2の4 令嬢たちの未来 3
「エマローズ様は?」
イメルダリアとヴィオリアの話の後だ、もちろん、エマローズのことも気になる。
エマローズはまだ婚約白紙から1ヶ月だ。たから、その後のことは、3人も知らないので、少し不安、少し期待で様子を見る。
「わたくしは、まだ婚約はしておりませんわ」
「ん?まだ??じゃあ、いい人がいるの?」
食いぎみにヴィオリアが聞く。
「い、いえ、その…相談に乗ってくれている方はいらっしゃいます」
少しだけ顔を赤らめてエマローズが答えた。
「あ、それは、文通の幼なじみの方ですわね!以前、文通なさっている幼なじみ様に、エンゾラール様のことを相談しているって仰っていましたものね」
と、イメルダリアが思い出したとばかりに聞く。9ヶ月前にあったヨアンシェルが3人に『このままでいいのか?』と聞いた時の話で出てきたようだ。
「イメルダリア様、よく覚えていらっしゃいましたね。そうです、その方ですわ。
実はその方は、エンゾラール様の双子のお兄様ですの。わたくしたち3人は元々幼なじみですのよ」
エンゾラールが双子だったことも知らなかったイメルダリアとヴィオリアとヨアンシェルはびっくりだ。
アリーシャだけは、知っていたようで
「オーリオダム・サンドエク様ね。先ほどの黒い箱の魔道具をお造りになった方ですわね。10歳で隣国へ留学なさってますわよね。そちらの国での開発に携わられたと聞いてますわ」
「えー!すごい人じゃないですか!」
声に出したのはヴィオリアだけだが、イメルダリアもヨアンシェルもそう言いたい顔をしている。
「そうらしいですわね。魔道具の開発については機密事項も多いので、わたくしも知ったのは最近ですの。わたくしとしては、幼なじみとして文通していただけでしたから。
ですが、みなさんと相談したあの日、ダムにお手紙をしたら、『メールボックス』という魔道具を送ってくださって、それからは毎日、文通をしておりますの」
「えー!『メールボックス』ってあの魔道具?人気がありすぎて、身分がどんなに高くても手に入らないって」
ヴィオリアは興奮状態だ。
この世界には『メール』も『ボックス』もそういう言葉は存在しない。でも、『メールボックス』という魔道具は存在し、それは開発者がつけた名前だ。
現代のボックスティッシュほどの大きさの箱が2つで1セットになっていて、箱に手紙を入れて蓋をとじ、蓋についている魔石に魔力を注ぐと対になっている箱に送られる。送られるというより、写し出す、つまり、ファックスに近い。なので、一度に手紙一枚しか送れない。それでもこの世界では充分だ。
「ええ、ダムはそれの開発にも関わっているらしくて」
エマローズはさすがに魔法研究所所長の娘だ。機密事項を侵さぬよう、慎重に言葉を選ぶ。
エマローズは魔道具の話はしたくないのだろうと感じたアリーシャは矛先を変えた。
「オーリオダム・サンドエク様を愛称でお呼びになるのね。」
からかう笑顔ではなく、本当に嬉しそうな笑顔でアリーシャが聞くので、エマローズも照れずに答える。
「小さい頃から遊んでおりましたから。エンゾラール様のことも、以前はエルとお呼びしていたのですが、メノール様の前でその名前で呼ぶなとおっしゃって…」
少しだけ暗い雰囲気になったが、ヴィオリアが矛先を変えるために話題を振った。
「そういえば、エンゾラール様って失礼ですけど、王子の側近って雰囲気じゃないなって思っていたんですよ」
矛先を変えたつもりが、泥沼になっている。アリーシャじゃないのだ。それも仕方ないだろう。
「それは、サンドエク家のご子息がアナファルト王子と年が同じで、明るく聡明だと、王城に噂が届いたそうですわ。
それで、元老院のご判断でアナファルト王子の側近に選ばれたと聞いておりますわ」
アリーシャの王城通はさすがである。
「まさか、その噂って…」
「ええ、今考えると、ダムのことではないかと…」
なんとなく、みんなが項垂れる。
「その話はともかく、幼なじみ様からは何とお手紙が来ておりますの?」
イメルダリアが一生懸命に軌道修正する。
「ええ、よくはわからないのですが、自分がなんとかするから大丈夫だと。
明日のパーティーも自分の代わりにサンドエク伯爵様がエスコートするから、会場の外で待っていてほしいと。
エスコートはお兄様に頼むから、と伝えたのですが、いいから待っていてほしいと強引で」
明日のパーティーは学園の卒業パーティーなので、エスコートは絶対に必要というわけではない。だが、下位貴族ならそれでもいいが、侯爵家であるエマローズはエスコートがあることが当たり前であろう。
「ダムが婚約者についてもどうにかすると言っているので、どなたか紹介してくれるのかもしれません。なので、『婚約はまだです』と答えましたの」
「そうでしたのね。よい方と縁があるといいですわね」
アリーシャが笑顔でまとめた。
「では、みなさん、明日のエスコート役の殿方は決まっていらっしゃいますのね。よかったわ。
わたくしはお父様に頼むつもりですの。お父様もパーティーには来る予定でしたから、少し早くなるくらいなら問題ないでしょう」
「姉上!姉上は僕がエスコートしますよ!」
「まあ、貴方はイメルダリア様のエスコートがあるでしょう」
「学園のパーティーなのです。両手に華でも問題ないですよ。そんなことができるのも学園ならではなのですから、是非僕にエスコートさせてください」
「そうですわ、アリーシャ様、三人で歩くなんて、楽しい思い出になりますわ」
イメルダリアもヨアンシェルの掩護射撃をする。
「そう?わかりましたわ。では、会場前で待ち合わせしましょう」
アリーシャも三人で歩く姿を想像して、楽しそうだと思い直した。
本当は、アリーシャにエスコート役を決めさせない理由があり、ヨアンシェルとイメルダリア、ヴィオリア、エマローズはそれを知っているのだ。
その後、5人で学園の食堂へ行き、学園での最後の夕食を楽しんだ。
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次回の7日19時、投稿です。




