10:蓮花市(2)
キャンプを離れた後、カフェに行くという約束を後回しにして、私たちは行方不明となった二人の亡霊狩りを探すことにした。とは言えども、亡霊狩りが設けた捜索部隊ですら見つけることができていないのだから、たった二人ではどうにもならないだろう。
そこで私たちは、蓮花市に駐在しているという捜索部隊のもとへと向かった。
「──というわけで、捜索部隊に参加させてほしいです」
三葉が頭を下げて頼んだところ、部隊の方から快諾を受けた。
「亡霊狩りが二人……か。丁度いい。僕達は君たちのような人材を求めていたんだ」
彼の言葉選びにどことなく違和感を覚えたけれど、それはわざわざ訊くまでには至らないものであった。
捜索部隊としてその場にいたのは、彼を含めて五人。地面に広げた大きな地図を囲う形で彼らは座っていた。詰めてもらい、私たちもその輪の中に入る。それから一人一人、簡単に自己紹介を行うことに。
「僕がこの捜索部隊の隊長『東』」
「副隊長の『松井』です」
「『五十嵐』だ」
「『中村』」
「『沢木』っす」
「『二道』です。よろしくお願いします」
「『煌然』です。お願いします」
二道……三葉の苗字初めて聞いたな。二道の二と三葉の三……うん。覚えやすいかも。
自己紹介を終えたところで、私たちは本題に入ることにした。三葉が尋ねる。
「そういえば、私たちまだ行方不明の二人の名前知らないので教えてくれませんか?」
「ああ。名前は『鏑木』と『淳間』。鏑木が女で、淳間が男。鏑木は君たちと同じくらいの年齢だったと思う」
「わかりました。それで、捜索活動は今どこまで進んでいるんですか?」
「うん。それじゃ、今までの捜索の手順を振り返るとしよう」
東さんが説明を始める。
「まず、君たちも知っている通りこの蓮花市から出入りするためには全部で三つの検問所のどれかを通過しなければならない。今回行方不明だと判明したのは、その検問所の方とキャンプの住人らの通信によるものだ」
行方不明の判明。リーダーの話だと、それは一週間前のこと。この一週間のうちに蓮花市からの出入りがなく、キャンプへの出入りもない。変な話だ。市内は割と見渡しが良いから、迷うなんてことはない筈なのだから。
「そこで僕たちは、蓮花市を囲う壁から市の中心へと、渦を描くようにして捜索を始めた。そしてちょうど今日。ちょうどだ。沢木が鏑木のものと見られる能力源を発見した」
沢木さんは地図を指さしながら言った。
「だいたいここら辺で見つけたっす。集合時間が迫ってきてたんで、能力源の周囲はそれほど探索できてないっすけど」
指さした位置、それはキャンプからさほど離れていない場所であった。そして能力源──能力を使った形跡があったということは────
「その辺りで、鏑木さんは戦闘を行った。……そういうことですか?」
私の言葉に東さんは頷く。
「亡霊狩りに保存されてるデータを探ってみたら、鏑木の能力はベクトル系だった。断言はできないが、能力が戦闘向きのベクトル系であることを鑑みるに、戦闘が行われたんだと思う」
「襲われた、もしくは淳間と仲間割れした。そのどちらかだ」
「仲間割れ……っていうのは多分ないと思います。キャンプの人たちから、二人はとても仲が良かったと聞いてますから」
「そうか。だが候補に入れておくくらいは良いだろう」
襲われた……か。それなら確かに、この蓮花市で行方不明になっているのも頷ける。となれば鏑木さんと淳間さん以外の誰か、第三者の介入がこの件に存在しているということ。そしてその第三者は亡霊である可能性が高い。
……なるほど。さっき東さんが「君たちのような人材を求めていた」と言っていたのはこれが理由だったんだ。亡霊の対処には、戦闘向きの能力を有した亡霊狩りが必要となるのだから。
発言する。
「この一週間で皆さんと私たち、そしてキャンプの住民たちを除いて検問所で人の出入りはありましたか?」
「いや、無かったよ。だから、あくまで推測だけれど、僕たちは二人を襲った犯人は“キャンプ内にいる”と思っている」
私たち二人に、衝撃が走った。そんな私たちに、東さんは間髪入れずに尋ねた。
「そこでさっきまでキャンプにいた君たちに聞きたい。キャンプに怪しい者はいなかったか?」_
私はキャンプにいた人たちの顔を、一人ひとり思い返していく。しかし、怪しげな人は私の記憶の中には無かった。三葉の方を見るが、彼女も同じようだ。
「いえ、特には」
「そうか。……じゃ、ここからは捜索の再開だ。手分けをして作業することにしよう」
東さんは私たちを二つの班に分けた。
キャンプへと向かう班。そして、鏑木さんの能力源があったという場所に向かう班。
東さん曰く捜索部隊の皆さんは主に捜索に役立つ系統の能力で、戦闘には不向きらしい。したがって私と三葉は二つに別れる他なかった。三葉がキャンプへ、私は然程危険ではないだろう能力源の発見場所へ。
「三葉。気をつけてね」
「澪もね。カフェ行くまでは死んじゃだめだよ?」
彼女の言葉に、私は微笑んで返す。互いに背を向け、私たちはそれぞれの方向へと歩き始めた。
私の班のメンバーは、副隊長の松井さんと沢木さん、そして私の三人。この中で最も早くに口を開いたのは、沢木さんであった。
「もしかしてなんだけど、煌然さんって高校生?」
「あ、はい。高校一年です」
「やっぱりかぁ〜、道理で若いなぁって思って」
彼に対する私の第一印象を言おう。チャラい感じの大学生だ。
「沢木。話すのもいいが、任務には集中してくれよ?」
「わかってますって。まったく、松井さんは真面目なんだから」
松井さんはそのチャラい沢木さんの言動を抑制する役目かな。
暫くは沢木さんから私への質問攻めが続いた。時には私も沢木さんと松井さんに対する質問をしながら、短い会話の時間を楽しんだ。それにより、二人に関する知識が少しだけ身についた。
沢木さんは県外出身の25歳。チョコレートはビターが好きらしい。バイキングにうどんがあると、少し嬉しいと語っていた。
松井さんは県内出身の30歳。意外にも、チョコレートは甘ければ甘い方が好き。スイーツが好きで、バイキングには小さなケーキが欲しいらしい。
「────さてと、僕が能力源を見つけたのはここですね」
沢木さんが足を止めたのは、まだ瓦礫の撤去が済んでいない地域。風景としては、私が三葉と共に通った検問所の先に広がっていたそれと似ていた。
私たちがこの場所を訪れた目的は、鏑木さん以外の能力源がないかを調べるため。自身の目を頼りに捜索を行うため、地味で長い時間を要する。但しそれは、捜索系の能力がない場合のみ。
「『感知』」
瞬間、沢木さんの中心として半径五メートルほどの能源の円柱が彼を包むようにして現れた。
「僕の能力は捜索専門の能力。澪さん向けに説明するには、見てもらう方が早いかな。松井さん。頼みます」
すると、沢木さんは松井さんと私に背を向けた。松井さんはポケットから財布を取り出し、それを私へと見せた後で沢木さんの背に少しずつ近づけていった。
財布が沢木さんの能源の中に入った時、彼は一言告げた。
「財布ですね?」
「正解だ」
「おお……!」
振り返り、沢木さんは補足し始める。
「感知は、僕が異物と感じた物を能源によって感じ取り、その見た目を見ずとも知ることができる能力」
「めちゃくちゃ便利じゃないですか!」
「沢木の能力を使えば、最短で捜索を進められる。早速始めよう」
「ちょっと待ってください」と、私は口を挟む。沢木さんの能力ならば、人に危害を加えずに私の能力で模倣ができるはずだ。
「『感知』」
夢幻の発動により、沢木さんの能力を模倣する。驚愕する二人を相手に、私は自身の能力に関する説明を始めた。
「私自身も私の能力についてはよくわかってないんですけど、指導者曰く見た能力をコピーする能力らしいんです」
二人は固まっていた。その様子に私は少し焦ったが、直に松井さんが口を開いた。
「特異の能力……」
「戦闘向きの能力とは思っていたけど、まさかここまでとは……」
……何かドン引きしてない? いや、そんなことないよね。
私は二人の様子を気にせず、言った。
「じゃ、じゃあ始めましょうか」




