1話
90歳の女の子を見たことがありますか?
私はあります。
休みの日。
図書館での話です。
私は本を探していました。
受付カウンターに人がふたりいました。
ひとりは司書さんです。
もうひとりは、お姉さん? です。
上着は花柄。
うしろ姿はまっすぐ。
足もしっかり。
顔はここから見えませんが、若いようです。
『こんにちはー』
明るく可愛い声です。
『この本面白かったの!』
「良かったですね」
司書さんに話かけています。
司書さんは楽しそうです。
迷惑ではなさそうです。
『また面白い本を教えて欲しいのー』
「それはカベに張り出してきますから」
『うん、そうね。でもできたら皆さんから聞きたいなーって』
「ははは。手があいていましたら」
『ごめんねえ、手をふさいじゃった?』
「いまは大丈夫ですよ」
自由で良いですね。
私は笑いつつ目当ての本を探しました。
本がありました。
それは室町時代の舞台物語です。
そとばこまち。
漢字では卒塔婆小町と書きます。
それは、絶世の美女が落ちぶれたお話。
そして、かつての恋人にとりつかれるお話。
「要点はこうなるかな」
あるお坊さんが歩いています。
すると人に出会いました。
姿はボロボロの着物です。
どうやら、おばあさんらしいです。
そのおばあさん、疲れたのか座ります。
座ったのは卒塔婆の上。
なんと亡くなった人をいのるための物に座ったのです
お坊さん「こら、あなた」
おばあさん「なにか?」
お坊さん「それは卒塔婆だ。腰かけてはいけない」
おばあさん「どうして?」
お坊さん「それは仏様だからだ」
おばあさん「なら良いじゃない」
おばあさん「私ももうすぐ仏になるわ。あの世に行くわ」
お坊さん「その木は尊いものなのだ」
おばあさん「私も見た目はかれ木みたいよ。でも心にうもれた花があるの」
お坊さんはおばあさんの言葉におどろきます。
お坊さん「あなたは知恵がある。何者ですか?」
おばあさん「私はかつて、小野小町と呼ばれた者」
お坊さん「なんと小町。あの美女と言われた」
おばあさん「歳をかさねて99歳。100歳までもあとひとつ」
小野小町は花の美女でした。
それが目の前、かれ木のおばあさんになっています。
この後、突然、悪霊が出ます。
悪霊は小町の元恋人のようです。
小町にとりつき、過去の出来事を語らせます。
悪霊と小町「小町はあまりに色が深い」
悪霊と小町「手紙を送るも返事はない」
悪霊と小町「通うも応じてくれない」
悪霊と小町「ゆえにとりつきともに舞う」
悪霊は恋心をもとに小町と舞います。
やがて悪霊ははなれ、小町は元にもどります。
悪霊はおそろしい。
こんな怖いことにならないよう。
仏様を信じましょう。
それが舞台の終わりでした。
「悲しい話だなぁ」
私の感想は簡単でした。
「美人がやがて色あせる話だもんなあ」
「老化がこわいのは670年以上続く思いなんだ」
「若くなれたらなあ」
『ちょっと、お兄さん』
おや?
この声は?
ふり向くとその姿が。
上着は花柄。
うしろ姿もまっすぐ。
足もしっかり。
顔は・・・・・・
お、お姉さん?
おばさんではない。
おばあさんでもない。
見た目から歳が分かりません。
大人なのは分かります。
でも顔がピカピカしています。
アレやくすみが見えません。
あるはずなのに感じられない。
『お兄さん? なに読んでるの?』
「え、 ああ、これは昔話ですよ」
『なんて話なの? 知ってるかも』
「卒塔婆小町っていいます」
『あら、室町の演劇じゃない』
「え、ご存じなんですか?」
『ええ、好きなのその話』
『だって、若返りの話だもん!』
「え? 若返りですか?」
『そうよ。小野小町は恋人にとりつかれたよね?』
『その時若返ったの』
『好きな人と一緒になることでね』
「そんなお話だったんですか?」
『ええ。もっと聞きたい?』
「お願いします」




