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クロノスレクイエム  作者: 村上さゞれ
第2章 円環の盟約篇

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プロローグ 「ゼロ・バース」


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 いま、あなたの目の前にはひとつのパンとコップ一杯の水が置かれています。

 近くには肌の黒い女の子、肌の白い老人、肌が黄色く目の細い青年がいます。そのまた隣には赤毛の妊婦、そしてノンバイナリーの義体者が立っています。


 このままでは、彼らはこのパンと水を求めて争い合うことになるでしょう。


 ですが、もしその味覚データを「0」と「1」の電子情報へと置き換え、いつでも、好きなだけ――食べれたとしたら? サーバーに記録した情報は無限に増やせます! もし、ありとあらゆる不満とは無縁の夢の世界があったとしたら――?



 三百年前、私たちが住む地球に、突如、飛来した巨大な隕石群は各地に直撃し、人類の文明が一時は崩壊する窮地にまで追い込まれました。ですが、これもすべて人口爆発を理由にした自然破壊、環境汚染をし続けてきた人類への天罰だったのでしょう。


 さらに、海中や地上を跋扈するチルドレンによって、人類は地球という惑星から排除されつつあります。食料、水、居住地。すべてが足りず、未だに人類はわずかな資源リソースを巡って争っています。



 ですが私たちは動物ではない。

 高度な知能を持った『人間』です。



 その最たる特徴として、適応する力があります。有人飛行、海底探索、宇宙進出。幾度となく進化し続けた中で、私たちはついに――機械との融合ができるようになりました。


 それこそが、人と機械との結合・融合を果たす夢の技術――――




    ――――義体化手術です!




 今までは肉体ありきの仮想世界への没入だったものが、すぐにでも現実の衣食住の『呪縛』から脱却することができるでしょう。必要とあらば、義体をレンタルして現実世界で活動することも可能です。えも、かわきも、サーバーの電力のみで構成された世界であればすべて解決します。そしてこれは、旧来の持続可能とされてきた社会モデルよりも何倍も理想郷と呼べるのではないでしょうか!


 たしかに、ありとあらゆる人種や民族間における弾圧・価値観による圧政・宗教による争いのない理想郷は、人類史における為政者の誰もが一度は考えたことのある夢物語でした。



 ですが、我々は成し遂げました!!



 仮想世界では、好きなときに働き、好きなときに休み、好きなものを好きなだけ食べられます。理想のパートナーと永遠に暮らし、ゼロ・バースでしか楽しめないエンターテイメントを満喫し、すべての人々が自由にアイデンティティを表現できる世界です。


 そこにプロテノイド、デミバイオノイド、サイボーグを隔てる壁はありません。現実世界から解放され、すべての多様性は肯定され、差別や偏見の一切が存在しない社会はすぐ目の前までやってきています!


 人類はようやく新たなステージ、新たなる世界へと羽ばたける翼を手に入れたのです。



 さあ、あなたも今すぐはじめましょう!





   ―――― ゼロ・バース ! ――――





【提供:『月庵』】

【用語】

「ノンバイナリー」

・(身体的性に関係なく)自身の性自認・性表現に「男性」「女性」といった枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティ。


「プロテノイド」

・ナチュラルやレプリカントなど、タンパク質で構成されていることを強調する人類の別名。通常の人類と試験管の中で命をふきこまれた人造人間とを隔てる単語ではない。


「デミバイオノイド」

・別の『動物』の遺伝子や血が混ざっている個体。ゲノム編集は企業別で競合するため、品種改良と組み合わせて産ませる。生まれたときから機械と高い親和性を持った状態で生まれてくる。別名「デザイナーズベイビー」


「サイボーグ」

・体内にメカデバイスを内臓した(半・完全)義体者

(人権のないアンドロイドを含む)


「Zero Birth」

・『出生率ゼロ』を意味する。

 誰も死なない。何も生まれない。

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