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【完結】婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ  作者: 宇水涼麻
第二章 本編 ご令嬢たちの幸せ編
15/71

2の6 会場の前にて

 お昼を過ぎた頃、会場には生徒や保護者が集まりだし、話し声や笑い声で気持ちいいくらいに騒然としている。


 昨日、5人が待ち合わせを決めた場所にアリーシャが行くと、すでにエマローズとヴィオリアとカザシュタントが来ていた。ヴィオリアとカザシュタントは、二人とも背が高く武術を体得しているとあって姿勢がとてもいい。それに、整った顔をしているので、迫力のあるカップルだ。アリーシャが遠くから見てもすぐに彼らだと気がついた。


「ごきげんよう」

 アリーシャが笑顔で話しかけた。


「ごきげんよう、アリーシャ様。今日のドレスは雰囲気が違いますのね。大人の雰囲気もとてもお似合いになりますわ」


「ありがとうございます。エマローズ様もとても可愛らしいですわ」


「ごきげんよう、アリーシャ様。とても素敵ですね!」


「ふふふ。ありがとうございます、ヴィオリア様。ヴィオリア様もヴィオリア様の雰囲気に合っていて、とてもおキレイですわ。でも、お言葉が崩れていらっしゃいますわよ。会場内ではお気をつけくださいませね」

 笑顔で、でもしっかりと注意するべきところは注意する。さすがのアリーシャだ。そういう優しさ気の配り方が、男女問わず人気のある理由であろう。


「そうでしたわね。気をつけますわ。ふふふふ」

扇で、口元を隠しながらヴィオリアも笑顔で答えた。カザシュタントが紹介してくれという視線をヴィオリアに送る。


「アリーシャ様、こちらがわたくしの婚約者のカザシュタント様ですの」


「アリーシャ嬢、王城では、お見かけすることはありましたが、お言葉を掛けさせていただくのは初めてかと存じます。ノーザンバード子爵家三男カザシュタントです。以後、お見知りおきを」

カザシュタントが胸に手を当て、騎士の礼をとる。


「レンバーグ公爵家が長女のアリーシャですわ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわね」

軽く挨拶が済むと4人でたわいもない話を楽しんだ。


 暫くすると、会場入口近くに長身でがっしりとした男性が現れた。まわりをキョロキョロ見ていたが、こちらに気がつくと、手を振りながら駆けてきた。


「エマっ!!」

笑顔で手を振っている。


「まあ!ダム!どうしてここに?」


「君をエスコートしたくて、寝ないで馬を走らせたんだよ」


「えぇ、大丈夫なの?わたくしなら、おじ様がエスコートしてくれることになっていたのでしょう?心配いらないのに」


「心配したんじゃないよ。僕がどうしても君のエスコートをしたかったんだ」


「あなた、来るなんて、一言も書かれていなかったわ」

 エマローズの瞳に涙が浮かぶ。


「びっくりさせたかったんだ。ほら、泣かないで」

 オーリオダムは、エマローズの涙が流れる前にハンカチーフでやさしく拭う。


「無理して来て、本当によかったよ、こんなに可愛らしい君のエスコートをできるんだから」

 そう言われたエマローズは、びっくりした顔をして、その後何を言われたのか理解したようで、昨日は見せなかった真っ赤な顔をして、両手で顔を隠した。


「エマ、本当に久しぶりなんだ。ちゃんと顔を見せて」

 長身のオーリオダムが、女性の平均身長より少しだけ低いエマローズの顔を覗き込むようにして呟く。


 オーリオダムは、恥ずかしがるエマローズにさらに追い討ちをかけていき、しばらくそのやり取りが続いた。


 アリーシャとヴィオリアは『やはり、誰かを紹介するわけではなく、本人がその気だな』と感じたが、そこは言わない。さらには、『元老院が聞いた、明るくて聡明な子息という噂は、やはりオーリオダムだな』と確信したが、それも口には出さない。


 エマローズが、やっと落ち着いた頃にオーリオダムは皆に紹介され、挨拶をかわした。


 ちょうど挨拶が終わる頃、会場入口の方から、ヨアンシェルとヨアンシェルの右腕に手をかけてエスコートを受けるイメルダリアがこちらに歩いてきた。よく見ると、ヨアンシェルの左側に、ヨアンシェルより頭1つほど背の高い男性がおり、3人で歩いてくる。


 その男性を見たアリーシャは、肩をビクッとさせるほど驚いた。

 そして、近づいてきたその男性の服装を見て、さらに驚いた。ズボンやシャツ、ベストなどは白を基調にした爽やかな装いだ。が、少し光沢のある紺色のタキシードは、襟に透け感のある銀のレースが飾り縫いしてある。まさに、アリーシャとお揃いという衣装なのだ。



 男性はまっすぐにアリーシャに向かってきて、アリーシャの右手をとる。


「アリーシャ嬢、そのドレス、とても似合っている。予想以上の美しさだ。今日、貴女をエスコートする幸運を私にいただけないだろうか?」

「ゼファー様、どうして…」

アリーシャは混乱中だ。


「貴女の一生に一度の卒業パーティーを貴女と過ごしたかったんだ」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ???」

 アリーシャは、パニックのまま了承した。



 アリーシャがパニックを起こしている間に、それぞれの紹介挨拶を終わらせ、4組のカップルは会場入りすることにした。




 ゼファーの登場は、ヨアンシェル、イメルダリア、ヴィオリア、エマローズは、もちろん知っていた。

 だが、ドレスとタキシードのお揃いについては知らなかった。ゼファーの独占欲を見た気がして、4人は息を飲み込んだ。


エマローズは、幼なじみの登場を『知らなかった』のです。

アリーシャはゼファの登場を『知らなかった』のです。


ということで、4人のご令嬢の『知らなかった』成立とさせていただきました。特にアリーシャは『知らないことだらけ』です。


ご意見ご感想いただけますと嬉しいです。


筆者は語彙力少なめなので、言葉のご指摘なども受け付けております。


次話、明日19時投稿です。

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