第14.5話 捕食者の記憶
ソレは憤怒していた。
怪物は人間もどきだったころの名残なのか、人型の人工歯が並ぶ顎を動かしながらブツブツと何かを呟いている。それらはすべて、チタン合金のインプラントの上に硬質のレジンを被せた代物だった。ソレは体内で無尽蔵に生成されるエネルギーを漏らすようにして、その口から息を吐くと同時に肩を揺らした。
あまりの怒りに理性は溶解し、腹の中に直接マグマでもぶち込まれたような、熱くドス黒い感情が蠢いている。思わず筋肉が収縮して握った手の中では、ヒト型をした生き物の死骸がぐちゃぐちゃの肉塊に変わっていく。
周囲には暴れまわった産物として、壁や天井に無数の弾痕や衝撃波で出来たクレーターが刻まれており、その影響で至る所が崩落で穴が開いていた。
ソレは思い出す。一年前、数えきれないほど多くの自分と似た生き物や、二足歩行をする生物を喰らっては、自分が世界の中で頂点捕食者だと思い込んでいた頃を――。
『コイツでいい、捕獲しろ』
そいつは、唐突にやってきた。
ただの人型の黒いシルエット。左目を眩く翡翠色に光らせたこいつもまた、他の生物と同じで非力で弱い被捕食者なのだろう。そう思い、また、いつものように喰らおうとしたときだった。
――気付けば一瞬で、自分の頭蓋骨に穴が開けられていた。
コアのある場所ではない。
故に致命傷でもない。
あえて位置をずらされたのだと後で気付いたときには、それこそハラワタが煮えくり返らんくらいの怒りに襲われたものだ。穴の開いた頭部の中央に何かを埋め込まれる。
今の今まで止むことのない頭痛もこのときからだ。視界はいつしか赤く染まっていき、やがて誰かの声が聞こえるようになっていた。
そいつは自分に対して何かを埋め込んだあと、そのまま去っていった。自分よりも弱いと思っていた相手に組み伏せられ、あまつさえ弄ばされたのだ。抵抗すら、できないまま――。
「――――――!!」
その瞬間、ソレは思い切り手の中の肉を壁へと叩きつけ、さらに大型のクレーターができるほどの威力で殴り込んだ。完全にミンチになったそれに目もくれず、怪物は新たな獲物を探して歩き出す。床にパサリと音を立てて落ちたその傭兵の服には、とあるワッペンが付けられていた。
【毘沙門天 イ‐10】
ああ、むかつく。
殺さないと。
もっと、もっと、もっと――――。
巨大なクマのような風貌をしたソレは、八つの真っ赤な眼光を振りまきながらも、さらなる獲物を求めて息を荒げる。殺戮の衝動に駆られた獣の腹部には、赤黒い光を漏らす球体がいつまでも不気味に脈打っていた。
化け物はその憤怒に身を任せて息を吸い、声帯を異様なまでに膨張させ――
「――――――」
殺戮の始まりだと言わんばかりに、咆哮をした。




