第3話 結界師は気づいた
キャサリンは亜空間バッグの中を探り、やがて言った。
「ありましたわ! 私は入れた覚えがありませんので、多分、使用人が入れたのだと思いますが……今使いますか?」
「いや、ありがとう。俺かミオが必要になったら使わせてもらえると助かる」
「ええ、いつでもどうぞですわ」
とりあえず、トイレ問題は解決した。
次は食料だ。
「ミオ、キャサリン。俺はあそこの屋台で干し肉を買ってくるよ」
「え!? シド、もうお腹すいたの?」
「いや、比較的安全とはいえ、これから魔物のいるフィールドに出るのに何の備えもないのはまずいと思うんだ。さっきシルビアさんが食事と携帯食を確認していたのも気になる。たぶん、携帯食を持つのは冒険者の常識なんだ」
「でも西の草原って、歩いても二刻くらいだよ? お腹がすくころには帰ってこれる距離じゃない?」
「何事もなければそうだろうね。だから昼食を食べてきた俺たちには何も言わなかったんだと思う。でも試験だから、万が一に備えているかどうかも見てる気がする」
「分かった。じゃあ、わたしたちも一緒に買いに行こうか?」
「いや、俺が行ってくる。その間、二人は協力して柔軟体操をしておいてほしい。周りのベテラン冒険者も、みんな出発前に体をほぐしてる」
「そう、分かった」
「シド、お金はこれを使ってください。少ないですが、先ほど昼食をいただいたお礼ですわ」
「じゃあ、遠慮なく」
俺は急いで屋台へ向かい、三人分の干し肉を買った。
干し肉を買う客は冒険者が多いらしく、店には持ち運び用の包みが用意されていた。
紙袋は無料で、腰から下げられる布製の巾着は銅貨二枚。
(家からカバンを持ってくればよかったな……)
そう思った時、ふと結界を使えばいいのではないかと気づいた。
「まずは検証だな。結界」
手に持っていた水筒を結界で包み、問題なく覆えるのを確認して一度解除する。
次に、水筒を腰に下げる形で結界を生成してみた。
「おお、いい感じだな」
水筒は腰にしっかり固定され、落ちる気配がない。
「これ、結界の数を増やせば部分鎧みたいにも使えるか……。まあ、肝心の強度が弱いけど……」
そうしているうちに順番が回ってきたので、俺は三人分の干し肉を買い、ついでに銅貨二枚でミオ用の巾着も買った。
キャサリンの分は亜空間バッグがあるので紙袋のままでいい。
「今日はD級冒険者が一緒だし、今は身を守るより結界はカバン代わりだな」
俺は自分の分の干し肉の紙袋を結界で覆い、腰に下げた。
戻ると、ミオとキャサリンだけでなく、周りの試験参加者たちも一斉に柔軟体操を始めていた。
どうやら二人を見て、自分たちもやるべきだと思ったらしい。
周囲のD級冒険者たちも、遠目に俺たちを見てどこか感心しているように見えた。
少なくとも、見当違いではなかったようだ。
俺も柔軟体操に加わって少しすると、正午の鐘が鳴り、シルビアさんの声が拡声器を通して聞こえてきた。
さあ、いよいよ出発だ!




