聖女を薙ぎ払え
「フィ、フィオナ様っ。
王子があなたのおかげで、おかしくなってるんですがっ」
これが悪役令嬢の力なのですかっ?
とヘルマンに言われるが、そんなことは自分にもわからない。
「会ったばっかりなのに、王子、あなたに骨抜きではないですか~っ」
うろたえる王子の忠実なる部下、ヘルマンが可哀想になり、フィオナは王子に言った。
「あの、私は昔はこの国の聖女候補と言われていましたが。
王子の婚約者と定められたときから、ニセモノの聖女と言われ、悪役令嬢と呼ばれて、疎まれたり、憐れまれたりしてきました。
こんな私は、あなたにはふさわしくないと思います」
だが、王子は一歩近づくと、フィオナの手を握り言う。
「悪役令嬢というものが、結局、なんなのか、私には、よくわからぬのだが。
そう呼ばれ、疎まれながらも、お前は耐えてきたのだろう。
そんな強い娘こそが、いずれ、この国を統べるであろう私の妃にふさわしいと思う。
フィオナよ。
私にはお前が必要だ――」
悪役令嬢と呼ばれるようになった私は、この国には不要なものだ。
いずれ、王都から追いやられ、別の場所に追放されたりするのだろうが。
せめてそこで、みんなのために役立つ者になろうと気を張って生きてきたのに。
自分に一番辛く当たるだろうと覚悟していた王子に優しくされ、不覚にも泣いてしまった。
「王子は真の聖女とやらと一緒になる運命だと聞いて。
ちゃんと悪役令嬢としての役割を果たしたあと、
ひとりで生きていこうと覚悟を決めていましたのに」
やさしくされたら、覚悟が鈍るではないですか、というフィオナの手を強く握り、王子は言う。
「フィオナよ。
なんと健気なっ。
悪役令嬢になろうと頑張るお前を私が支えようっ!」
「いや、あなたが支えてどうすんですか……」
とヘルマンが言う。
「真の聖女というものがほんとうにいるのなら。
そいつが入ってこないよう、私が城門をすべて閉じてやるっ!」
「いや、食料も入ってこなくなりますよっ!?」
とヘルマンは言うが、王子は崇高な微笑みを浮かべ、
「私は、この愛に殉じる」
と言う。
「いやいやいやいやっ。
一人で殉じてくださいっ。
っていうか、真の聖女はどうするんですかっ?」
「いつまでも城内に入れなければ、いずれ、城下の町で恋にでも落ちるだろう」
「恋に落ちずに城壁を乗り越え、入ってきたらどうするんです?」
二人のやりとりを聞きながら、フィオナは思っていた。
いや、あなたがたの中の聖女は、どんなイメージなんですか。
今の話を聞いて、私の中では、カサコソ動く女郎蜘蛛みたいになってしまっているのですが……。
「聖女が恋に落ちるよう、次々、町の若い男をあてがえ」
「まるで、ハーレムですね……」
フィオナが苦笑いして、そう呟くと、
「なんだ、うらやましいのか」
と言ったあとで、王子は、ハッとしたように言う。
「お前、私より、大勢の男たちによるハーレムの方がよいと言うのかっ」
おのれ、閉じ込めてやるっ、と王子は言い出す。
ひっ、悪役王子っ!
とまたも二人は怯えた。




