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第41話 ギルド支部長は招かれざる客を見た

休憩の後、会議が再開された。


引き続き、ウォルター様が司会者として進行を取り仕切られる。


「会議再開にあたり、今回のゴブリン殲滅戦の概要を説明します」


そう言われて、配られた資料に目を通す。資料には地図が添えられており、今回の作戦内容がメモと矢印で記載されていた。


地形の概略を説明すると――


今回の戦場は、森・湖・渓谷・草原という四つの地形が連なっている。


ゴブリン集落がある森の南の奥には二百メルト以上の深さがある渓谷があり、森の東側にある湖から大瀑布となり渓谷に大量の水が流れ込んでいる。


さらにその渓谷はその先に南北に走る深さ千メルト以上の大渓谷「グランドリフト」へとつながっている。


この大渓谷の東側が魔境と呼ばれる領域となり、西側が人類の生存圏としてシルバニア王国の所領がある。


大渓谷には西側と東側を繋ぐ大橋がかけられており、マナエル領と所領を繋いでいる。


白化したゴブリンダンジョンは街から森にかけて存在する草原の端、森と草原の境界線に位置している。


ゴブリンたちはこれまでこのダンジョンから生み出されては、森の中に集落を形成してきたのである。


「今回の殲滅戦においては敵であるゴブリンが森の中に集落を形成していることが問題となります。領軍の主力である槍士では槍の取り回しが悪く、また、木々が邪魔して戦列が構築できません。また騎士による騎馬突撃も森の中では困難です」


領軍の役割は、主にスタンピード戦において戦列を組み、集団戦技戦で魔物を街に近づかせないことにある。


だから、その軍の編成はどうしても障害物の無い平原向けの編成となっている。


「そこで、先ほどご領主様が述べられた通り、冒険者たちと特殊剣士隊は集落のボス討伐とゴブリンの雑兵たちの追い立てを行っていただきたい。具体的には湖畔と渓谷沿いに大きく迂回進軍し、森の奥へと進出。森の奥側から領軍の主力が陣取る草原へとゴブリンを追い立ててください」


「迂回進軍の大規模な人員移動でゴブリンたちに気取られることはないか?」


領主様が懸念点を指摘される。


「可能性はありますが、出せるだけの携帯式の遮音装置を貸し出し、可能な限り静かな行軍を行います」


「そうだな。可能な限り集め、貸し出してくれ」


「かしこまりました」


遮音装置はギルドの受付でも使用しているが、ギルド所有の装置は設置型が多く携帯型の装置は少ない。


ここは、ご領主様に頼るしかない。


「続けさせていただきます。迂回進軍を行った先の渓谷沿いには少し開けた場所があります。そこに冒険者ギルドと法術師大隊の輜重隊が合同でキャンプを設営し、冒険者たちと特殊剣士隊の負傷者の治療、補給、武器の交換修理を行います」


法術師大隊の輜重隊が手を貸してくれるのはありがたい。


彼らは大量に亜空間バッグを所持している。


湖と渓谷沿いは人が通れるくらいの細い道があるが、荷車や馬車は通れない。


当然、徒歩での進軍になるが、交換用の剣を破損させることなく大量に運ぶには亜空間バッグが必須だが、冒険者ギルド所有の亜空間バッグには限りがある。


領主様の取り計らいには感謝しかない。


「後の具体的な冒険者と特殊剣士隊の配置と、森への侵入タイミングについては冒険者ギルド支部長ヴァン様にお任せしてよろしいでしょうか?」


「はい! お任せください!」


特殊剣士隊のメンバーは元冒険者で、俺は彼らのことをよく知っている。


彼らの活躍の場を必ず準備してみせる。


「次に草原側の領軍について、レイモンド・ヴァンディミオン将軍に説明をしていただきます」


現在、領軍は三軍あり、三将軍が指揮を執っている。


レイモンド・ヴァンディミオン子爵は筆頭将軍で、厄災戦において現場の総指揮官を務めた老将だ。


後の二軍の将は厄災戦の功績で貴族になったナイル・ヴァンディミオン男爵、カイル・ヴァンディミオン男爵だ。


彼らは平民出身の兄弟だが、ヴァンディミオン家の養子となることで伝統貴族派からの軋轢を躱すことができた。


「領軍は今回、剣士五百、騎士千五百、槍士一万、弓士三千の総兵力一万五千人を選別し、ゴブリン殲滅戦に投入いたします。みな練度は十分。いつでも出撃可能となっております――」


レイモンド将軍の説明によると今回は槍士たちの戦列で追い込まれたゴブリンを受け止め、後方の弓士たちが法術師大隊の法術師たちと共に接近するゴブリンを曲射で攻撃、遊撃部隊として騎士隊の騎馬突撃で敵を側面から殲滅するとのことだ。


騎士は槍士や剣士が乗馬訓練を行うことで後天的に就くことができるサブ職業だ。


「今回、王命にて王都より後詰の戦力が送られてくる予定だが、提案の出陣規模だと領軍の大半が出陣することとなる。街の防衛は大丈夫なのか?」


領主様が懸念点を指摘するが、レイモンド将軍の表情は自信に満ちている。


「はい、街には少数ですが精鋭を配置し、出陣いたしますから大丈夫であります。さらに、領軍の主力が布陣しますのは森の手前の草原となりますので、街に何かございましても三刻以内には駆けつけることが可能です。三刻であれば精鋭たちにより十分持ちこたえることができると判断いたします」


「分かった。剣士五百はどうする?」


「剣士五百は法術師大隊の輜重隊の直掩に回します」


「冒険者ギルドとの共闘は考えていないのか?」


「はい、領軍の剣士隊は奇襲に向かない部隊となっており、逆に冒険者たちの足を引っ張る事となるかと思われます」


領軍の剣士隊は重装甲歩兵としての集団戦技を前提に訓練しており、確かに奇襲には向かない部隊だと思う。


しかし、共闘できない理由は戦術上の理由だけではない。


領軍の剣士隊には貴族の子弟が多数研修のため所属しており、その中には伝統貴族派に属する者も多い。


ノブレスオブリージュが国是のこの国でも、伝統貴族派の者たちは平民が多い冒険者たちと反りが合わないのだ。


「分かった。だが、剣士隊の半数は冒険者ギルドのキャンプを護衛し、冒険者たちの救護、補給、修理活動を助けるようにせよ」


「ご下命、承りました」


領軍の報告を終え、レイモンド将軍は着席した。


「次に法術師大隊のサラ・ヴァル・イストワール大隊長から法術師隊の部隊編成の説明をお願いします」


ウォルター様が告げると、壮年の女性法術師が立ち上がった。


彼女の家系は女系の子爵家で、主に法術師を多く輩出する家系だ。


女系である理由は法術師が女性に偏っているからだ。


彼女の職業は炎法術師で、厄災戦で法術師たちを率いつつ、大火力をもって敵を屠った功労者だ。


「法術師隊の部隊編成を説明いたします――」


法術師大隊は領軍には組み込まれておらず、領主の直属の組織として独自の裁量で動いている。


業務内容は後方支援全般、法術による索敵、支援攻撃、負傷者の治療、野営設備とインフラ設置、補給物資の運搬など多岐にわたる。


炎、水、土、風、聖属性の法術師と治癒師、付与術師が特性に合わせて適材適所で業務を進める。


「法術師大隊は領軍の支援攻撃に法術師が五百名、領軍に随伴する輜重隊に付与術師が二百名、迂回進撃に随伴する輜重隊に付与術師が百名、その直掩と索敵のための法術師が二十名、医療班として治癒師が領軍に百名、輜重隊に随伴する治癒師が二十名、あと法力通信部隊員六十名が各隊に随伴いたします。総勢千名、練度、装備共に十分。ご下命がありましたらいつでも出撃可能となっております」


と報告が終わるかと思ったところで、彼女は発言を続けた。


「ただし、聖治癒師については、周知の通り所属人員が少なく、課題となっております」


聖属性の治癒師が人員不足なのは教会勢力に人員を持って行かれているからだ。


教会は成人したての聖治癒師に圧力をかけて半ば強引に勢力に取り込んでいる。


治癒師は他の属性にも存在するが、魔物に傷つけられた傷は聖治癒師のスキルでないと治癒効果が極端に落ちる。


これを解消するために聖剣士か聖方術師が浄化を行ってから治療に入る必要があり、余分な人員配置が必要となる。


これは、聖属性持ちの者の負担が重くなる問題と、魔物特効のある者たちを攻撃に回せない問題を生じさせている。


この問題により厄災戦後、シルファ・ヴァル・マナエル公爵婦人は極度の法力不足となり、魔物に遅れをとり亡くなられた。


「教会に多額の金銭を支払うよりかは、多忙のことと思うが、アマンダ氏を招聘する方が良いだろう」


イストワール大隊長の発言に対し公爵が返答された。


正統神聖教会は聖治癒師の派遣に多額の寄付を要求する。


厄災戦におけるシルバニア王国の財政難の主な原因はこの教会への多額の寄付金だった。


前王の死因は過度な心労だったが、その原因を作ったのは正統神聖教会であると今の王家は考えており、公爵も非常に毛嫌いされている。


「承知いたしました」


彼女はその様に返答し、報告を終え美しい所作でお辞儀をし、着席しようとしたその時―――


「お待ちいただきたい」



重い扉が、きしむ音を立て、会議室のドアが開け放たれた。


俺はそこに招かれざる客を見た。



2026年1月28日までで本話までお読みの方へ

第0話が加わり話数が増えましたので、ご注意ください。第0話もお読みいただけますと幸いです。


ご感想、ご評価もいただけますと励みになります。応援よろしくお願いいたします。

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