3. 扉と食事
思ったよりもすんなり事が進んでしまったことに内心驚きながらも、上とはどこまで行くものなのかと視線を彷徨わせている。
15分程経った頃だろうか。
いきなり空一面に現れた大きな扉。
頑丈な鎖の付いた鍵がかけられ、巨大な目が現れた。
「っ。」
「怖いのか?」
「いきなりだったから少し驚いただけよ。」
「我は最下層の番人。何故ここに来た。」
「王の間に行くためだ。」
「王の間だと…?その人間と底辺の悪魔を通すわけには行かぬ。王の決定事項だ。」
「…∆∑∌∇∈∝∞∉∇∆∏∏∋∥∫∬∬∮。」
「御意。」
聞いたことのない言葉に反応した扉の目は鎖が弾け扉が開いていく。
開けゴマのような呪文だろうか。
そんな事を考えているとルーシェが動き出し、中へ入ると地面が現れた。
「地面…?」
「4階層だ。」
「最下層とあまり変わらないのね。」
辺りを見渡しても最下層から本当に上に来たのか疑わしいくらいだ。
四方に見えるマグマは当然のように叫び声を上げており、騒がしいと耳を塞げば楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「何よ。」
「露骨に嫌な顔してんぞ。」
「貴方は煩くないの。」
「地獄で寝起きしてりゃ慣れる。」
「寝る時は静かよね?」
「彼奴等に睡眠欲はねえからな。ずっとあのままだ。」
「…最悪ね。」
「そこまでじゃねえだろ。それより腹減ったな。」
「私は遠慮しておくわ。」
巨大ミミズを思い出し即座に断れば小さくため息を溢された。
「こんなに軽い身体で食わないとは人間とは変な生き物だな。」
「変でも嫌なものは嫌なの。」
「ッチ。」
「それより先程の言葉…何だったの?扉を開ける呪文のようなもの?」
「地獄の言葉だ。」
「常には話さないのね。」
「…しか知らないからな。」
「?」
「あれが嫌なら人間は何を食うんだ?」
「野菜や果物、お肉は動物のものよ。」
「あーそっちか。」
「貴方はあれを食べるの?」
「食えなくはねぇが、好きじゃねえ。」
「あれが一番マシな食べ物といったのは誰だったかしら。」
「人間に対してはだ。俺はああいうのを食う。」
すごい勢いでこちらに向かってくる巨大な何か。
よく見ると鋭い牙とずんぐりむっくりとした身体は猪に似た何かだと理解する。
彼は舌なめずりをするとここで少し待っていろと地面に下ろされた。
向かってくる猪の牙を片手で掴むと牙をつきたて一撃で仕留めてしまう。
その表情は彼が悪魔なのだと再認識させられた。
私の気の所為なら良いのだが、本当に底辺の悪魔なのか。
地獄での快適な生活のために利用するつもりでいたけれど、何だか不穏な空気が漂っている。
火の悪魔である蜥蜴や扉の目の態度からして王族とはいえ、見下されているのは理解できた。
しかし、それとルーシェが稀に見せる凶暴な側面とが合致していない気がする。
契約という謎のものも結んでしまったのを今更後悔し始めたが、後の祭りだとこれからのことを考える。
最下層から4階層に来て変わったのは先程の猪もどきが現れるようになったこと。
そして岩でできた洞穴がいくつか見えるということくらいか。
食事をすることに夢中な彼に大きなため息をこぼしながら、悪役令嬢としてあのまま人生の幕を閉じられれば楽だったのにと視線を遠くに向けるのだった。




