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Please speak!  作者: 長野原春
9/113

テストって憂鬱だよね

 最近、雨が多くなってきた気がする。

 あ、そろそろ梅雨か。

 正直、雨は好きじゃない。

 洗濯物は乾かないし、買い物に行くのも面倒になるし、あと、登校中とかに靴に雨が染みこんだらむかつく。

 ものすごく、車がほしい。

 まだ16だから無理だけどさ・・・。

「・・・で、何で当たり前のように傘に入ってきてるんだミー子。」

「・・・?」

 何でそこで首を傾げられるんだ。

「二人で入ったら狭くなってどっちか濡れちゃうだろ。」

 もちろんミー子の方に傘を向けてミー子が濡れないようにするけどさ。

『なっち、片側濡れてるよ。』

「そう言うんだったら自分の傘を持ってきてくれ。」

 俺だって濡れるの嫌なんだから。

『でもね、』

 と、ミー子がそこだけ見せて、またケータイを打ち始めた。

 何を言う気だろうこいつは。

『なっちとさ、この距離でいられるのが好き。』

「・・・別に今じゃなくっても。」

 あざといですねこの子。

 狙って言ってるだろ。

「てか、本当のとこ、どうなんだ?」

『今度こそ傘が壊れた。』

「俺のドキドキを返せ・・・。」

『ドキドキしてたの?』

「そりゃおめー、いきなりあんなこと言われたら世の男はドキッとするもんだ。」

「・・・(ふんふん)。」

 何で頷いてるんですかね・・・。

「今日、帰りにミー子の傘買っていこうか。」

『えー。』

「えーじゃない。濡れて困るのは俺なの。」

「・・・(ぷいっ)。」

 ミー子はそっぽを向いてしまった。

 すんません、俺は朝から濡れながら学校とか行きたくないんです。

 ・・・別に帰りなら、いいけど。




「お熱いね。」

「うっせ。」

『なっちと私は夫婦。』

「まだそれ引きずってたのか。」

 いつの話だよ。

 大体2か月くらい前だよ。

「でも、相合傘で登校する男女なんてアヤとかがみんくらいじゃない?」

「いや、それはこいつが勝手に入ってきたからであって・・・。」

『傘が壊れた。』

「あー、それだったら、ちゃんとかがみんが風邪引かないように見てあげないとねー。」

「俺が濡れて風邪を引くということは考えないんですか。」

「まあまあ、前大雨の中傘も差さずに飛び出して行って風邪引かなかったんだから、大丈夫っしょ。」

 確かにあのときは風邪引かなかったけど・・・。

『そう、もし二人とも傘が壊れてもなっちが私の傘になってくれる。』

「俺に何をしろって言うんだ。覆いかぶされってか?」

『不潔。』

「おかしくない!?」

 てかひどくないこの子。

「多分ね、アヤがあったかいオーラを出して雨なんかはねのけるから大丈夫だよ。」

「俺はどんだけ超人設定なんだよ。」

 あったかいオーラってなんだ。

 それただ冬にストーブ代わりにされる人じゃねえか。

 平熱高い人とかがよく使われるよね。

 あれ・・・、触られてる方はめっちゃ寒いからやめてほしいんだけど。

「そういえばさ、そろそろテストだよね。勉強してる?」

 あー、そういえばテストだったな。

「日本史と国語だけ。」

『化学と数学だけ。』

「あんたら・・・。」

 いいの。分からないところは教えあうから。

 ただ、一つ問題点がある。

 二人とも、英語ができない。

「どうしようか、ミー子。」

『ほんと、どうしようね。』

「いつもはどうしてるのさ。」

 いつも・・・、いつもねえ。

「そういえば、いつも勉強してねーな。」

「・・・(こくり)。」

 赤点は一応回避している。

「今回も二人とも35点くらいかな!」

「・・・(こくこく)。」

「いやだめでしょ!?」

「なんで?」

「いや・・・、今の時代、就職とかにも英語って必要なとこあるらしいし。」

 うっわなにそれ。

 やっぱり働きたくねえ。

「英検とかとってると有利らしいよ?」

『むずかしそう。やらない。』

「諦めるの早っ!?」

 俺もミー子も英語に関しては全くやる気がない。

 赤点だけ回避してればいいかなー、という感じだ。

「もー、じゃあ今度あたしが教えてあげるよ。」

「祈木が?」

「そう。」

「・・・できんの?」

「うっわー!ねえかがみん!アヤがすっごい失礼なんだけど!」

『陽花、英語できたの?』

「かがみんまで!?」

 祈木が大げさなリアクションを取り、机に突っ伏した。

「・・・二人ともひどいなー。あたし、英語だけは得意なんだけどなー。」

 なんかぶつぶつ言い始めたぞこいつ。

「普通に頼りにしてくれたら教えてあげようかと思ったのになー。」

「・・・。」

『放っとく?』

「ミー子、さすがにそれはひどい。」

「・・・学年3位なんだけどなー。」

 最後のは、聞こえるか聞こえないかの小さい声で言った。

「・・・(ぽん)。」

 ミー子が、祈木の肩に手を置いた。

「・・・!かがみん!どうしたの?教えてほしいの!?」

『で?本音は?』

「英語を教える代わりに日本史と化学を教えてほしいです。」

 そういうことね。

 つまり、特定の教科だけめっちゃ頭いいタイプか。

 勉強会・・・と、言いたいところだけど、あれって集中が全然続かない。

 教えあう方法はあるけどね。

「こういうのはどうだ?」

「ん、なになに?」

『なになに。』

 二人が期待のまなざしで見つめてくる。

 そんな大したもんじゃないけど・・・。

「3人で、それぞれ問題とか、解説を作るんだよ。自分の知識の再確認にもなるし、解説ももらえれば自分で勉強できるだろ?」

「わざわざ作るのはめんどい気が・・・。」

「無理に勉強会やって集中切れて遊ぶよりはましだ。」

『たしかに。』

「それでいいか?」

「うーん、解説とか作れるかどうかわからないけど、やってみるよ。」

「おう。じゃあ、来週には持ってこよう。」

「・・・(こくり)。」

「りょーかい!」

 勉強会とかめんどくさいことにならなくてよかった。

 基本的に1人でやるものだもんな、勉強って。


「・・・やっぱ数学って苦手だわ。」

『授業中寝てるから苦手なんじゃないの?』

 それはごもっともなんだけど。

「公式とか、全然覚えられないんだよなあ・・・。」

『ノートに書いて、使い方とか暗記しよう。』

「暗記で大丈夫なの?」

『なんとかなる。』

 まあ俺の場合、ほとんど何もやってないから、暗記以前の問題なんだけど。

『前日に暗記しようか。』

「よろしく頼む。」

 一夜漬けになるかなあ・・・。


「ただいまー・・・。」

「あ、夏央くんおかえり~。」

 家に帰ると、春女さんがいた。

「春女さん学校から帰ってくるの早くない?いつも俺より早く家にいない?」

「えっ?ちゃんと学校行ってるよ?」

 いやそんな春女さんがサボってるとか思いたくないけどさ。

 そんな悪い人だとは思ってないけどさ。

 帰るとほとんど俺より先に家にいるので、ちょっと不思議に思った。

「毎日最高でも3限までしか授業取ってないからねー。3時には大学終わるよ。」

「だからか・・・。」

 3時に帰れるとか羨ましい。

「必修の授業が4限にないから、取る必要ないんだよね。単位足りてるし。」

 そういえば、去年春女さんは毎日家に帰ってくるのが遅かった気がする。

 なるべくたくさん単位を取って楽したかったのか。

「春女さん、大学卒業したら就職するの?」

「んー、薬剤師の資格でバイトしようかなあと。」

 バイト?

 薬剤師ってバイトなのか。

「実はね、薬剤師ってバイトの方が正社員より儲かるんだよね。」

「へえ。」

 バイトが正社員より儲かる・・・。

 手当とか厚いのかな?

「時給2500円以上は当たり前だし。」

「時給2500円!?」

 おいおいまじかよ。

 4時間で1万円だぜ?

 週5日なら1週間で5万か・・・。

 いや、普通にそれ以上だよな・・・。

 やべえ、薬剤師やべえ。

「都心の求人だと、ドラッグストアで時給3400円のところあったし。」

「3400円!?」

 おいおいどんだけ薬剤師恵まれてるんだよ。

 俺なんかバイトは時給900円だぜ・・・。

「バイトしてるだけで食いっぱぐれねえとかすげえ・・・。」

「ふふふ、でしょでしょ?」

 下手したら夫の年収超えるレベル。

 ・・・悪い男に寄り付かれないといいけどね。

「でも、合コンとか行くときはめんどくさいから大学の学科は明かしてないいんだよね。」

「なんで?もしかしたらレベル高い人が来るかもよ?」

「ヒモに言い寄られても困るから。」

 ちゃんと考えてらっしゃった。

 やべえ、いい暮らしできそうだし俺も薬剤師目指そうかな。

 でも化学苦手だし無理だな。

「そういえば、そろそろテストだよね。化学は大丈夫?」

「大丈夫じゃないです。」

 どちらかというと赤点を絶対にとれない数学の方がやばいけど。

「じゃあ、化学が苦手な夏央くんのために、私が一肌脱いじゃおうかな。」

「え?服脱ぐの?」

「夏央くんの変態。」

「ごめんなさい。」

 数学のことを考えていたせいで、春女さんの言葉の最初の方が聞こえなかった。

 一瞬本当に脱ぐのかと思った・・・。

「私あんまり胸大きくないし、冬華さんの方が見ごたえあるんじゃない?」

「誰もそんなの望んでない。」

 何が悲しくて姉の胸を見ないといけないんだ。

「あ、でも美衣ちゃんよりはあるよ?」

 そういう困る返答をしないでいただきたい。

 というか、横から見てもあるかないか微妙なミー子と比べても・・・。

「ミー子より小さいってそれもうまな板・・・ってかミー子がまな板だからなあ・・・。」

「大きい方と小さい方、どっちが好き?」

「えー・・・。」

 これはなんだ。俺は何で義姉に好きなバストサイズを聞かれているんだ。

「あの、別に俺胸の大きさとかあんま気にしないんだけど・・・。」

「大きくない女の子が喜びそうな返事だね。」

 いや、本当に気にしないから。

 人それぞれの大きさなのに、そんなんで優劣をつけられるか。

 おっぱいはすべて等しいんだよ。

「って、話が脱線しちゃったね。で、どうする?私が化学の先生になってあげようか?」

 化学がすごい得意なこの人なら、赤点は確実にないだろう。

 だったら、教えてもらうしかないかな。

「じゃあ、よろしくお願いします。」

「うんうん、分かったよ!じゃあ、私が教えるんだから、70点は目指そうか!」

「えっ。」

 70点・・・?

 俺そんな点数取ったことないんだけど・・・。

 最高48点だよ・・・?

「大丈夫大丈夫!私が1からわかりやすーく説明してあげる!」

「ああ・・・うん・・・。」

 1からか・・・。

 もしかしたら、大変な人に頼んでしまったかもしれない。




「いやー、春女さんの鬼指導のおかげで、今日2時間しか寝てないぜ・・・。」

『大変だったね。』

「化学の基礎から叩き直すって言われてさ・・・。優しい春女さんはどこに行ったんだ。」

『そんなに厳しかったの?』

「春女さんが作った問題を合格するまで寝かせてくれなかった。不合格だったら覚えなおしだし。」

『あんまり想像できないんだけど。』

「うーん、笑いながらもめっちゃ厳しい感じだった。」

『それ一番怖いタイプ。』

 まったくだ。

 今日の授業、起きていられる気がしねえ・・・。

 ああでも、日本史あるんだよなあ・・・。

 あれはさすがに寝られないし、何より日本史は好きだから寝ない。

 英語とかは寝るんだけどなあ。

「おー?どうした夏央。クマ出てるぞ。」

「ああ・・・、あんま寝られなくてな・・・。」

「普段は睡眠時間を結構取るはずの夏央が?」

「まあ、春女さんにたっぷり扱かれたといいますか・・・。」

「お、お前!?美衣ちゃんがいる前で何言ってんだよ!?てかそんな関係だったの!?」

 なに言ってんだこいつ。

 すぐに下ネタに持っていこうとする、男子高校生のよくない部分ですねー。

「勉強教えてくれるって言って、めっちゃ厳しかったんだよ・・・。」

「へー、あの春女さんがねー。」

 二人とも、厳しい春女さんというのが想像できないみたいだ。

 そりゃそうだよ。

 昨日まで俺だって春女さんがこんなに厳しいと思わなかったんだから。

 一時限のホームルームはもちろん寝た。




「・・・で、ずっと寝てたら茎野先生に荷物持ちをさせられたと?」

「そうなんだよ・・・。」

『なんかかわいそうだったから私も手伝った。』

 本当にミー子が手伝ってくれて助かった。

 女の子に手伝ってもらうとか情けないな俺・・・。

「ああそうそう、夏央が寝てる間に修学旅行の班長にしといたから。」

「はあああああ!?」

 なにそれきいてない!!

「先生が、そこに暇そうなやつがいるから班長にしてやれって。」

「おのれ茎野紅也!!」

 ゆるさんぞおおお!!!

 てか、一言俺に言ってくれよ。

 なにもいわないのはひどい。


 そのあとの授業も眠気は取れず、目薬を使ってもミンツィアを食べても効かなかった。

 クールミンツィアなのに・・・。

『よく一番前の席でミンツィア食べられるね。』

「あくびするフリしてなー・・・。」

『結局寝てたけどね。』

「うるせー・・・。」

 気づいたら学校が終わっていた。

 正直、自分でも寝すぎじゃないかと思う。

『立てる?』

「もうちょっと待ってくれ・・・。」

 長い時間寝てしまったので、今は低血圧でフラフラ状態だ。

 立てないし頭痛いし、嫌な気分だ。

「・・・よし、そろそろいいかな。」

 体に力を入れて、立ち上がった。

 が。

「よっ!あ・・・。」

「・・・!?」

 目の前が急に暗くなり、俺は倒れた。

「・・・(ゆさゆさ)!」

 ミー子が俺の体を揺らす。

 が、俺は反応できなかった。

 頭を打ってしまったらしい。

 いきなり立ち上がったのがいけなかったな・・・。




「・・・っ。」

「・・・!」

 目を覚ますと、白い天井が・・・学校の保健室だった。

 体を起こすと、ミー子が抱きついてきた。

「ああ・・・、すまんミー子。心配かけて・・・。」

『ほんとだよ。』

「自分の低血圧は分かってるのにな・・・。何で勢いつけて立ち上がったんだろ・・・。」

『なっちのばか。心配した。』

「ごめんな・・・。」

 正直寝起きでまだ頭が働かない。

 時計を見ると、18時と表示されていた。

 下校時間はとっくに過ぎていたが、養護教諭は待ってくれていた。

「絢駒君、大丈夫?」

「あ、砂護(さもり)先生・・・。まあ、なんとか・・・。」

「そう、ならいいわ。頭打ってるから、激しい動きは控えるように。」

「もう帰るだけですよ。」

「なら家でも安静にしてなさい。」

「はい・・・。」

『なっち、立てる?』

「ああ、大丈夫だ。」

 少しふらついたが、何とか立ち上がれた。

「まだ動きが怪しいわね。ああ、打ったところ、たんこぶになってるから触らないほうがいいわよ。」

「わかりました。」

 倒れた時に、結構強めに打ったらしい。

 頭の右側に、大きなたんこぶができていた。

『赤いたんこぶじゃないから大丈夫だね。』

「そうか、ありがとな。」

『今度、なっちの店でなんかおごってね。』

「へーへー。」

 ちょっと情けなかったが、ミー子に支えてもらいながら、家に帰った。




『なっち重かった。』

「まじでありがとう・・・。」

『ところでさ。』

「ん?どうした?」

『家、明かりついてなくない?』

「んー?・・・あ。」

 家まで帰ってきたが、ここで問題に気付いた。

 俺の家に誰もいなかった。

 母親は出張中だし、春女さんは・・・と思ったらケータイにラインが入っていた。

『友達とご飯食べてくるから悪いんだけど一人で食べて!こんど料理の当番代わるので!』

 うっそだぁ・・・。

「夕飯作らないといけないのか・・・。」

 ちょっと悲しくなって、肩を落とした。

 ズキン!!!

「いってええええええ!!」

 頭を下げたら、とんでもねえ頭痛が来た。

 だめだ、こんな調子じゃ飯も作れねえ。

 大人しく寝るかな・・・。

『なっち、大丈夫?』

「頭痛い。寝たい。」

『夕飯は?』

「作らない。」

『ダメ。』

 ダメと言われましても・・・。

 こんなに頭痛いんじゃ作れるものも作れない。

 家に入ろうとしたら、ミー子に腕を引っ張られた。

『私が作るから、食べて行って。』

「昨日もお邪魔したし、申し訳ないだろ・・・。」

『いいから。ご飯はちゃんと食べないとだめ。』

 断っても聞かなそうなので、俺は黙ってミー子について行くことにした。

 二日連続はなんか申し訳ないな・・・。


『今日は手伝わなくていいから、ゆっくりしててね。』

「ああ、わかった。」

『寝る?』

「起きた時にまた頭痛くなりそうだからやめとく。」

『眠かったら私のベッドで寝てていいからね。』

「いや、それはしない。」

 さすがに自分の部屋で寝るわそんなん。

『ちゃんときれいにしてあるよ?』

「そう言う問題じゃなくてだな。」

 ミー子のベッド、ちょっと柑橘系の匂いがして寝れないんだよな。

 別に嗅いだわけじゃなく。

 ゲームしてる時は大体二人でベッドに座っているからな。

 なんか言い訳がましくなっちゃったな。

『じゃあそこらへんで休んでて。』

「おう。」

『手伝わせないからね。』

「分かったよ。」

 ミー子には悪いが、ちょっと今は手伝える気にすらなれない。

 今日ぐらい、ミー子に甘えてもいいだろうか。


「・・・(ゆさゆさ)。」

「おっ!?」

『寝てた?』

「うーん・・・、ちょっとうとうとしてたかな。」

 頭痛くはないし、おそらく落ちてからあまり時間は立っていないだろう。

『ごはんできたよ。』

「ああ・・・、ありがとう。」

『簡単なものしかないけど。』

「いや、めっちゃ嬉しいよ。助かった。」

『そっか。』

 ミー子はどことなく嬉しそうに、俺の向かいに座った。

「いただきます。」

「・・・(もぐもぐ)。」

 ミー子の言った通り夕飯は簡単なものだったけど、やっぱりおいしかった。




 結局、家に帰ってもやることないし、暇なので寝るまでミー子の家にいることになった。

 まあ、一人でいるよりは全然いいし。

『もう大丈夫なの?フラフラしない?』

「ああ、大丈夫だよ。」

『頭痛くない?』

「大丈夫だ。」

『気持ち悪いとかない?』

「大丈夫。」

『打ったところは?』

「あー、痛いかな。」

『そこだとシップとかも腫れないね。安静にしてるしかないね。』

「そうだな。」

 なんか、アレだ。

 これが俗にいう、お前は俺の母ちゃんかってやつか。

 まあ、その心遣いが俺にはうれしいんだけど。

『安静、ということでこれはどうだ。』

 隣に座ったミー子が、俺の頭をつかみ、俺を倒す。

 強制膝枕となった。

「ミー子、これは。」

『動かないほうがいいんじゃない?安静にしてないと。』

 いや、安静は分かっているけども。

 さすがにこれは少々気恥ずかしいというか。

 ミー子はまじめにやってるんだろうけど。

『なっち、最後に耳掃除したのはいつ?』

 ミー子が突然そんなことを聞いてきた。

 えっと、最後にやったのは確か・・・、

「1か月前、かな・・・。」

『汚い。』

「それはどういう意味の汚いだ。」

『耳の中と、1か月も耳を放置していたなっち。』

「やる時間なかったんだよ・・・。」

『次からはちゃんとやりましょうねー。』

「はいはい。」

『と、いうわけで、今回は私がします。』

 まじか。

 ミー子が俺に耳掃除をするのか。

『ちょうど今膝枕してるし、ちょうどいい。』

 強制的に膝枕の状態になったんですが。

 太ももの感触については、あんまり考えないようにしている。

 ちょっとね、人の膝枕ってなかなか気持ちいいからね。

 無駄な脂肪はついていないが、女の子らしい柔らかさがある。

 実際に触ってみたい気もするが、それだと俺は警察のお世話になるだろう。

 ・・・ミー子なら、許してくれるかもしれないが。

『今からするから、動かないでね、ケータイ使えないし。』

「りょーかい。」

 俺の耳の中に、硬いものが入ってきた。

 耳の中でカリカリという音を響かせ、かゆいところを刺激する。

 目の前のティッシュの上に、今まで俺の耳の中に居座っていたものが置かれる。

 なんだこれでけえ。

 ちゃんとやらないとこうなるのか。

 気を付けよう。

 ミー子の力加減は絶妙で、すごく気持ちいい。

 ・・・なんだか眠くなってきたな。

 とても、穏やかな時間が流れていた。

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