8
──幽閉生活三ヶ月目の事。
俺はいつもの如くアルに蹂躙された後の事だった。
アルのレベルアップ音が俺の耳に届いた。
うらやましい。
そんな事を思っていても口にはださない。
ニートの俺に言う資格はないのだ。
「アル。今ので何レベルくらいになったんだ?」
「三十レベルだぜ」
その言った瞬間アルのシステムが起動した。
「クエストが更新されました。」
そう言ったのだ。
アルは慌ててクエスト確認した。
俺もアルのシステムを覗き込む。
クエスト名:願い。
クエスト形式:幽閉
クエスト難易度:O級
依頼主:匿名
クエスト内容:???を二つ手に入れる。
参加条件:二人
外部通信:不可
ワープアイテム:使用不可
クエスト分岐
達成条件:《アル》はソロで雷龍を討伐し???を手に入れる。
と書いてあった。
この書いている通りだったら、このクエストはソロ化したのだ。
総合報酬を受ける時は二人が達成したときにもらえるのだろう。
「俺一人で龍系統モンスター倒せってことかよ……」
龍系統モンスターは非常に強い。下位の雑魚として出てくるのがこれまた中ボスに匹敵するといわれるほどの強さなのだ。
基本ボスモンスターは複数の大規模パーティーで倒すの大前提のはず。
ましてや龍系統モンスターを一人で倒すのは厳しいの一言では済まされない。
「なぁ。提案なんだが、お前ならもうそろそろモンスターを倒せる頃じゃないのか?」
「多分──倒せる」
「だったら、いつまでも俺みたいな低レベルと戦って経験値を得るよりそっちの方がいいだろう。明日から狩りにいってこいよ」
「ミナトはどうするんだよ?」
「俺はイメトレだな。やっとまともに攻撃を繰り出せるくらいにはなってきたし……」
「でも……」
「正直に言わせてもらうとだな。ずっと負けっぱなしでもう嫌なんだよ。いい加減モンスターの肉も食いたいからさ、行ってこいよ」
「いいのか?」
「あぁ」
俺がそう言うと、
──ありがとう。
と俺に礼を言ってきた。
そういう事があって俺の練習相手はいなくなったのだ。
することが他にないので、素振りをはじめた。
基本攻撃は出来るようになったので、この日から技の練習をすることにした。
一時間ほどやったところで俺は倒れた。
疲れきってしまったのだ。
どうやら技の練習はスタミナを多く消費するらしい。
ひとまず休憩を取ろう。
俺は泉の岸で休憩を取ることにした。
ここ久しぶりに感じる暇というものを満喫したかったのだ。
そして俺は何を思ったのか泉にダイブする。
ヤベェ。気持ち良いわ。これ。
全身に水を浴びたのは一日目以来だったはず。
──泳ごう。
水の中で目をあけても目は痛くならないし、水は濁ってはいない。
全力で泳ぎを満喫するを決意したのだった。
──三分ほど泳いで一つ思った事がある。
この泉の水深が異常に深いのだ。
泉の底が見えない。
少し気になりだした俺は潜ってみることにした。
ゲームの設定のせいか三分程潜る事が出来たが未だに底は見えない。
こんな所で溺れ死んでも困るので水面を目指さないと。
HPがイエローゾーンに入ったあたりで水中から顔を出した。
そろそろ休憩も終わりにしよう。
再び技の練習を始めた俺は夕方になるまで続け、いつものように木の実を取りに行き、アルの帰りを待った。
もう帰ってこないんじゃないかと思った時くらいにアルは帰ってきた。
この日はアルの取ってきたモンスターの肉を焼いて食べ、木の実の絞り汁で喉渇きを潤した。
──この日の生活を九ヶ月間繰り返した。
13
全てが始まったあの日から一年が経過した頃──
願いの地に未だに取り残されたままの俺達はそろそろ本気を出すことにした。
俺のレベルは未だにLv3のまま。
アルはLv58。
始まりは同じなのにここまで格差が生まれたのは全てはスキルのせいだ。
俺がスキルを取らなかったせい。
この一年間。
俺はシステムアシストを受けることができず、ひたすら己の力を磨く事に全力を注いだ。
そしてこの有様だ。
職業はニート。
防具は初期装備のまま。
技スキルは一つも無い。
レベルはたったの三。
俺はこの一年間一体何をしてきたんだ。
そう思ったのだ。
何故こんな事を思い返しているのかというと、
明日、アルがついに雷龍と対峙するからだ。
ついに決心したようだ。
アルはそこまで強くなったというのに、俺はというと、
毎日イメトレと泳ぎとダガーを投げていただけである。
そしてなにより極めつけは
俺のニートのレベルがついに100になったのだ。
そしてランクアップしてエリートニートになった。
ここまでくると笑えない。
説明を見ると、
《エリートニート》:レアジョブ。
ここまできたらもうお仕舞い。
ニートを極めた者のみなることが出来る。
防具は重量1の物のみ装備可能
これ以上レベルが上がらない。というか上げないでください。
自身の全ステータス5倍。ただしニートには意味が無い。
このイラっとする説明文をを書いたのはどこどいつだよ。ゆるさねぇ。
これほどうれしくないレアジョブとかないだろ……。
ちなみにレアジョブとはなる条件が非常に難しい事から、非常に希少とされている。
基本的にはレアジョブが被る事はないとされている。
つまり、このゲーム内でエリートニートになれるのはたった一人だけで、
その一人俺がなってしまったのだ……。
最悪だ。
そう思っていたらシステムが起動した。
「称号:《伝説のニート》を手に入れました。」
いらねーよ。
さっきからイラついてしょうがない。
明日、龍の間まで一緒に行くって言っちまったし、今日はもう寝よう。
今日一年ぶりチームプレイというものした。
龍の間はこの願いの地の真ん中に位置するのだが、
底に向かう途中まで間アルと一緒にモンスターと戦った。
といっても俺が一回攻撃当てたあとあとは全てアルに任せただけなのだが……。
龍の間に向かう間だけで俺のレベルは15にまで上がったのだ。
もうすぐ別れだというのに俺のテンションは上がりまくっていた。
「ついたぞ。ミナト」
「ここが龍の間か……」
中央に石版があり、それ中心に円形状の遺跡が広がっていて、左右対称に大きな扉あった。
思わず石版の前まで移動した。
石版にはこう記されている。
願いを叶えたくば進め。
名誉望む者、左に進め。力望む者、右に進め。
その二行だけだった。
正直どうでもいいのだろうが、すこし気になったのだ。
今はとりあえず話を切り出そう。
「アル。決戦前で申し訳ないんだが、俺と決闘してくれないか?」
アルは振り向くと──
「いいぜ。次会うのがいつになるかわかったもんじゃないからな!」
アルとの決闘は九ヶ月ぶり。
それまで俺がどれだけ強くなったのかを見せつけてやる。
それにしてもLv15になっただけでもめちゃくちゃ強くなった気がする。
「ルールは九ヶ月前のと同じでいいな?」
俺がそう確認取ると、
「あぁ」
と頷いた。
システムを起動させる。
「決闘モードを開始します。両者とも用意ができたら武器を構えてください」
そうシステム音声が流れた後、俺達は武器を構えた。
「決闘──開始」
俺がこの九ヶ月間で鍛え上げた物は──技。
それだけではHPと防御が極端に低い俺に勝機はない。
そしてさらに鍛えたのが攻撃を受け流す事。
これがあれば打撃ダメージで削られる心配は必要ないからだ。
そして俺の最大の武器になるものが──速度。
異常なまでに鍛えぬいた俺の技の速さはオープンβ時代にお世話になったシステムアシストのスピードを軽く凌駕している。
これをうまく使えば少しはまともな勝負が出来る。
まずは相手の攻撃を誘う事が先決だ。
「来いよ。」
どうやらアルは俺に気を使って打ち込んでこないみたいだ。
でもそれじゃだめだ。
──ここはまだ踏み込むべきじゃない。
「来ないならこっちから行くぜ。」
痺れを切らしたのか、どうやら向こうから攻めてきた。
大丈夫──落ち着いてやれば。
タイミングが重要。
刃がぶつかり合うその時を待った。
──今だ!!
俺はアルの攻撃を左に受け流した。
そしてアルが体制を崩した時をここぞとばかりに反撃をする。
──燕返し。
一年前では全く使い物にならなかったこの技だが、今では違う。
三つの刃をほぼ同時に近い、超高速で繰り出す。
見事に全ての斬撃を当てることが出来た。
アルにダメージを与えたのはこれが初めて。
急所にも当たったみたいなので、アルの生命線は黄色を示した。
残りあと二割を削れば──俺の勝ち。
「お前──いつの間にそんな技スキルを取得したんだ……?」
「そんな物は持ってない。自分で鍛え上げただけだ」
するとアルは驚きを見せた。
「──どうやら手加減は無用らしいな」
「最初から本気だしとけよ。」
──じゃないと、負けるぜ?
俺は心の中で呟いた。
残り二割。
それくらいなら俺の居合い切りが削ってくれるだろう。
俺は刀を一旦仕舞い腰を深く落とした。
アルも察したようで、斬り掛かって来た。
俺の居合い抜きの範囲ギリギリの所まできた瞬間。
俺は刀を光のような速さで抜刀した。
しかしそこにアルはいなかったのだ。
「デルタスラッシュ!!」
その声は俺の頭の方から聞こえた。
居合い切りは刀を抜刀して斬りつけたあと鞘にしまう技だ。
このままじゃ間に合わない。
そのままなすすべもなくアルの三連撃を受けた俺は負けた。
「ありがとな。楽しかったぜ!」
俺はアルにお礼をいった。
「お前は間違いなく最強の15Lvだな。今まで戦った中で一番強かったぜ!」
アルは俺にそういってくれた。
練習した甲斐があるもんだ。
「まぁ、次戦う奴の方が強いんだから、そんな事言ってるようじゃあぶねぇな」
「それもそうだな」
と笑うアル。
一旦話に区切りがついた所で、
──そろそろ別れの時間である。
「行けよ。」
俺はそう言った。
俺を残していくのは流石に行きづらいだろう。
だから俺が言わないとダメなんだ。
「いいのか?」
心配そうにアルが俺に聞いた。
「あぁ。」
「なぁ、ミナト。何かあったらこの場所に必ず戻ってくるから──」
「──わかった。」
「絶対に──死ぬなよ……」
「それは俺のセリフだ──」
──じゃあな。
と互いに言った後。
──彼は扉を開いたのだ。
──また会おうぜ。
俺は心でそう呟いた。