7の9 引退ですか?
オーリオダムは、ガーリウム王国の魔法研究所の臨時研究員となった。
とりあえず、エンゾラールの引き継ぎをしたが、
「は?あいつは、世界滅亡でもしたかったのか?こんな研究続ける意味はないっ!」
と、即日破棄した。それからは、研究員の相談役になっている。
エマローズに譲られる予定の領地に、オーリオダムが、自費で私設魔法研究所を建てている。自分の研究はそちらができてから始めるそうだ。屋敷は、王都から馬車で1日半の距離だ。
「オーリオダムの発想は、類を見ない!思わぬ角度から解決策を見つけてくるのだ!」
とナハナージュ侯爵から聞いた、ジャンバディ・サンドエク伯爵は、魔法師団のことをオーリオダムに相談してみた。
「父上、わかりました。考えてみますね」
オーリオダムは、翌日、次期辺境伯であるカザシュタントに会いに行った。
その一週間後には、オーリオダムはジャンバディの伯爵邸の執務室へ、提案書を持ってやってきた。
それを、読んだジャンバディは大変驚いた。これが、可能なら、魔法師団解散どころか、もっと多くの魔法士を採用できる。一族の者ももっと雇える。
「ですが、父上、これはあくまでも机上の話です。カザンさんの話では、実践してみて脱落する者もいるそうです」
「そうかもしれん。特に、今の魔法師団は、戦闘未経験者ばかりだ」
「それでも、カザンさんは、やってみなきゃ、わからんって言っていました」
「そうだな。動かなければ始まらないな」
早速、その提案書を持って国王陛下に謁見した。3日後、ジャンバディはオーリオダムを伴い、登城することとなった。国王陛下の執務室へすぐに通された。ソファーへと案内され、挨拶も、そこそこに話が始まる。
「この提案書を書いたのはそなたか?オーリオダム」
「はい、そうです。国王陛下」
「今まで、遠征は何度か行ったが、この長期派遣という考えはなかったな」
派遣という考え方は、転生者ならではなのかもしれない。
「ちょうど、先日の学園の卒業式で、今後辺境伯になるという御仁と知り合いになりまして、その方に、辺境伯領の現状を聞いて参りました」
オーリオダムは、ジャンバディから相談を受けてすぐにカザシュタントへ面会に行った。
「それは、カザシュタントのことだな。騎士団長からも、マーペリア辺境伯からも聞いている」
「はい、そうです。カザシュタント殿から、辺境伯領では魔法士が足らず、戦闘に苦労することもある、と。父からは、戦闘に行かない魔法士戦力があると聞きましたので、それを解決することを考えました」
オーリオダムの提案書には、魔獣の森を持つ各辺境伯領に一定数の魔法士を、数年派遣する。その間、魔法師団でも、魔法士の育成を進める。また、数年後には、王都の魔法士と交代するというものだった。
「どの程度が、妥当だ?」
「仕事や地域への順応を考えると、3年から5年程だと思います」
「ふむ、王都を離れるとなると長いな」
「そうですね。ですから、できればご家族も一緒がいいと思います。
あ、それから、『魔法師団』からの派遣としたいのなら、国費で敷地と寄宿舎を用意するべきでしょう。
その中に、いくつか家族用の建物も建てればいいですし。家庭用のメイドまで、世話をする必要はないと思いますけど。家庭用の家のメイドは個人の自費であるべきでしょうね」
「ほぉ、それで」
「私の年齢だからかもしれませんが、結婚は気になりますね。当地で結婚した場合は、辺境伯軍へ移籍できる制度もあるといいですよね。結婚しなくても、その地が気に入れば、移籍できるとか」
「そうすると、魔法師団の人数が減るが?」
「派遣している間は王都の寄宿舎が空きますよね。その分採用して、育てればいいのです。現在、魔法師団は200程ですか?まずは未婚者を40名ほど派遣して、40名王都で採用する。3年後は、王都にいた者と交代させるを繰り返すのです」
「ジャンバディ、採用の宛は?」
「はい、今まで、かなり狭き門となっておりましたので、訓練は多少大変になるかもしれませんが、可能です。また、年功序列で団を離れた者もいるので、再採用もできます」
「そうか、若い者を増やすとなると教育係も必要であろう。その者たちが適任だな」
「ただし、ここにあるのは机上の話です。先日、カザシュタント殿から聞いた話ですと、魔獣討伐を、実践してみると落ちる者もいると」
「そうか、ジャンバディ、その見極めは?」
「実践でしか、わからぬことかと。ですが、例えば、本当の戦争やスタンピードでそれがわかるよりは、この案で、魔法師団の弱点が、今わかることは、良いことかと存じます」
「なるほどな。今なら修正がきく、ということか。なら早目がよかろうな」
「マーペリア辺境伯軍は、寄宿舎に余裕があると言っておりましたので、とりあえず、マーペリア領でやってみてはどうですか?試しに20名くらいですかね?
その間に、マーペリア領に魔法師団の寄宿舎を建て、使用人も現地で採用すればよいのです」
「おいっ!マーペリア辺境伯は、まだ王都におったな、カザシュタントと共に呼んでまいれ」
国王陛下が秘書官に命じる。
マーペリア辺境伯とカザシュタントは、もうすぐ結婚式なので、王都にいた。
そこからは、話はトントン拍子に、進んだ。魔法士を派遣されるという話に、マーペリア辺境伯もカザシュタントも大いに喜んだ。魔法士の防御壁や先制攻撃があれば、兵士の死傷はかなり軽減するはずだ。
マーペリア辺境伯は、魔法師団の寄宿舎を建てる場所もすぐに思いついたようだ。辺境伯領へ戻ったら早速建設を始めるそうだ。
「あくまでも、国の人材だ。かかった費用は、財務局へ申請せよ」
オーリオダムの言う、寄宿舎を国費で賄う意味を、国王陛下は理解していたようだ。
使用人の採用についても、マーペリア辺境伯は、
「雇用が増えるのは、大変嬉しいことです!」
と、手放しで喜んだ。
「その使用人たちの仕事や給与を管理する国の者が必要だな。魔法士派遣と共に行かせるように手配しよう」
マーペリア辺境伯でこの案を仮採用することに概ね決まり、今日は解散となった。国王陛下は、オーリオダムに問う。
「オーリオダムよ。ワシの相談役として王城に仕えぬか?」
「ご遠慮申し上げます」
「なぜだ?」
「妻になる女性と領地で暮らしたいからです。また、自由でもいたいですし」
「そうか。だが、また相談事があったら、頼むぞ」
「わかりました。その時には、妻になる女性と共に王都へまいりましょう」
こうして始まった魔法士派遣は、2年後には、他の辺境伯領にも採用され、各地への派遣人数も増やされ、数年後には、魔法師団は、600人を越えた。中には、オーリオダムの予想通り、結婚したり、領地を気に入ったりとその領地へ移籍した者も少なくないので、魔法士の数は格段に増えた。
まさに他国に類を見ない大魔法師団となった。
魔法士が国境沿いにほぼ、派遣されることとなり、日照りで水不足なら、頻繁に、水のために足を運べるようになったし、水害が起きたら、村が流される前に防御壁を作り、村人を避難させる時間稼ぎができるようになった。よい副産物だ。
ジャンバディは、十年後、長男に魔法師団団長を譲ったが、長男の一言で教育係に再採用され、引退もできない。まさか、あの頃には、考えられない悩みであった。
魔法家の悩み事は、次男の結婚式が残るのみである。それはまた、お楽しみに。
~魔法家の悩み事 fin~
明日から、隣国王子の結婚までのお話です。
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