8話 真実はいつも
「なめた事言ってんじゃねえぞ!」
クリスが興昌の胸ぐらを掴んできた。
「なめてなんかいない。事実を積み上げていった上での客観的な推測だ」
何でもないかのように淡々と説明し続ける興昌。
「これが破傷風でないことは確かだ。違うものをそうだと言っている時点ですでにおかしい。何者かの作為がないとこういう事にはならない。だから毒を盛ったと判断した」
「それがなめてるって言ってるんだよ!その通りなら、だれが毒を盛ったって言うんだよ!」
興昌はクリスの手を振り払うと立ち上がり、勿体ぶるかのように窓際まで歩き、ゆっくりと口を開けた。
「…あそこで狩りをしているということは、結構簡単に知ることができる。だが、あの森の中、兵士の目を掻い潜って忍び込むことはかなり厳しい。王子殿下に近い人間だと絞ることができる。だが近すぎても、毒を盛るという誘いに乗るかどうかは怪しい。つかず離れず、そのあたりがクロだ」
「そんな人間いるのか!」
「いるだろ。近くにな」
分からない、といった感じに首を傾げる3人。
「護衛の兵士だ。これなら護衛と称して近くにいることになるし、警備と言えばうろうろしていても不思議に思わないだろう」
「ですが、そう簡単に誘いに乗るでしょうか?」
疑問を口にするシャーロット。振り向きながら興昌は続きを述べる。
「その疑問はもっともだ、シャーロットさん。でもだ、待遇に不満を持っている兵士がゼロではないだろう?そういった人間にそこそこ高めの報酬を与えて、うまいこと丸め込めば意外とやっちゃうものなんだよ」
興昌は過去の実体験と照らし合わせて話していた。地球にいた時に母方の叔父からリアル’言いくるめ’を教えてもらったのだ。その時には疑いの方が強ったが、実際にやらされたら、面白いように手玉にとれてしまい、驚いた。何でも詐欺の基本なんだとか。興昌は、小さい頃だったがこの人怖いと感じた事を鮮明に覚えている。俺の叔父は一体何者だったんだろう?という疑問が顔を出すが、今更分かるとは思っていなかった。
「どう…、丸め込むと?」
「金に困ってるなら大金を、昇進できないなら高い地位を、etc.etc.…。王子殿下を暗殺しようとするんだ、兵士一人が考えるようなことではない。考えた大本は相当なお偉方だろう。兵士一人程度の報酬を用意するぐらい造作もないだろう」
「ですが、いったい誰が実行犯でしょうか?」
「全員縛り上げることは厳しいな」
いつの間にか移動して、鞄をゴソゴソしていた興昌が顔を上げた。
「兵士の情報を教えてくれ」
「それが何になる?」
「ひょっとしたら、ヒントがつかめるかもしれない」
「…分かりました。お教えしましょう」
アルフレッドが、兵士について語りだした。それによると、今回護衛を務めているのは公国の兵士ではなく、王国から派遣されてきた小隊であること。本来こういった事は滅多にないそうだが、小隊長が公国の元兵士だったため、隊長昇格の褒美として王子殿下護衛という名誉を与える結果こうなったという。
「…色々大変なんだな」
「国王陛下の決定ですから。仕方ありません」
小隊のメンバーは、件の隊長、28歳。副隊長、47歳。通常小隊に副隊長は存在しないのだが、事情が事情なため、保険としたらしい。何でも、隊長が新人の時の教官なんだそうだ。小隊員はそれぞれ、29歳、34歳、26歳、22歳で、最年少の隊員のみ女性で、あとは男性だ。その他、全員の勤務態度や性格など、3人が知っている話を聞き、一通りの話を聞き終わったところで、
「なるほどな」
と頷く。話を聞きながらも鞄の中をあさっていた興昌だったが、目的の薬草が見つかったようで、それらを取り出し解毒剤の調合にかかる。ゴリゴリと薬草をすり潰しながら、
「今の話を聞いて大体の見当はついた」
といった。それを聞いたクリスが、「本当か!?」と聞き返すが、
「だが証拠がない。こういうのは毒を入れていた器だとか、そういう物を証拠として扱うが、毒を盛ってから大分時間が経過している。とっくの昔に処分しているだろう」
「じゃどうする!?」
しばし黙り込む興昌。調合しながら何か考えを詰めているのを察した3人は話しかけるのをやめ、それぞれで思案を巡らせていた。しばらくして、解毒剤の調合が終わったのだろう。興昌が手を止め、口を開く。
「…誘い出しますか」
「誘い出すって、犯人をか?」
「ああ。こっちから手が出ないなら、向こうから尻尾を出してもらおうか」
「して、その方法とは?」
「いいですか?それは…」
最初に通された部屋で村長が待っていると、ドアが開き、奥の部屋から4人が出てきた。
「興昌君、どうだった?」
「何とかなりそうです。薬も効いています。一旦休みたいので、薬の飲み方をお教えしました」
「そうかそうか」
「ではアルフレッドさん、もうしばらくしたら、渡した薬を飲ませてください。もし足りないようなら、この薬草を飲ませてください」
「承知しました」
そう言って部屋を後にする。帰り道、村長に事情を話し、協力を取り付ける。宿屋からほどほどの距離歩いたところで、
「では村長、話した通りに」
「分かった。君も気をつけてね」
「もちろんです」
そう言葉を交わし、村長と別れ、元来た方向に歩き出した。
翌日、毒を盛った犯人が捕まったが、そこには興昌の姿もあった。




