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3話 臨海学校

「はーい、事前に組んだグループ順にバスに乗り込んでね」


 引率の教師が、バスの入り口に立って生徒たちを誘導する。


「ボクの隣でいい?すみれちゃん」

「は、はい……!」

(望月先輩を差し置いて、ましろ先輩の隣に座れるなんて……!)

「……全員乗り込んだ?それじゃあ出発するわよ」


 ◇◇◇


「……ましろ先輩」

「何?すみれちゃん」

「……いえ、その。なんだか先輩、いつもより積極的な気がして……」

「え?……そうかな?気のせいだよ」


 すみれの気のせいではない。ましろは銀の鍵の巻き戻りが発動した時にすみれが側に居たことを気にしており、すみれに何か異変が起こらないかどうか、神経質になり見張っている。


「すみれちゃん、何かあったらボクが守るからね」

「……!はい!ありがとうございます!」

(今朝やったおまじないの効果かしら?ましろ先輩、やっぱりいつもより積極的だわ……)


 その光景をバスの1番後ろの席で並んで座っていた来夢、鵜久森、綺羅々、林檎は何も言わずに見守っていた。

 しかし、来夢は顔を開いた小説に埋め、内心焦っている。


(ましろさん……。以前、諸星さんへの感情はそういう好きではないと言っていましたけど……。少し距離が近すぎるのでは!?)


 ◇◇◇


「やったー!!海だー!いえーい!!」


 到着した海を目の前に、水着に着替えた綺羅々がはしゃいでいる。白と黒のツインテールが元気よく靡く。


「……ど、どうですか、ましろ先輩」

「うん。よく似合ってるよ、すみれちゃん」


 ましろの前に現れたすみれは、髪を一つに束ねてポニーテールに結い上げていた。水着は自由だが、すみれは露出は控えめのフリルが付いたキャミソール風の水着を着用している。


「泳ぐのかい?なんならボクも行くよ」

「ましろ先輩……、その浮き輪。もしかして、泳げないんですか?」

「大丈夫。浮き輪があればなんとかなる!……かなぁ」

(こ、これは……、ましろ先輩がもし溺れたら、人口呼吸をするチャンスかしら……!?)


 すみれがましろの為に海岸で潮干狩りでもするべきか、海に入って泳ぐべきか迷っているところで、黄色い歓声が辺りに響いた。


「すっごーい!夜闇くん、サーフィン出来るんだ!」

「カッコいいねー!」

「……ましろさんも、あのくらい出来たらよろしいのに」

「ボクにサーフィンをやれって言うの?ムリだよ!」


 波乗り絶好調の夜闇鴉を眺めながら、来夢は深いため息を吐いた。


「大丈夫です!サーフィンなんて出来なくても、ましろ先輩は十分カッコいいですから!」

「すみれちゃん……」


 すみれはそう言うが、ましろが浮き輪を抱えているせいで、いまいち締まらない場面となる。


「こりゃダメですわ」

「あはは……。ましろくん、せめて泳げれば様になるんだけどね……」


 ◇◇◇


 海での時間を終え、ラフな服装に着替えた生徒たちは、夕飯のカレーの仕込みや寝床となるテントの張り付けを行っていた。


「やっぱり、材料からして店で作るカレーとは異なりますわね」

「とろりと言うよりはさらさらしたスープカレーになったね」


 鵜久森が小皿にカレーを掬い、味見をする。その間、ましろはテント張りに勤しんでいた。


(テント張りはインフィニティ・オンラインでもやったけど、結構体力使うなぁ……)


 杭を打ち込みながら、ましろはぼんやりとあの時を思い出す。


「ましろくん!夕飯のカレーが出来たよ!」


 鵜久森が駆け寄って来て、ましろに声をかけた。ましろは額に流れた汗を拭いながら不機嫌そうに呟く。


「隠し味にチョコレートがないカレーですか……」

「あ、そっか……。ましろくん、チョコレートは……」

「暑いから持ってきてませんよ。夏の嫌なところは、暑さでチョコレート類やクリーム系のお菓子を持ち歩けないところですね。飴玉も溶けやすいし」


 夏はアイスが美味しい反面、そう言った部分が嫌なところがある。ましろは嘆きながらもキリが良いところで作業を中断し、みんなが集まるキャンプ場の調理場に足を運んだ。


「隠し味には林檎を入れたから、少しは甘いと思うけど……」

「そう言えば、林檎はどこに?」

「バードウォッチングに勤しんでるよ。あ、いたいた!おーい、林檎ちゃーん!」


 スケッチブックと色鉛筆を手にして佇んでいた林檎に、鵜久森が声をかける。林檎は作業を中断して調理場へと駆け寄ってきた。


「……じゃあ、みんな揃ったところで」

『いただきまーす!!』


 ◆◆◆


「ふー、お腹いっぱいだ……」

「サラダとカレーだけですのに、大自然の中で食べるのと普段食べるのではこんなにも違うなんて」


 鵜久森と来夢は水場に並んで食器を片付けながら、大自然の恵みに感謝する。


「……いいのかい、来夢ちゃん?ましろくんとすみれちゃんを2人きりにさせたりして」

「な、なんのことですかしら?わたくしはあの2人のことなんて気掛かりではありませんわよ」


 鵜久森にストレートに聞かれ、来夢は洗剤で泡まみれの食器を落としそうになる。


「ましろさんが諸星さんに抱いている感情はそういうものではないとわかっている以上、心配することは何もなくって」

「……でも、もし途中で心変わりとかしたらどうなるのさ?」

「それは……!」

「この後、夜に肝試しがあるけどペアにましろくんがすみれちゃんを選んだら……」

「鵜久森さん?少々こちらの関係に首を突っ込みすぎではなくて?」

「うっ……。ごめん、来夢ちゃん……」


 その後、長い沈黙の中、2人は食器を全て洗い終えた。

 日はすっかり落ち、暗闇が森を包み込む。


 ◆◆◆


「お待ちかね、肝試しの時間だよー!ペアはくじ引きで決めようね!」


 綺羅々が用意したのは、先端が隠された紙の色が同じ人がペアを組むといったくじだった。

 ましろ、来夢、鵜久森、綺羅々、林檎、すみれ。6人が一斉にくじに手を伸ばし、綺羅々が「せーの」と掛け声をかけ、全員の紙の色が顕になる。


「ボクは……、すみれちゃんとペアだね」

「ましろ先輩……」

「っ……」

「来夢ちゃん……」


 ましろとすみれ、来夢と林檎、鵜久森と綺羅々というくじ引きの結果が出て、来夢は用済みのくじをぐしゃりと握り締めた。


「10分おきにここからスタートするよ」

「さぁ、行こうかすみれちゃん。早く終わらせてテントに帰ってこよう」

「はいっ……!」


 素早くすみれの手を取るましろを見た来夢の心に、ずきりと見えない痛みが走る。


「ましろさん……」


 来夢が何か言う前に、ましろとすみれは深い森の中へと消えてしまった。

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