噂
「……いってぇ……」
目を覚ましたウルヒは頭を押さえていた。
「ズキズキする……飲み過ぎたか」
「……そうですね王子」
それだけじゃないんだなぁと思うクリス。
「ゆうべのこと覚えてないんだけど……」
そう言ってクリスを見たウルヒは青ざめた。
「……?」
「これ……」
クリスはウルヒに指さされて胸元を見た。
「……!!……」
キスマークがついていた。
「これはもしかして、夕べ……酔った私が?」
クリスはうなずくしかなかった。
ウルヒは頭をかかえた。
「すまない……。何も覚えてないんだ。責任はとる」
「あの……違うんです。何もなかったから」
「えっ……? 無理やり君を……」
「いいえ。されそうになったので……ちょっと攻撃魔法を使いました……」
一瞬きょとんとしたウルヒ王子だったが、意味がわかるとホッとした笑顔を見せた。
「……よかった」
「すいません王子。頭が痛いのはそのせいでもあるんです」
(攻撃魔法を王子に使ったなんて知ったらカイン先生怒るだろうなぁ……)
「ハハッ……いや、何もなくて良かった。すまないクリス」
ウルヒ王子が落ち着いたのを見計らってクリスは本題を切り出した。
「あの、昨夜なぜあんなことをしたかわかりますか?」
「えっ……」
「ラビニア王女が婚約したって噂と関係ありますか?」
「……」
「隣国の第四王女ですよね。昔、婚約されてた」
以前、ウルヒ王子とラビニア王女との婚約はカミラ妃によって妨害されていた。
隣国の王女を娶ることによって後継者の印象づけがなされるのを恐れたからだった。
「調べてみたんですけど、その噂は意図的に流されたデマでした」
「……!!……」
「ある人をあきらめさせたかったからじゃないでしょうか」
ウルヒの表情がこわばったように見えた。
「ひょっとして、そのラビニア王女と私が似ているんですか?」
「……」
「だから昨夜あんなこと……」
しばらくの沈黙のあと。
「……うん。……似てる」
ウルヒは何かを思い返しているようだった。
「抱きしめるとこう……柔らかくて安心する」
「えっ……?」
「いや、何でもない!」
「今なら間に合います。ラビニア王女の婚約はデマなんだから。好きなんでしょ?」
「しかし……」
「なんでそんなに気弱なんですか」
「彼女はもう私のことなど忘れているかもしれない」
「あ~もうじれったい! そうやって一生、他の女をラビニア王女だと思って抱くんですか? それってひどくないですか?」
そう息巻くクリスにウルヒ王子は一瞬言葉を失った。
しかし、クリスの言葉に勇気ももらったようだった。
「そうか……。うん、そうだな」




