第2夜 第1話 【 マケドニアの制服、あるいは鎌倉のピラミッド 】 ギリシャの教室と紫の煙 【時空の彼方・40億年未来のどっかの高校・化学室 】
化学の教師:「えー、では各自、アルコールランプに火を点けて、この液体を180度まで加熱するように。魔界、お前さっきから何ぼーっとしてるんだ」
魔界光命:「いや、先生。俺の脳内スマホの量子演算ログに、なんか変なノイズが走ってるんすよね。嫌な予感がするというか、そろそろ定期便が来る時間というか……」
化学の教師:「何をわけのわからないことを。早くマッチを擦りなさい」
魔界光命:「あーあ、擦っちゃったよ。ほら見ろ、火じゃなくて紫色のマゼンタピンクの煙がモクモク出てきたじゃん。これ普通のアルコールじゃなくて、時空転移用の高濃度触媒の匂いだわ。メンソール系バルサンの味がする」
化学の教師:「ひえっ!? なんだこの煙は! 換気扇を回せ! 避難訓練だ!」
魔界光命:「あ、先生、俺ここで強制シャットダウン入るんで、今日の現代文の宿題はクラウド経由で出しときます。じゃ、おやすみなさーい……(ドサッ)」
化学の教室一同:「魔界が倒れたぞー! 保健室ーっ!!」
(意識が40億年先の光回線から完全に切断され、暗黒の次元の狭間をスライディングで落下していく魔界光命。抗えない睡魔の果てに、大天使ガブリエルⅡにして浦和から来た第六天魔王のソウルが、新たなる肉体へと強制ダウンロードされていく――)
【時空がゲシュタルト崩壊した古代エジプト・アレクサンドリアの神殿】
魔界光命:(ドサァッ!! という凄まじい着地音。背中から夜空の星々を宿した純白の巨大な六翼を広げ、周囲の砂嵐を吹き飛ばしながら起床)
魔界光命:「……うっわ、まぶし。何この直射日光。紫外線強すぎだろ。てか、ここどこ? 脳内スマホ、GPS同期して」
脳内AI(ホログラム音声):『ピピッ。現在地:古代エジプト・アレクサンドリア近郊。なお、背景に見える巨大な山は日本の富士山です。時空の倫理がバグっているため、地学的な整合性は完全に喪失しています』
魔界光命:「エジプトの裏山が富士山って、どんなコラ画像だよ。で、俺の今回の装備は……何これ。日本の男子高校生が着る標準的な学ランのズボンとローファーの上に、なぜか金ピカの彫刻が入った古代ギリシャ風の胸当て(ローリカ)を着せられてるんだけど。マントも真っ赤だし。何この『マケドニアの制服』ってジャンル。コスプレの方向性が渋滞してんだよ」
クレオパトラ:(神殿の陰から、ジャラジャラと豪華な宝石の音を立てて駆け寄ってくる)
「ああ……! おお、アレクサンダー様! いや、大天使ガブリエルⅡにして魔界光命様! お待ちしておりましたわ!」
魔界光命:「うわ、びっくりした。君が今回のヒロイン? 顔立ちが世界三大美女のクレオパトラそのまんまだな。でもちょっと待って。俺の脳内世界史データだと、アレクサンダー大王とクレオパトラって生きてる時代が300年くらいズレてるはずなんだけど」
クレオパトラ:(光命の漆黒の南蛮胴具足と純白の六翼にしがみつき、潤んだ瞳で見つめる)
「そんな過去の細かい年表など、この超現実の世界では何の意味も持ちませんわ! ああ、なんと冷徹で色気のあるお顔立ち……それにこの逞しい腕……! 触れているだけで、私の魂の輝きがあなた様の翼に吸い込まれていくのが分かります!」
魔界光命:「あ、本当だ。君の愛欲と信仰の出力が高すぎて、俺の背中の六翼が勝手にフル充電されていくわ。部屋の蛍光灯より明るくなってんじゃん。で、君は何に困ってるわけ? 早く助けて観光して帰りたいんだけど」
クレオパトラ:「聞いてくださいませ、光命様! 今、この神聖なるエジプトの地に、極東の島国から恐ろしい軍勢が押し寄せ、我が国を不当に支配しようとしているのです! あやつらはピラミッドの周りに木造の鳥居を建てまくり、ナイル川の利権を強奪しようとしております!」
魔界光命:「極東の軍勢? エジプトに? 誰だよそんな無茶苦茶な拡張パック入れた奴」
【ズシーン、ズシーンと、神殿の床が規則正しく揺れ始める】
鎌倉武士A:「者ども! 征夷大将軍の御前である! 頭が高い、控えおろう!」
魔界光命:「征夷大将軍? 嘘だろ、まさか……」
源頼朝:(全身を真っ黒な大鎧で固め、威風堂々と白馬に乗って神殿のド真ん中に入場)
「我が名は源頼朝。これよりこの地を『鎌倉幕府・エジプト守護地頭所』と定める。クレオパトラよ、大人しく我が御家人となり、平家の残党が隠れていると噂されるピラミッドの鍵を引き渡せ」
魔界光命:「おいおいおい、頼朝さんじゃん。いい国作ろう鎌倉幕府の頼朝さんじゃん。なんで1192年前後の鎌倉武士が、ラクダの代わりに白馬に乗ってスフィンクスの横を闊歩してんだよ。時空の倫理が完全にログアウトしてんじゃねえか」
源頼朝:(冷酷な目で光命の六翼と学ランのズボンを凝視する)
「ふん、見慣れぬ南蛮の鎧を着た小倅め。その背中の大きな鳥の羽はなんだ。平家の妖術か?」
魔界光命:「鳥の羽じゃなくて大天使の六翼な。あとこれ南蛮の鎧じゃなくて、40億年先の未来の量子ナノベースで作られた浦和の第六天魔王スーツだから。頼朝さんさぁ、君のやってること、歴史の教科書の編纂者が全員頭抱えて有給取るレベルの大バグだよ? 鎌倉からエジプトって、通勤距離どうなってんだよ」
源頼朝:「黙れ! 異国の法など我が幕府には通用せん! 御家人たちよ、その生意気な未来のDKとやらを捕らえ、由比ヶ浜の刑場(※現在はナイル川流域に設定)にて処刑せよ!」
鎌倉武士たち:「オオオオッ! 恩賞の土地(エジプトの砂漠)のために、アレクサンダーを討ち取れーっ!」
クレオパトラ:「キャーーッ! 光命様! お助けになって! 私、頼朝の側室にされたら、毎日鎌倉のしらす丼を食べさせられる拷問を受けることになってしまいますわ!」
魔界光命:「しらす丼は普通に美味いから拷問にはならないと思うけど……まぁいいや。せっかくクレオパトラちゃんから最高級の信仰エネルギーもらったし、俺の本尊は『女の子を守るため』にしか本気出さない仕様だからね。聖剣『浦和』、抜刀させてもらうわ」
(光命が腰の十字架型の日本刀『浦和』に手をかけた瞬間、神殿の空間全体がパキパキと青いホログラムのグリッド線で覆われ、40億年先の演算能力が発動する――。第一話・完)
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