アクセル
「ウルヒ王子! ビックニュースです!」
あまりのけんまくで王子の部屋に入ってきたクリスを見てウルヒはたじろいだ。
「なんだ、なんの騒ぎだ」
「いいこと聞いちゃった!」
「それはよかった……。だが、スカートがえらいことになってるぞ」
ウルヒが顔を少し赤くしているのを見てクリスは思わずスカートを両手で押さえた。
「……」
「で、なんだって?」
*
(うわぁ……これが舞踏会かぁ)
「クリス、あまりキョロキョロするな。怪しまれる」
「……はい、王子」
「私のことはウルと呼べ。王子とは呼ぶな」
「……はい」
二人はきらびやかな衣装を身に着けていた。
ウルヒの連れの女性として、クリスはドレスをまとっていた。
まわりにいる人間もみな同じような恰好をしている。
仮面をつけている者もいれば素顔をさらしている者もいる。
クリスは顔を知られていないので素顔だが、ウルヒは仮面をつけていた。
ここは隣国のさる貴族の別邸である。
先日、クリスはウルヒの後宮内である噂を耳にしたのだった。
『これ内緒よ。あたしの従妹が隣国のラビニア王女付きの女官なんだけど、今度の例のパーティにお忍びで出席するらしいの』
(……!!……)
いつもは噂話なんてくだらないと思ってたけど。
これはチャンスだ。
ウルヒ王子とラビニア王女を会わせるチャンス!!
クリスは一計を案じた。
ウルヒと共にその舞踏会に潜入することにしたのである。
そして偶然を装ってウルヒ王子とラビニア王女を対面させる……予定だ。
(それにしてもラビニア王女はどこだろう? 王女も仮面をつけているはず)
そのとき、場にちょっとしたザワめきが起こった。
女性陣の騒ぎに一瞬ウルヒの正体がバレたかと焦ったクリスだったが……。
「ねぇ、あの方なの? 名誉も地位も財力もある、若き貴族アクセル様は。気さくな良い方ね」
言われてクリスはその貴族を一瞥した。
金髪碧眼、うねるような髪……見るからに女性を虜にするような容姿端麗さ。
色気もある。
女性の人気を一身に集めていた。
(アクセル……)
クリスはある会話を思い出した。
仮面パーティの噂話を初めて聞いたときに耳にした名前だ。
『例のパーティにお忍びで出席するらしいの』
『ああ、アクセル様も出席されるって噂の』
(ふ~ん、あいつがアクセルか。またキースの嫌いそうなタイプ……)
そう思ったとき、偶然にもアクセルという男と目が合った。
瞬間、ゾクッとするような冷気のようなものを感じた。
(何、今の……)
「ゾクゾクするほどいい男ね」
他の女性客の言葉に我にかえるクリス。
(女の子の体だから無意識に反応してるだけなのかな……でも……)
周りにいた女性陣が声をあげた。
「ねぇ、こっちに来るわよ」
見ると先ほどまで別の女性陣たちに囲まれていたアクセルがクリスの目の前にいた。
「お嬢さん、一緒に踊ってくれますか?」
クリスは横にいるウルヒを見た。
ウルヒはうなずいて「いってくればいい」と小声でささやいた。
(しょうがない。怪しまれないようにしなくちゃ)
男はクリスの細い腰に手をまわすと自然とダンスの輪の中にクリスを連れて行った。
(うわぁ、さすがにエスコートが上手いや。キースならこんなこと……)
男は異様にクリスの体に触れてきた。
(これ……ダンスだから仕方ないんだよね……でも)
音楽がやむとアクセルはクリスを部屋の隅に誘導した。
(えっ、ちょっと待って。ウルヒ王子は?)
キョロキョロするクリスの腕をつかんでアクセルは自分の体の方に引き寄せた。
「……!!……」
「気に入った。名前はなんという?」
(なに……この人、怖いんだけど)
「俺の女にならないか? 不自由はさせない。何でも与えよう」
「……」
(なんだろこの冷気……気分が悪い)
「ごめんなさい。急いでるので」
クリスは逃げるようにアクセルから離れた。




