん中にベッドだけ、そこに自分は寝かされていた。
「すー・・・すー・・・」
「?」
自分しかいないはずの部屋に聞こえる寝息。辺りを見回しても誰もいない。しかし手元に違和感があり、視線を下げると手があった。その手は俺の手の上に重ねられており、微かに温かかった。
誰かと思い顔を見ると、驚いたことにレオナだった。俺にもまだ心を開いてくれていなかったのになぜ?と思い、じっとレオナを見ていると、
「ふぁーー・・・・・・・ふぇ?・・・・・・!!」
可愛らしいあくびとともに起きたレオナと目があった。
レオナは俺の手にのせている手を即座に引っ込めると恥ずかしかったのか少し距離を取る。
「や、やあ、おはよう?」
「・・・・・・・・」
挨拶をするも反応はない。顔は真っ赤でうつむいている。よほど恥ずかしかったのだろう。次になにを言おうか迷っていると、
「・・・・・・おはよう、ございます・・」
と返してくれた。はじめて返してくれたその「おはよう」の一言に嬉しさや恥ずかしさを感じた。だがやはり嬉しさのほうが勝っていた。
「どうしてレオナはここに?」
「・・・・・腕の傷が・・酷かったので・・回復魔法を定期的に・・かけていました・・・・・」
俺は自分の食いちぎられた左腕を見る。傷口はすっかりふさがり肉は見えないほどになっていた。
「これをレオナがしてくれたの?ありがとう」
レオナはまた恥ずかしがりうつむいて黙ってしまう。そのまま何を話せばいいか分からずにお互いに黙ってしまう。少しの沈黙の後、怪我はないか心配になり、尋ねようとしたとき、先にレオナの方が話しかけてきた。
「なんで、あなたは・・・私を、助けたんですか?見殺しにしていれば・・・腕も失わずにすんだのに・・・」
「なんでたすけたのか、か。俺は自分と親しくなった人が自分の目の前で死ぬのを見たくないんだ。それがたとえ最近知り合ったばかりの人でもね。・・・でもまあ、最大の理由は約束したからかな?」
「約束?」
その〈約束〉に覚えがないのか首をかしげるレオナ。
「この依頼を受ける少し前に言ったでしょ?レオナを囮なんかにはしない、守るって」
「っ!!」
レオナはそのときのことを思い出したのか目を見開き、驚いている。確かにあの会話は約束なんて大層なものではなかった。だからこそレオナは忘れていたのだ。約束ともいえないそれをソーキは果たしたのだ。自分の腕を犠牲にしてまでも。
「ど、どうしたの!?なんで泣いてるの!?怪我したの!?」
レオナの瞳からは大粒の涙が溢れだし、ベッドにこぼれていた。やがてレオナは声を上げながら鳴き始めたのだった。
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「大丈夫?落ち着いた?」
「・・・はい」
あれから十数分。泣いていたレオナは何とか落ち着きを取り戻し、会話できるまでになった。
「俺なんかしちゃったかな?ごめん」
どんな理由で泣いたのかはわからないが女の子を泣かせてしまったのは初めてのことで動揺していた。それゆえ自分に非があったと思い、謝ったのだ。
「・・・いえ、その、嬉しくて」
「嬉しい?」
「はい。私は父に裏切られて一人になりました。その後、街をさまよっていると盗賊に誘拐されたんです。周りには沢山の人がいたのに誰一人助けてくれなかったんです。父も街の人も助けてくれない・・・なら誰も信じないと決めたんです」
レオナは涙目になりながら過去の出来事を話す。命が軽いこの世界では人助けをする人はなかなかいないのだろう。
「そっか・・・それがあの態度と変装の理由なんだね?」
「す、すみませんでした!」
怒っていると勘違いしたのか慌てて頭を下げるレオナ。
「いやいや!怒っているわけではないから!頭をあげてよ」
まだ少し申し訳なく思っているのか、少しあげて上目遣いにとどまる。が、普通にしているだけで美少女なレオナが上目遣いをすると破壊力抜群だ!
「ま、まあ、レオナやみんなが無事なら腕の一本くらい安いものだよ。そういえば他のみんなは?」
ここがどこだかはわからないがレオナがいるということはみんなもいるだろう。
「他の方は別室にいます」
「そっか、じゃあ呼んできてもらっていい?」
「はい!分かりました、ご主人様」
そういってパタパタと足音をたてて部屋を出ていった。
「ご主人様?・・・え?呼び方が変わってる!?」
最後に言われた一言になぜ?、と思う。しかし当のレオナは部屋を出ていってしまい今はいない。その意図を聞くにしても他の三人のいるところで聞くわけにもいかず、二人きりになるまで先伸ばしにするしかなかった。
「はあ」
「あら、かわいい子にご主人様呼びされてため息をつくなんて。嬉しくないの?」
声のした方を見るとドアの所にナディアナがいた。腕を組んで仁王立ちでこちらを見ていた。その顔は犯罪者を見るような、そんな顔になっていた。
「や、やあ、ナディアナ。おはよう、いい朝だね」
「外は曇ってるわよ?」
ナディアナにさっきの場面を見られていたようで誤魔化そうとしたが、外は曇ってるらしかった。
「はぁー、まあいいけど。それよりも無事に目が覚めてくれて良かったわ」
「どれくらい寝てた?」
「半日くらいかな?正確にはわからないけど」
そこまで長くは寝ていなかったようだ。
「ロックとマットは?」
「ロックは・・・負傷がひどくてまだ気を失っているわ。マットはもう目が覚めて今は見張りをさせているわ」
「そっか、ロックは平気かな?」
「大丈夫よ。あいつは頑丈だから」
そう言うナディアナの顔は心配そうな顔をしており、先の言葉には無事であってほしいという願望が混ざっているみたいだ。
「ソーキは平気?その・・・左腕とか」
「うん、少し痛みが残ってるけど、平気だよ」
「そう、良かったわ」
俺の左腕のあった所を見て悲痛な顔だったが俺の言葉を聞いて少しは安心したらしく、柔らかな笑顔を少し浮かべた。しかしすぐにくらい顔に戻る。
「どうしたんだ?」
「その・・・ごめん!私は結果的にソーキに助けてもらった。それなのに私はあの力を使うソーキを見て恐いと思った。まだ知り合って数時間しかたってないけどソーキのひとつひとつの言動で優しい人だってわかってたのに。ソーキが倒れたとき恐怖でソーキに近づけなかった。本当にごめんなさい!」
余程後悔していたらしく下を向いて独白していくナディアナ。それを見て俺は(真面目だな)と思って少し笑った。
「な、なにがおかしいのよ!?」
「ごめんごめん。真面目だなーと思って。でも気にすることはないよ。そう思われても仕方ないくらい、恐ろしいほどに無情な力だからね。詳しくは言えないけど」
「そう・・・そういってもらえると少し楽になるわ」
その〈少し〉という部分にやはり(真面目だな)と思ってしまう。罪悪感は他人に言われて和らぐようなものではなく感じている本人が向き合うものだ。それに真面目なナディアナにどんな慰め方をしても自分自身が許さないのだろう。
「結局依頼は達成でいいのかな?」
重い空気をどうにかすべく話題を替える。ナディアナを気遣ったのもあるが単純に依頼がどうなったねか知りたかった。
「ええ。依頼は盗賊団の壊滅だもの。リーダと仲間数人はソーキが倒したし、残りは私とマットとレオナちゃんで片付けたしね」
「え?残り?」
「ええ、残り。ここは元盗賊の隠れ家だもの」
てっきりどこか森の廃虚かと思っていたが、戦ったやつらのねぐらだったようだ。
「って大丈夫だったの!?」
流しそうになったが俺とロック、負傷したお荷物を二人見ながら残党と戦ったということに気付き、驚く。
「ええ。気を失っていて私達のピンチになにも出来なかったのを気にしたマットが『醜態を、挽回する!』って張り切ってね。レオナちゃんも怪我をしたあなたを早く安静にしてあげたかったらしくて頑張ってたわよ?」
「そうだったんだ・・・二人には感謝しないとね。もちろんナディアナにも感謝してるよ」
「私は大したことはしてないわ。感謝するならレオナちゃんに私の分の感謝をしてあげなさい。あの子が一番貴方のために頑張ったんだから」
レオナがどれだけ頑張ってくれたのかは分からないが相当無理をしたことは分かる。さっきだって寝ていたのは自分の体力を回復するためだろうし、レオナは隠していたみたいだけど、俺の腕にのせられていた手に深々と傷があったのだから。
「うん。そうするよ。それでも、ありがとう」
「もう。あなたのほうが真面目じゃない」
苦笑いで答えるナディアナ。
「ソーキも無事だったことだし、そろそろ街に向かいましょうか。早くロックの容体を街で見てもらいたいしね。そうそう、荷物はベッドの下に置いてあるわ」
「わかったよ」
「あ、ナディアナさん。ここにいたんですね。マットさんがさがしてましたよ?」
ナディアナを呼びに行ったレオナが帰ってきた。入れ違いになって結局マットの所に行ったようだ。
「わかったわ。レオナももうすぐ街に向かうから準備してね」
「分かりました」
ナディアナが出ていきレオナと二人きりになった。ナディアナが話してくれた俺の寝ている間のレオナの話を聞かされてレオナの変化ぶりに少し照れていた。
「準備だって。レオナはもうできてる?」
「はい!ご主人様は荷物はありますか?」
「うん、ベッドの下に。それよりそのご主人様ってなに?」
「私はあなたの奴隷です。なのでご主人様呼びが一番ふさわしいと思いご主人様とよばせてもらってます!」
金色のしっぼを左右に振りながら笑顔で聞いてくる。その表情と声音から以前とは別人のようだ。
「ご主人様じゃなくて名前で呼んでくれていいよ?」
「いえ!これは私がそう呼びたいから呼んでいるだけです!だめですか?」
首をかしげながら聞いてくる。そんな状況でだめと言えるわけもなく・・・
「う、うん。まあいいや」
「ありがとうございます!」
また笑顔で返事をするレオナ。それを見て、前も可愛かったが、さらに可愛くなったな、と思った。
「ソーキ!レオナちゃん!そろそろ出発するわよ!」
外から大きな声で俺達を呼ぶナディアナ。
「分かったよー!今行く!」
立ち上り、荷物を取ろうとしたところ、左腕に痛みが走り苦悶の表情になる。
「ご主人様!大丈夫ですか!?」
「うん大丈夫大丈夫。少し痛かっただけだから」
「命じていただければご用意します!」
自分のせいだと気にしているようで涙目になりながら訴えるレオナ。
「分かったよ。じゃあお願いしようかな」
「はい!お任せを!」
元気な返事とともに素早く俺の荷物をまとめる。それを見て本当に別人のようだと改めて思った。
「ご主人様、用意できました!」
「あ、う、うん、ありがとう。じゃあそろそろ行こっか」
「はい!」
まとめた荷物を受け取り、部屋を出る。外に出るとロックを背負ったマットとナディアナが待っていた。
「遅い!」
怪我人に対しての第一声がそれはどうかと思うが、顔は少し笑っていたので冗談を含んで言ったようだ。
「ごめん」
「あ、無事だったんだ。良かったよソーキ君。戦いのときはごめんね、なにもできなくて」
ロックを背負っているため頭だけを下げる。
「いやいや、仕方ないよあの状況は」
はじめから味方に化けているなんて思いもしないだろうし。
「そういえばケインズの遺体は?」
「・・・なかったわ。奴等が魔物の餌にしたんでしょうね。本当に許せないわ。逃げたあのハーフエルフは必ず私達で殺す」
決意を胸に奴が逃げた方角を見る。復讐心に支配されることもなくその決意をしたナディアナは心の強い女性だった。自分とは余りに違いすぎて眩しい、羨ましい、そう思った。
「じゃあ帰ろうか。ロックの事も心配だしね」
「了解。行こう、レオナ。これからよろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
街に向けて歩き出す。失ったものも多くあるが、得たものもある。
左腕を見る。上腕から下がなくなっている。
隣のレオナを見る。以前とは違い笑顔を浮かべている。
得たものの大きさを実感しつつ森を行く。
「ちょっと!リーダー筋肉達磨だから重いんだけど!てつだってよ」
マットの訴えをスルーし、街に向い歩いて行く。




