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お前のような不遇職がいるか!~リアリストが出す答えはいつもアンリアル  作者: Konoe Mitsuki


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プロローグ ギルド支部長は、時代の変革の片鱗を見る

春の朝だというのに、空気は少しひやりとしていた。


だが、冷たかったのは風だけじゃない。


天職授与式の日には、希望と不安が同じ会場に押し込められる。


しかもここは魔境の街マナエルだ。


華やかな晴れ舞台――だが、実際は違う。


天職授与式は、この街の未来を測る日だ。


「春なのに、少し冷えますね。ヴァン支部長」


「ああ、制服が昨日から切り替わったようだが、シルビア君は大丈夫か?」


「ええ、大丈夫です。ご心配いただき、ありがとうございます」


朝の冷えた空気を胸いっぱいに吸い込みながら、俺たちは政庁へと続く石畳の道を歩いていた。


俺の隣には受付嬢のシルビア君が控え、胸元に抱えた書類の束を気遣わしげに押さえている。


「天職授与式の後は、いつも通りギルド説明会ですね、支部長」


「ああ。毎年のことだが、あの場は妙に気疲れする。いい職業を引き当てて希望に満ちた顔と、不遇職を得て絶望した顔が一度に並ぶからな」


俺がそう言うと、シルビア君は複雑な顔をした。


「そうですね。こればかりは人の力では計り知れませんから。私はただ、このマナエルが希望をつなぎ続けることを願うだけです」


「そうだな。俺たちは大人として、この街を引き継いでいける者たちをしっかり育て上げるだけだ。これからも頼んだぞ、シルビア君」


俺がそう言うと、少々頬を赤らめたシルビア君が、


「はい、支部長と共に、私も精一杯頑張ります」


と答えた。


マナエルは東の大地にある魔境の街だ。


新人一人の質が、そのまま何人の命を救うかに直結する。


華やかな晴れ舞台に見えるが、天職授与式とはつまるところ、街の未来を測る日でもあった。


政庁の白い外壁が見え始めた、その時だった。


「――返しておくれ!」


甲高い悲鳴が、朝の往来を切り裂いた。


通りの脇で、ひとりの老婆が尻餅をついている。


革鞄をひったくられたのだろう。逃げる男の手には、古びてはいるがずっしりとした鞄が握られていた。


「ちっ」


俺は舌打ちと同時に踏み込んだ――その瞬間だった。


数歩で間合いを詰め、犯人の逃走経路を断つ――そのはずだった。


だが、俺の視界を二つの影が横切った。


「なっ!?」


早すぎて容姿までは確認できなかったが、ひとつは小柄な少女、もうひとつは少年だった。


あの身のこなしには、既視感がある。


気づいた時には、二人ともすでに俺の前方へ出ていた。


「速い!」


いや、ただ速いだけではない。


身のこなしに一切の無駄がなく、重心のぶれさえも存在しない。


この領域は、職業特性やスキルという『仕組み』に頼った訓練では決して到達できない。


日々の泥臭い基礎訓練を、狂気的なまで積み重ねた者だけが辿り着く境地だ。


剣は持っていない。だが、これは紛れもなく完成された剣士の身のこなしだ。


(一体どれほどの回数、剣を振ればここまでの域に至る? 想像すらつかない……)


少女が地を蹴る。


次の瞬間、その身体は引ったくり犯の頭上を弧を描いて飛び越えていた。


大道芸じみた大技に見えたが、違う。


あれは見せ技ではない。


着地の位置まで含めて、逃走方向を塞ぐためだけに最適化された動きだ。


犯人が思わず足を止める。


その、たった一拍の停滞を、少年は見逃さなかった。


少年が片手を地につける。


剣も、杖も、詠唱もない。


にもかかわらず、犯人の身体が不自然に強張った。


「ぐっ!? ああぁぁぁぁ!」


男の足がもつれ、地に倒れ伏す。


(何もしていない。だが、確実に“何か”が起きている)


あたかも見えない力によって引き倒され、押さえつけられたかのように、男は完全に動きを止めた。


俺は目を見開いた。


(理解できない。法術? いや、違う。法術の発動にしては前兆がなさすぎる。武技にしては接触がない。そもそも、あの少年は何をした?)


少女は倒れた男の手から鞄を奪い返すと、ひょいと老婆へ返した。


少年は衛兵の詰所の方へちらりと目をやり、ちょうど駆けつけてきた二人に犯人を引き渡した。


「す、すみません! 助かりました……!」


老婆が涙ぐんで頭を下げる。


だが二人はそれに大きく応じることもなく、当然のことをしただけだと言わんばかりに軽く会釈を返した。


「待て!」


俺は思わず声を張り上げていた。


だが、二人が振り返ることはなく、天職授与式の会場の方へ消えていった。


「な、何だったんですか? あれは……」


シルビア君が目を丸くして問う。


「俺にも分からない。ただ言えるのは、あの戦い方はスキル頼みの動きではなかったということだけだ」


「そんなことって……」


俺は目を細め、既視感の正体を追った。


脳裏に蘇るのは、若い頃に見た師の完成された動きだ。


スキルに頼るのではない、純粋に身体に宿る無属性の法力による身体強化。


それは、俺自身も極めんと欲してやまない究極の身体強化術。


取って付けたような職業頼りの身体強化ではなく、生活に同化した完全自然体の身体強化術。


「師匠……これは、あなたが生み出した希望でしょうか?」


俺はまだこの時、気づいていなかった。


――その瞬間、時代は確かに動き出していたことに。


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