悪役令嬢の結婚
二人は真の聖女とやらの到来を恐れながらも、仲睦まじく過ごし、式の日を迎えた。
「今のところ、聖女は来ないようだな。
もし、城内に入ることあらば、即刻、捕らえよ」
聖堂の控えの間でヘルマンは王子にそう言われた。
「はあ。
わかりました」
そんな曖昧な返事をヘルマンはする。
確かにフィオナは王子の婚約者となったころに聖女候補から外されたようなのだが。
だからと言って、別の聖女が現れるということもないようだった。
ヘルマンは王子に訊いてみた。
「あの~、王子。
悪役令嬢と化した婚約者に狙われているという話はどなたからお聞きになったのですか?」
「お前の幼なじみで。
王立学園で教師をやっているルイシコフだよ」
ヘルマンはルイシコフに訊いてみた。
「お前、王子に話した悪役令嬢の話、誰に訊いたんだ?」
「フロバキアの領主、ボルドー様だよ」
今日は王子の結婚式なので、有力な領主もみな、式に参加するため、集まっている。
ヘルマンは聖堂のガーデンでくつろいでいる領主たちのもとに行き、ボルトーに訊いてみた。
「ああ、その話なら、宰相のアビル様から聞いたね。
ハビントル公爵もご心配なことだね。
でも、どうやら無事に結婚式を迎えらそうでよかったよ」
ハビントル公爵はフィオナの父親だ。
ヘルマンは首をかしげなから、ちょうど集まってるみなに訊いて歩く。
みんな、誰それから聞いた、と言うのだが。
ヘルマンは、ついに辿り着いた。
「さて、誰から聞いたんだったかな」
と不敵に微笑む人物に。
ハビントル公爵だ。
「噂の源はあなただったんですね」
フィオナによく似た、品の良い整った顔をしたハビントル公爵は、なかなかのやり手だと聞いている。
なみいる良家の娘たちを押し退け、自慢の娘のフィオナを王子の婚約者にしたはいいが。
悪役令嬢だの、ニセの聖女だのと娘は汚名を着せられ、みなに同情されていたのだが……。
今、満足そうに微笑むハビントル公爵は堂々とした様子で。
ヘルマンは自分の推理が正しいと確信した。
「結婚相手は勝手に決められるより。
自分が勝ち取る方が気分的に盛り上がりますからね。
共に手を取り合って、障害を乗り越えた相手とは、長く上手くいくと思いますよ」
「あの~、でも、フィオナ様、王子の婚約者に定められてから、この数年、ほんとうに大変だったみたいなんですけど」
「ゆるい感じに生きてきた娘ですが。
悪役令嬢ではないかと疑われるようになってからは、自立せねばと、集中して勉学に励み、多くの知識を得られたようです。
国民のために、いずれ、その力、使えることでしょう」
知略に長けたハビントル公爵は優雅に笑う。
聖堂の扉が開かれ、華やかに着飾った招待客たちが中に入っていく。
めでたしめでたし……、
なのだろうかな?
と苦笑いするヘルマンだったが、王子とフィオナ様が幸せなら、まあ、いいかと思う。
ステンドグラスの光が降りそそぐ中。
悪役令嬢と呼ばれつづけたフィオナは、王子と微笑み合う。
その姿は、ホンモノの聖女のように光り輝き、美しかった――。
完