第9話 縦穴
「あれが、ドラゴン……」
僕はレッドリザードの腹鱗を握りしめながら、目の前の光景に目を丸くしていた。
マッピングスキルの地図にビゲートが表示してくれた矢印通りに歩いてきた先にあったもの。
それは巨大な直径の縦穴だった。
その縦穴の壁にへばりつくように、何匹ものレッサードラゴンが見える。そして縦穴の上も下も、暗くて見通せない。どうも光源となるエレキマタンゴが僕たちの今いる層にしか生えていないようだった。
劣等種とはいえドラゴンだ。その光景は圧巻だった。
精霊種たるウンディーネ=ロペほどではないが、ドラゴンも最強格の魔物の一角。しかもウンディーネ=ロペと違って何匹も群れているのだ。
──いや、群れているというより、食べ物を求めて集まっているのか。
良くみると、レッサードラゴンたちはエレキマタンゴを捕食しているようだった。
縦穴の壁のそこかしこで、ピカピカと光がままたき、少しも魚の腐ったような香りが漂っている。
エレキマタンゴたちが食べられる間際に最後の抵抗をしているところなのだろう。
「……なあ、ビゲート。本当にあの状態のレッサードラゴンに交渉して背中に乗せてもらうの?」
基本的に魔物は捕食中は通常以上に気が立っているものだ。エレキマタンゴの死に際の反撃もそれなりのダメージがあるようで、口もとが焦げて血を流しているレッサードラゴンもいるぐらい。
到底、落ち着いて話を聞いてくれそうな雰囲気は皆無だった。
『それしか地上に戻るすべはないぞ、エルダ。まあ、気が進まんなら、エレキマタンゴたちとの賃貸契約をすすめるのがお薦めだ』
「……それは、しばらくこの地下で暮らすということだよな」
『問題あるまい。ウンディーネの涙のお陰で、飢えと渇きで死ぬことはない。その間にエレキマタンゴたちとの賃貸契約を進め、地力を蓄えられるぞ』
「ああ、ウンディーネの涙って、そういう」
僕は思い出して納得する。
確かに今でも空腹も喉の渇きも感じない。これが月の一巡りの間、続くのだとしたら、相当価値のあるものだったのだとわかる。
「それで、地力を蓄えるって?」
『まずは、一体と賃貸契約を試してみるといい。あのエレキマタンゴ達の力は、なかなか侮れないぞ』
なぜか、どや顔をするビゲート。
僕はエレキマタンゴたちの反撃がレッサードラゴンに傷をつけている様子をみて考える。
──確かにあのピカピカと光る力は有用そうだ。それを蓄えられるなら、レッサードラゴンと交渉しないといけないときに役に立つ可能性はある。……仕方ないか。
「わかった。ビゲートの言うこと、信じるよ」
『ふふ。信頼とは心地よいな。よし、それじゃあさっそく賃貸契約といこう』
のりのりのビゲートが再び矢印を提示する。
僕はこっそりため息を飲み込むとエレキマタンゴとの賃貸契約をしようと矢印の方向へと進むのだった。




