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第4話 結界師は先輩冒険者からアドバイスを受ける

「皆さん、お待たせいたしました。参加者がそろいましたので、今から西門を出て試験を実施する草原へと向かいます。皆さまは周辺の方々で5人未満の小さなグループを作ってください。これから試験終了までグループごとにD級冒険者の方が最低一人付き添ってくださいます。挨拶が済みましたら出発いたしますので準備をお願いします」


シルビアさんがそう説明すると、俺たちのグループに二十代前半と思える一人の若い女性冒険者が近づいてきた。


「初めまして、D級冒険者のフィーネよ。よろしくね」


「よろしくお願いいたします。俺はシドと申します」


「ミオです。よろしくお願いします」


「キャサリンです。よろしくお願いいたしますわ」


「あなたたちは3人のグループで良いのかな?」


「はい、私たちは3人でパーティを組む約束をしてますわ」


間髪入れずにキャサリンがその様に答えるが、俺は内心(今日だけのね)と思ってしまう。


「恰好からして、私と同じ法術職だと思うけど……」


「はい、今日、聖法術師になりましたわ」


「へぇ~、すごいわねぇ。退魔特効の法術師じゃない。パーティが決まってなければスカウトしたいところね。えっと、ミオだったかな。呼び捨てでかまわない? 私もフィーネでいいからね。ミオはどんな職業だったの?」


「はい、呼び捨てでかまいません。私は聖剣士でした」


「え、えぇぇ! 同じパーティに退魔特効職が二人も? すごいパーティねぇ、あなたたち」


「いえ、まだ今日なったばかりのひよっこですから、よろしくご指導くださいフィーネ先輩!」


「フィーネでいいって」


「いいえ、フィーネ先輩と呼ばせてください」


「ふふ、かたいなぁ」


「先ほどフィーネ先輩の職業も法術師とうかがいましたが、どの系統の法術師ですの?」


「私は炎法術師よ」


「火力特攻のある強力な法術師ですわね。フィーネ先輩は他のD級冒険者の方々よりお若く見えますが、炎法術師の方であるなら納得ですわ」


「まあ、それほど使い勝手の良い法術ではないよ。夜の奇襲なんてどこから攻撃が来るか敵に分かってしまうし、森では火力を抑えないと森林火災になってしまうし、炎で魔物素材が焦げてしまって高く売れなかったりするから……。私がD級になれたのは二年前のスタンピード戦で活躍できたからよ。あれがなければ私は未だにE級の中位止まりだったと思うよ」


(スタンピードか……)


俺は両親を十年前の最悪のスタンピード『厄災戦』で亡くした。

小さかったせいか、また、酷い思い出を無意識に思い出さないようにしているのか、その時のことはよく思い出せない。


「シドどうしたの?」


「いや、なんでもない」


俺が考え事をしていたら、ミオが心配して覗き込んできた。


今は試験の最中だ、ぼーっとしていてはいけない。 俺は気持ちを切り替えた。


「シド君だったよね。君は何の職業についたの?」


フィーネさんが俺にも質問をしてきた。


「俺は結界師です……」


「え、結界師って、あの不遇職の……あ、ごめん。気にしないで……」


フィーネさんは何とも言えない表情で固まってしまった。

その時、キャサリンが間髪入れずに語り始めた。


「そう、シドはあの勇者物語に出てくるオスカー・スピネル様と同じ職業なんですわよ!――――」


ああ、またキャサリンに火が付いてしまった……。


俺たちは間もなく西門をくぐり、草原へと出発したが、道中ずっとキャサリンは語りっぱなしだった。


フィーネさんは初めは「へぇ~」とか「そうなんだ」とか相槌をうっていたが、だんだん無言になって、草原に着く頃にはすっかり疲れ果てた表情になっていた。


これって、試験の評価でマイナスになるんじゃなかろうか?


そうこうしている内にシルビアさんが拡声器を使って試験について説明を始めた。


「皆さん、お疲れ様です。今から十の班に分かれて、それぞれ教官との模擬戦闘を行っていただきます。第一班から第八班までは前衛の戦闘職の方の試験班になります」


どうやら、ミオとは別の班になるようだ。


「これらの班では今日就いた職業固有のスキルを使って戦闘を行ってください。この模擬戦闘は試験ではありますが、同時に皆さんの初めてのスキル戦闘を教官が手助けする目的も含んでいます。多少の怪我はすぐに処置できますので、安心してスキルを使用してください」


(なるほど、戦闘職は身体強化されるので、強化された力に慣れないうちは変な所に力が入ってまともに攻撃が当たらなかったり、勢いがつきすぎて止まれなかったりするから、この模擬戦闘である程度制御のコツをつかませて、この後のホーンラビット狩りでスキルを実戦で使わせるつもりなんだろう)


「第九班と第十班は後衛職の方の試験班となりますが、この模擬戦では職業固有のスキルや法術を使用しないでください」


俺とキャサリンはこちらの班だが、前衛職とは戦闘の条件が違うようだ。


「後衛職の皆さんは、自分は直接の戦闘を行わないと思っておられるかもしれませんが、それは違います。後衛職は法力を使い果たした後は自分の身は自分で守り、前衛職の負担にならないよう立ち回らなければなりません。ですから、常日頃から純粋な肉体による戦闘力を身に着けておかなければなりません」


なるほど、理にかなってる。

特に法力容量の少ない成人したての後衛職には法力切れの対策は必須だ。


「この試験では皆さんの純粋な戦闘力がどの程度か確認させていただきます。戦闘力に問題があると分かった方は、試験自体には合格しても後日、ギルドの無料戦闘訓練に強制参加していただく場合がございますので、その点、ご注意ください」


この条件縛りは模擬戦闘でスキルや法術を使うとホーンラビット狩りの際に法力が足らなくなる可能性を危惧しているんだろう。


特に放出系の法術は身体強化系のスキルより燃費が悪いから、間違って法力を込めすぎると最悪一発で法力切れになる可能性がある。


だから、この戦闘では法力を温存させるのだろう。


「班分けは付き添いのD級冒険者の方に名簿をお配りしていますので、各自確認をして班に分かれてください。では、行動を開始してください」


シルビアさんの号令と共に参加者各自は動き始めた。


フィーネさんの持っていた名簿を確認したら、ミオは第一班、俺はキャサリンと同じ第九班だった。


「じゃあ、ミオまた後で。模擬戦闘の後はホーンラビット狩りがあるからな。ギルドの処置は万全のようだけど、怪我をして精神的なダメージを残さないよう注意しろよ!」


「うん、気を付ける。シドもキャサリンも気を付けて」


「ええ、気を付けますわ。ミオご自慢のシドの戦闘もたっぷり見させていただきますわ」


「えへへ、きっと、びっくりするよ~」


「フィーネさんはどうされるんですか?」


「わたしはギルドからの指示で周辺警戒だよ」


法術師の職業特性は単に法術が使えるというだけでなく、周辺警戒能力が高いという特性がある。


剣士の特性は常時身体強化だが、法術師は常時周辺警戒強化の能力で敵を察知し、身を守ることができる。


炎法術師のフィーネさんも例外ではなく、彼女の様な法術師たちが試験会場の周辺警戒をしているのだろう。


(結界師の職業特性にも周辺警戒強化の能力があれば良いのになぁ………)


「ところで、シド君は干し肉とか携帯食は持ってる?」


「ええ、三人とも持ってますよ」


「そう、じゃあ戦闘前に少し口に入れて噛んでおくといいよ。緊張がほぐれるから」


「そうなんですか?」


「私はいつも狩りの直前にやってる。私も先輩から聞いたんだけど、実際にやってみてその通りだと思ったから」


「分かりました、やってみます。アドバイスありがとうございます」


(なるほど、門の前で干し肉が冒険者向けに売られてたのは、緊急時の食料としてだけではなかったんだな。買っといて良かった……)


「あ、それとスコップと使い捨ての紙と魔物除けのポーションは持ってる?」


「ええっと、俺とミオは持ってませんが、キャサリンはスコップと使い捨ての紙を持ってます」


「待ってください、もしかすると………ありましたわ。これでしょうか?」


「そうそう、それが魔物除けのポーションよ。用意がいいわね」


「たぶん、家の者が入れてくれたのだと思いますわ」


「いいご家族ね。それに亜空間バッグなんてすごいわね~」


「成人のお祝いと言って父が用意してくれたものですの」


「へぇ~、太っ腹なお父さんね~。でも高価な品だから盗難に気を付けてね」


「父が法力認証で私しか中身を取り出せなくしてあるって言ってましたわ」


「そうなんだ~。でもそれなら回復ポーション用のポーチを別に持っておいた方がいいかも。戦闘であなたが気絶でもしちゃうとポーションが取り出せなくなっちゃうから」


「それはそうですわね。アドバイスありがとうございますわ。……ところで、このスコップと紙と魔物除けポーションはいつ使うのですか?」


「え、いつって、用を足すときだけど……」


「よ、用を足すって? や、野外でですか?」


「それ以外ないと思うけど……」


「そ、それは……その通りですわね……」


どうやら、キャサリンは冒険者が野外で用を足さなければならないことを想定してなかったようだ。


まあ、お金持ちのお嬢様の様だから、野外で用を足したことなんてなかったんだろうけど……。


「そろそろ移動した方が良いんじゃないかな?」


「そうですね。じゃあなミオ」


「ええ、また後でねシド」


「ミオは近くのD級冒険者に頼んだら用足しセットを貸してもらえると思うから、必要な時は声をかけてね」


「は……はい、わかりました。フィーネ先輩は……そのぉ……は、恥ずかしくないんですか?」


「ははは、こんなのは慣れよ。私たちは冒険者なんだから、開き直るしかないじゃない……」


「そ、そうですねぇ……。私も覚悟を決めます……」


(なんだか、二人とも苦笑いしつつ遠い目をしてるな……。諦めの境地と言う感じだなぁ)


ちょっとの間、ミオと一緒に感傷に浸ったフィーネさんは切り替えて、元気よく俺たちに手をふる。


「じゃあ、みんな頑張ってね~。いってらっしゃーい」


「「「行ってきます!」」」


俺はH級冒険者になる予定で来たけど、気の抜けた戦闘をして負けると不真面目な奴とみられて、今後のクエスト受注が制限されるなんてこともあるかもしれない。


(勝つ必要はない。評価を落とさない戦いで十分だ)


俺はそう思いつつミオと別れて、キャサリンと一緒に第九班へ向かった。



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