Vol.01 Ch.007② 意外な五人組
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4月16日、土曜の昼。1年D組。
「高木、ちょっと頼みがある。」
「高木くん、こんにちは。」
紫木を連れて、高木のところへ向かった。
高木は顔を上げ、僕の後ろに紫木がいるのを見た瞬間、何か言いかけたが、すぐ眉を寄せて飲み込んだ。
「Yo~何すればいいんだ?」
たぶん、最初は「Yo~おカップルで俺に何の用?」とか言いかけたんだろう。
「今日の練習前に、少しバスケコートに付き合ってくれないか。僕と紫木、クラス対抗バスケの記録をやることになってさ。紫木にルールとか記録の見方を教えたいんだ。」
「Oh~そこまで言うなら付き合ってやるよ。」
「ありがとうございます、高木くん。」
殴りたい。
でも紫木は、高木のあの軽い口調をまったく気にしていないらしい。
「望月って、記録のやり方も知ってるっぽいよ。頼んでみたら?」
おっ。珍しく有益な情報だ。もしかしたら、望月なら僕にも教えられるかもしれない。
あれ?なんか急に、バスケという競技にそこまで詳しくない気がしてきたな。アシストって何だっけ。スリーポイントラインってどこだっけ。
よし、あとで望月にマンツーマン指導でもお願いするか。
「何の話してるの?」
鞄をまとめ終えた望月が、ちょうど高木の席まで来た。事情を説明すると、望月もあっさり協力してくれる。
「紫木さんも一緒にご飯行きませんか?」
「えっ?私も?いいんですか?」
なんだこの天使みたいな行動。さすが望月だ。
「もちろんです!あ、奈奈ちゃんもちょうど来ました。こっちは私たち野球部のもう一人のマネージャー、加藤さんです!」
こうして、妙な五人組ができあがった。
教室後ろのバスケボールを持ち、そのまま昼食へ向かう。
加藤と望月が紫木を囲んで話している間、横を歩く高木が、指でボールを回しながら小声で聞いてきた。
「で、お前ら昨日の朝、どうだったの? マジで一緒に泊まったの?」
うっ、そうだ、彼は当日の目撃者だったな。
「誰に聞いた?」
「いや、勘だけど。」
「そんな噂、出てないよな?」
「俺の知る限りはない。」
それなら少し安心できる。
「まあ、いろいろあったのは事実だけど、別に何かあったわけじゃない。」
「だろうな。」
「ただ、広まると紫木が困るかもしれない。」
「Oh~安心しろ。俺、秘密を守るのが専門だ。」
「望月にも言うなよ。」
「了解了解。」
必死に否定するより、こういう曖昧な返しのほうが高木相手にはちょうどいい。どうせ深く追及しない。ただ、過去の感じだと望月に少し漏らす可能性はあるが。
「望月たちってすごいよな。つい最近までほぼ他人だったのに、もうあんなに楽しそうに話してる。」
前を歩く三人を見ながら、思わずそう口にする。
「女って、だいたいそんなもんだろう?」
「まあ、そうだな。」
昼食を簡単に済ませ、学校へ戻り、四百メートルトラックの中央にあるバスケコートへ向かった。真昼なので人は少ない。
適当なコートを選んで鞄を置くと、加藤が珍しく自分から話しかけてきた。
「時間、結構かかる?」
「まあ、少しは。でも練習前には終わるよ。」
「そっか。」
そう言って加藤は、鞄から折りたたみ傘を取り出した。
「奏音ちゃん~紫木さんも、一緒に入る?」
どうやら日差しを浴びたくないタイプらしい。野球場のベンチは午後になると西日が当たらないから、今まで気づかなかった。
そんなに太陽が苦手で、本当にマネージャーできるか?
待って、何だ今の。奏音ちゃん?
「はい。ありがとうございます、加藤さん。」
「私はいい!ちょっとバスケ触ってみたい!」
この二言だけで、紫木と望月の性格差がよく分かる。
そうして僕と高木と望月は、軽くシュートやドリブルをしながら、コートのラインや記録表の見方を紫木に説明した。必要に応じて、高木や僕がスティールやブロックの動きも見せる。
二時頃、加藤が時間を知らせてくれた。そこで一度解散し、僕と紫木はボールを教室へ戻し、高木たちは野球場へ向かった。
「どう?少しは分かったか?」
良見楼へ戻る途中、紫木に声をかける。
「うーん……たぶんね。望月さんが記録表を説明してくれたのは分かりやすかったけど、テクニカルファウルとか、アンスポーツマンライクファウルとか、ああいうのはちょっと抽象的すぎて……」
たしかに、そのあたりを説明していた時、紫木は途中から完全に処理落ちしていた。
「そこは僕が見るから大丈夫。」
そう言うと、紫木は少しだけこちらに顔を向けて、安心したように笑った。
「羽冬がいてくれて助かる。もともと私を巻き込んだの、羽冬だけど。」
「おい、巻き込むはひどすぎるだろ。どうせなら僕らに分かる競技のほうがいいだろ。」
「はいはい。」
教室へ戻ってボールを置き、僕は立ち上がって振り返る。
その瞬間、すぐ後ろにいた紫木の近さに気づいた。慌てて止まったものの、もう少しで顎にぶつかるところだった。
……いや、君、近すぎるだろ。
「うっ……」
「ご、ごめん! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
顔をそらした紫木が目を開け、確認していた僕とちょうど目が合う。
……近い。
さすがにこの距離だと、男なら鼓動が少しくらい速くなっても仕方ないだろ。
気づけば、体は反射的にドアのほうへ逃げていた。
「このあとどうするんだ?」
少し距離を取ってから尋ねる。
「私?そろそろ帰って勉強かな。」
「相変わらず真面目だな。」
「当然でしょ。いつもちゃんと勉強してるから、たまには今日みたいに安心して友達と過ごせるんだよ。」
普段から勉強しているのは、単に成績のためじゃなくて、そういう意味もあるのか。
「じゃあ、校門まで送るよ。僕は練習ないし、少しくらい遅れても平気だから。」
「え、そんなに優しいの?もしかして本気で私を口説いたい?」
久しぶりに聞いたな、そのセリフ。
「嫌ならやめるけど。」
「ちょ、待って。分かったから、少し付き合って。」
校門で紫木と別れたあと、ゆっくり野球場へ向かった。
最近、一人になるとどうしても思い出す。
紫木姉に言われた、あの頼み。
どうすれば、紫木姉の望む「傷つけない」になるんだろう。
そもそも、彼女の言う「傷」って何だ?
―『女の子を、本当の傷を残すようなことはしないでね。』
望月なら、分かるんだろうか。
野球場へ着いて望月と加藤から聞いた話では、平日は来ない三年の先輩たちも、土曜だけは時々顔を出すらしい。今日も数人来ていて、他の一、二年とは明らかに実力差があった。正直、次元が違う。
幸い、望月先輩は来ていなかった。だから気楽に望月と話せる。けれど、こういう話はやはり二人きりのほうがいい。加藤が近くにいたら、さすがに切り出しづらい。
「望月。」
「どうしたの、羽冬?」
ちょうど加藤がふらっと離れ、ベンチに僕と望月だけが残った時、声をかけた。
「今日の練習が終わったら、少し付き合ってくれないか。」
望月の表情はほとんど変わらない。でも、何かを考えているのは伝わってくる。いつもの軽口と違う僕の声を、たぶん測っているのだろう。
「分かりました。」
その返事と表情は、普段の柔らかなものとは違い、前に一度だけ見たことのある、少し悲しさを帯びたものだった。
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