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Please speak!  作者: 長野原春
10/113

復讐なんてむなしいものだ

「おはよう、ミー子。」

『おはよう。もう大丈夫?』

「ああ、ばっちりだ。」

「・・・。」

 ミー子が俺に近寄り、頭を触ってきた。

「ど、ぢうした?」

『たんこぶ、まだ治ってない。』

「1日で治るようなもんじゃねえよ。」

 まあ、激しく動かなければ問題ないし、大丈夫だろう。

「それより、今日はテストだけど、準備はできたか?」

『ゲームやってた。』

「まじか。」

 まあ、ミー子はテスト直前にノートを見直すような奴だし、大丈夫だろう。

『数学、教えたけど大丈夫?』

「まあ、うん。赤点はないな。」

 平均以下だろうけど。

「そっちこそ、日本史と国語は大丈夫か?」

『なっちのノートをコピーさせてもらったし、たぶん大丈夫。』

 お互い、どっちもどっちな気がする。

 英語は祈木のおかげで、何とか平均点くらいのレベルになった。

 ミー子は勉強の要領がよく、俺より高い点数だったが・・・。

『今日は日本史と化学。2時限で帰れる。』

「明日は国語と英語と数学か。嫌がらせか。」

『3科目を1日でやるもんね。』

 ものすごく嫌なんだが。

「テスト乗り越えて・・・、あ、期末もあるのか・・・。」

 なんだか気が重くなってきた。

 めんどくせえ。

『夏休みはまだ先だね。』

「ま、しかたない。がんばるかー。」

「・・・(おー)。」

 ミー子が腕を振り上げ、頑張るというジェスチャーをした。

 ・・・無表情でやると、何とも言えないシュールさだった。




「よーし、テストの時間だー。えー、注意事項は、そうだな・・・。携帯電話は電源切ってカバンの中に入れとけよー。んで、カンニングは不正行為とみなす。気をつけろよー。」

 今さらみんなわかりきってることではあるが、油断してるやつのケータイとかが鳴ったりするんだよな。

「いいか鏡崎。ケータイの電源は切っておけよ。」

『普段から切ってますよ!(`ε´)』

 まあ、学校が始まるとミー子は筆談になるし、気にすることはないだろう。

「1時限が化学で、2時限が日本史だ。みんなちゃんと勉強してきたかー?あ、そうそう。今回、テストが40点以下のやつらは赤点とか関係なく全教科補習になってるから、気をつけるんだぞー。」

「え・・・!?」

「・・・(びくっ)!?」

 ほ、補習だと!?

 化学は春女さんに教えてもらったし、英語は祈木に教えてもらった。

 ただ数学だけは赤点ギリギリだ。

 まずい。まずいぞ。

 今日、帰ったらミー子に数学を教えてもらおう。

「・・・(ちらっ)。」

 ミー子もこっちを見ている。

 おそらく、今日帰ったら国語を教えてくれということだろう。

「・・・(こくり)。」

「・・・(こくり)。」

 心が通じた瞬間だった。


 さあ、やるぞ。

 来いよ化学!難問なんて捨ててかかってこい!

「テスト、はじめ!」

 担任の合図で、テストが始まる。

 まず、問題の確認だ。

 ・・・うん、大問1は余裕だな。

 ここを間違えるのは高校生として恥ずかしい。

 たまに難しいのもあるが。

 さあ、大変なのはここからだ!

 大問2は・・・おお?これも簡単だな。

 今回は、先生がやさしめにテストを作ってくれたんだろうか。

 解ける!解けるぞ!

 いやいや、ここから説明などの問題が出てきて難しくなってくるはず。

 大問3!・・・おお!?これも解ける!

 いったいどうなっていやがる・・・。化学の問題が簡単だぞ!

 こ、これが春女さんの力か!夜遅くまで、睡眠時間を削った甲斐があったな!

 そうだ!睡眠不足でぶっ倒れたのは無駄じゃなかったんだ!

 よし!このまま制覇してやるぞ!

 大問4!・・・あっ、これアカン。

 有機物の化学式とか、複雑すぎてあんまり覚えてないよ・・・。

 やっぱり、まだ制覇は遠いということか・・・。

 今度、春女さんにまた教えてもらおう。


『なっち、化学どうだった?』

「もしかしたら平均以上いったかもしれない。」

『春女さんに教えてもらった甲斐があったね。』

「そうだな。」

『私が教えてあげてもよかったんだけど。』

「大丈夫だ。その分、あとで数学教えてもらうから。」

『うん。そのかわり、国語教えてね?』

「了解だ。日本史はどうだ?」

『赤点にならないようにノートを見る。』

「頑張れな。」

「・・・(こくり)。」

 ミー子が自分の席に戻り、真剣にノートを見始めた。

 俺は、まあ大体覚えてるし、大丈夫だろう。

 別に学年1位を取りたいわけじゃない。

 補習にならなきゃそれでいい。


 さあ、日本史のテストだ。

 はっきり言って、楽勝だ。

 吉田先生はアレな部分もあるが、基本的に教えるのはうまい。

 テストがよほど難解に作られていない限り、高得点は確実だろう。

「テスト、はじめ!」

 みんなが一斉に裏返されていたテストをめくった。

 さて、俺も始めますか。

 ・・・おお、簡単だ。

 さすが、THE暗記科目。覚えてれば楽勝だぜ。

 間違える気がしない。

 記憶力さえあればね、余裕なんですよ。

 バイト先のメニュー全部覚えるくらいにね!

 最後でつまずいた化学とは違い、時間をたっぷり残してテストを終えた。


「いやー、楽だったなー、日本史。」

『徳川家の家系が複雑で嫌い。』

「あれはゲームのキャラクターを覚えるみたいに片っ端から頭にいれるのに限る。」

『ほうほう。』

「さて、今日はもう終わりだし、帰るか。」

『提出物って何だっけ。』

「あー、日本史のノートだよな?化学は確か期末でいいって。」

『出しとかないと。』

「ノート、ちゃんととってたのか?」

『なっちのをコピーさせてもらって少しアレンジした。』

「それで大丈夫か・・・。」

 あの先生、なんか気づきそうで怖い。

「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ。」

「・・・(こくり)。」

 テストの緊張が解けたせいか、腹が痛くなってきた。

 早く帰って、ミー子に数学を教えてもらおう。

 このままだと確実に40点以下になる。

 これはまずい。

 さっさと用を足して帰ろう。


Side 美衣

 日本史、ギリギリかも。

 まあでも、なっちに教えてもらわなかったら40点以下は間違いないし、ちゃんと正解してることを祈ろう。

 補習、めんどくさいし。

 それに、なっちは日本史の補習に出ないから、なっちと一緒に帰れなくなっちゃう。

 それはやだなー。

 クラスのみんなは早々に帰った。

 今いるのはなっちを待っている私だけ。

 ・・・なんだか、一人の教室ってさびしいな。

 誰か一人でもいればいいんだけど。

 陽花でも、鈴波くんでも。

 でもできれば、なっちがいいな。

 ・・・なっち、早く来ないかな。

 と、思っていると、教室の扉が音を立てて開いた。

 さ、じゃあ帰ろうかな。

「あ、よう鏡崎。」

「・・・(びくっ)。」

 入ってきたのは、吉田先生だった。

 正直、一人でいるときには会いたくない先生だ。

 今でも、ちょっと怖い。

 まあ、前より全然変わったけど。

「んー、ノートも5クラス分持ってかないといけないしなあ・・・、鏡崎、手伝ってくれるか?」

 う、うーん。

 正直、教室でなっちを待っていたいんだけどな。

 でも、この先生の頼みを断るとなにされるかわからないし。

「・・・(こくり)。」

「おう、ありがとな。」

 とりあえず、なっちにはラインを入れといた。

 既読はつかなかった。

「じゃあ、解答用紙、持ってくれるか。」

「・・・(こくり)。」

 先生が3クラス分のノートを持つ。

「じゃあ、社会準備室まで行くぞ。」

「・・・(こくり)。」

 先生と二人で廊下を歩く。

 ・・・この先生、もう何もしてこないのかな。

 もう、大丈夫なのかな。

 土下座してくれたけど、しばらくの間私は全く信じていなかった。

 でも、あれからもう結構時間がたった。

 これからも、何もないといいんだけど。

「そういえばさ、鏡崎はいつも絢駒と一緒にいるよな。付き合ってるとか?」

「・・・(ふるふる)。」

「あ、そうなのか。」

 なんで人は一緒にいると付き合っていると誤解するんだろう。

 みんなそうだよね。

 ・・・付き合うってことは、なっちの彼女、だよね。

 うん、いい響きだね。

「じゃあ、絢駒といて楽しいか?」

「・・・(こくり)。」

「絢駒のこと好きか?」

「・・・(こくこく)。」

 即答だった。

 うん、私はいつもそばにいてくれるなっちが好きだよ。

「そうかそうか。」

「・・・?」

 何でこんなこと聞いてきたんだろう、この人。

 そんな話をしていたら、社会準備室に着いた。

 準備室の中にある、吉田先生のデスクに解答用紙を置く。

 よし、ミッションコンプリート。

 さあ、早く帰ろう。

 と、その時。

 かちゃん、と、部屋の鍵が閉まる音がした。


 Side 夏央

 腹痛から解放され教室に戻ってきてみると、誰もいなかった。

 まあ、明日のテストでみんな40点以下を取らないように必死なのはわかる。

 だから勉強しに家に帰ったんだよな。

 でもなんでミー子までいないんだ。

 ミー子が俺を置いて帰るなんてことはあり得ない。

 隠れてる・・・なんてことはないか。あいつ閉所恐怖症だし。

 じゃあ・・・図書室かな?

 ケータイを確認してみると、ラインが入っていた。

『吉田先生の手伝いで社会準備に行ってるね。教室で待ってて。』

 ・・・このメッセージが入ってから、8分が経っていた。

 普通、手伝いと言ってもノートを運ぶとかだろう。

 そんなの3分あれば戻ってこれる。

 それに、おそらく今ミー子は吉田先生と二人でいるんだろう。

「・・・ミー子!」

 なんだか異常な胸騒ぎがして、俺は教室を飛び出した。


 Side 美衣

「・・・!」

「ははは・・・追い詰めたぞ・・・。」

 吉田先生がゆっくりと私に詰め寄ってくる。

 私の後ろは壁。もう逃げられない。

 なんで、こんなことに。

 これから私は何されるんだろう。

 殴られるんだろうか。

 それとも、犯されるんだろうか。

 さすがに、男女の力の差など分かっている。

 逃げ場は完全に失われている。

「前から気に入らなかったんだよ・・・。お前のせいで、俺は周りから批判を浴びた・・・。障害者に障害者って言って何が悪いんだよ・・・。正しいことだよなあ?お前の心が弱いんだよなあ?」

「・・・っ!」

 障害者・・・。

 心因性のものだし、私の心が弱いのもわかるんだけど、面と向かって言われるとなあ・・・。

「なんで先生が生徒に土下座しないといけねえんだよ・・・。俺のプライドずたずたじゃねえか。どうしてくれんだよ・・・。」

 知らないよ。

「あんとき俺は決めたんだよ・・・。お前に復讐するって。お前の人生、壊してやるって。」

 なんで、私はこんなに恨まれないといけないんだろう。

 頭おかしいでしょこの人。

「ちょうど絢駒もいねーし、チャンスだと思ったんだよ・・・。あいつ、お前にべたべたくっつきすぎで邪魔だったからなあ。」

 ・・・それは、なっちがきっと私を守ってくれてたんだ。

 思えば、吉田先生がいるときはなっちがいつもそばにいてくれた。

 なっちが警戒してくれてたんだ。

「残念だったなあ、鏡崎ぃ。」

 吉田先生は、目の前まで迫ってきていた。

 ・・・怖い。

 なっち、たすけて。

 ここで、漫画とか小説ならピンチの時にはヒーローが駆けつけてくれる。

 でも、現実はそんなに甘くない。

「へへへ・・・。捕まえたぞ・・・。」

「・・・っ!」

 先生に腕をつかまれた。

 その手には、痛いほどの力が込められている。

「これは邪魔だなあ・・・。」

 ぶちっ、とYシャツのボタンがはじけ飛んだ。

 ブラジャーが露わになり、私は床に組み敷かれた。

 ああ、やっぱり、そうなんだ。

 私はこれから、この人に犯されるんだ。

 男ってみんなこうなんだろうか。

 こういうことしか考えてないんだろうか。

「邪魔だよこのネクタイ!」

 先生が私のネクタイを外そうとするも、片手だとほどけないのか、あきらめた。

「・・・何だこのネクタイピンは。こんなもん学校につけてくんな!」「・・・!」

 先生が私のネクタイピンに手をかけた。

 そのネクタイピンは、中2の時になっちからもらったものだ。

 三日月のネクタイピンで、斜めに赤い線が入っている。

 厨二ちっくだったけど、私は気に入っていた。

 だって、なっちからのプレゼントだから。

 それをこの先生は奪おうとしている。

 やめろ、という意味で体に力を込め、少し抵抗した。

「暴れんじゃねえ、このクソが!」

 思いっきり胸をつかまれた。

 い、痛い・・・!

 胸がないから余計に痛い。

「もう我慢できねえ!おらヤるぞ!抵抗したら殴るかんな!」

 スカートを下される。

「てめえ!タイツなんか邪魔だ!穿いてくんじゃねえ!」

 さっきからこの先生が言ってることはめちゃくちゃだ。

 校則違反は何もしていない。

 タイツ邪魔だから穿いてくるなって、ひどいにもほどがあるでしょ。

「ははは・・・、タイツ破いてやったぜ・・・。なんだこの光景、エロいなあ・・・。」

 先生が明らかに興奮している。

 私はこの後、無理やりめちゃくちゃにされるんだろう。

 ・・・初めては、なっちにあげたかったなあ・・・。


 Side 夏央

 社会準備室の扉には、鍵がかけられていた。

 部屋の中からは、荒ぶった吉田の声が聞こえてくる。

 今ミー子を助けるためには、このドアを蹴破るしかない。

 幸い、鳶ヶ谷高校は老朽化が進んでいて、ドアも簡単に壊すことができる。

 親には迷惑をかけてしまうかもしれないが、仕方ない。

 俺は、ミー子を守ると決めたんだ。

「うらあっ!!」

 思い切りドアを蹴った。

 ドアは壊れ、中には吉田と、床に倒されたミー子がいた。

「近づくな絢駒!」

 中に入ろうとした俺を、吉田が止めた。

「いいかあ?それ以上こっちに来たら、鏡崎は俺が犯す。分かったら入ってくんなよ?」

「・・・っ。」

 すでにミー子の服は脱がされ、下着だけとなっていた。

 このままだとミー子はまた大変なことになる。

 今度こそ不登校になるかもしれない。

 そんなの、俺が許さない。

「なあ、絢駒。こいつ、お前のことが大切なんだってよ。お前もこいつのことが大切なんだよなあ?」

 吉田はいきなり何を言い出すんだ。

 大切に決まってるじゃないか。

「そんな大切なもの、俺が壊してやるよ。」

 ゴッ、と、鈍い音がした。

 吉田が、ミー子の顔を殴った音だった。

 ・・・ミー子を殴った?

 その瞬間、俺の体が熱くなるのを感じた。

 目の前が赤く染まり、周囲のものが見えなくなる。

「ヒャハハハッ!どうだ絢駒ぁ!?大切なものが壊される感覚はよお!?」

 続けて2回、ミー子の顔を殴った。

 俺は考えるのをやめ、無言で走り出した。

 そのあとのことは覚えていない。

 気が付いたら、俺の手は真っ赤に染まり、他の先生たちに抑えつけられていた。




 そのあと、事件はすぐに広まった。

 学校の不祥事により会見が開かれ、それに伴ってテストは中止となった。

 吉田は逮捕され、先生を殴った罰として俺は停学処分になった。

 もっとも、事件の内容を考慮に入れ、停学1週間ですんだが。

 ドアを蹴破ったことに関しては弁償となったが、母さんは俺によくやったと言ってくれた。

 あれから3日。

 俺は今ミー子の部屋にいる。

 ミー子は学校に行っていない。

 あの事件が起きてから、俺はずっとミー子と一緒にいた。

 いや、何があっても、ミー子は俺についてきた。

 医者の話によれば、しばらく学校には行かないほうがいいそうだ。

 なら、停学処分を食らっている俺がそばにいてあげるしかない。

 ミー子の気が済むまで、抱きしめてあげるしかない。

 あの時の病室と同じように、部屋の空気は、死んでいた。

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