夢の続きです
Side 春女
わ、わああ、どうしよう。
なつくんが私の太ももの上で寝てるよ。
まさかあんなに早く寝ちゃうとは・・・。
それだけ気持ちよかったのかな?
そ、それならうれしいんだけど・・・。
・・・なつくん、寝顔可愛い。
こんな近くで寝顔なんて見る機会なかったからなあ・・・。
「ん、うう・・・。」
わっ、起こしちゃったかな?
調子に乗って手を伸ばしちゃった。
・・・起きてないよね?
「・・・おーい。」
返事は帰ってこない。
ほっ、よかった。
起こしちゃったわけじゃないみたい。
にしても、耳掃除してあげるのはいいんだけど、顔をこっちに向けられちゃうと緊張するなあ。
服を着てるとは言え、お腹を見られるのはなんか恥ずかしいし・・・。
「・・・膝枕かー。」
何回かしたことはあるけど、ちょっと恥ずかしい。
というかこそばゆい。
それに、髪の毛がちょっとチクチクする。
ロングスカートの下、タイツ履いてるんだけどな。
・・・紗由だったら、膝枕なんて何の抵抗もなくやっちゃいそう。
特になつくんが相手ならなおさら・・・っていうか、紗由には男の友達ってなつくんくらいしかいないのか。
紗由も、結構気に入ってるっぽいけど。
「・・・う、うぅ。」
「・・・ん?」
なつくんの表情が厳しいものになった。
どうしたんだろ。
夢でも見てるのかな?
「・・・くぅ、ミー・・・・!」
美衣ちゃんの夢かな。
もう、私の上で寝てるのに、他の女の子の夢を見ちゃうなんて、とっても無粋。
すごーく、悪い子。
でも、何というか苦しそう。
嫌な夢なのかな。
「んっ・・・!・・・すぅ。」
あ、あれ?
おさまった?
「・・・ごめん、どのくらい寝てた?」
「んー、45分くらいかな?」
「足しびれたりしてない?」
「そんなヤワじゃないよ。それに、私はなつくんの方が心配なんだけどな。」
「俺?どうかしたの?」
「なつくん、何か夢見てたでしょ。うなされてたよ?」
春姉が心配のまなざしで俺を見てきた。
確かに夢見たけどあれは・・・。
「美衣ちゃん、どうかしたの?」
「う、うーん・・・。」
そう、あの夢に出てきたの、確かにミー子だったような気がするんだけど・・・。
「・・・もしかしたら、ミー子じゃないかもしれない。」
「うん?」
「なんか、夢に出てきたのって、ミー子に似てる誰かなような気がして・・・。」
「・・・んー?」
春姉が首をかしげた。
無理もない、俺だってよく分かってないんだし。
顔はミー子に似てたんだけど、ミー子に比べてやたら表情が豊かだったし、顔立ちもほんのちょっと違ったような・・・。
ミー子だって、だいぶ笑うようにはなったけど、基本的には無表情だし。
「美衣ちゃんじゃないけど美衣ちゃんに似てる子が夢に出てきたんだね。うなされてたってことは、嫌な夢だった?」
「まあ、ミー子っぽいのが、どこだかは分からないけど、急にどっか手の届かないところまで行っちゃって・・・、そのまま、真っ暗。」
「・・・だから途中でおさまったんだね。」
春姉が頷いたけど、俺にはよく分からない。
おさまった?
「まあ、夢ってのはよく分からないしな・・・。ミー子に比べたら若干幼く・・・あっ。」
あれ、なんだろう、分かったかも。
「どうかしたの?何か、分かった?」
「かもってだけだけど・・・。もしかしたら、風羽ちゃんかなって。」
「えーと、美衣ちゃんの妹・・・だよね?」
「そう。もしかしたら風羽ちゃんが大きくなったらあんな感じだったかもしれないな、って。」
「私は見たことないからわからないけど・・・それ、あんまり悪い夢でもないんじゃない?」
「そうかな?」
「うん、その風羽ちゃんって子が、自分が大きくなった姿をなつくんに見せたかったのかもしれないし。」
・・・なんだ、風羽ちゃん、いい子だな。
もしあのまま育ってたら結構ミー子に似ることになってたんだな・・・。
「・・・(すっ)。」
うなされていないかが気になって、寝ずにミー子を見ていたら午前1時。
ミー子が体を起こした。
取り乱してはいないが、起きたミー子は右手で頭を押さえた。
「ミー子、大丈夫か?」
「・・・(びく)。」
起きてるとは思わかなったのか、ミー子の肩が軽く跳ねた。
『起きてたのの。』
「打ち間違えてるぞ。」
『起きてたのね。』
「まあ、心配でな。大丈夫か?」
『そんなひどい夢じゃないし大丈夫。なっちが助けてくれた。』
「おっまじか、俺超かっこいいじゃん。」
「・・・(こくり)。」
それでも頭を押さえていたということは他の登場人物が悪かったんだろうか。
もしかして吉田だろうか。
『ピンチの時は助けてくれる、まさに私だけのヒーロー。』
「そもそもピンチに陥ること自体いいことじゃないんだけどな。」
『否定できないけども。』
ミー子が肩をすくめた。
「ああそういえば、夕方寝ちゃってさ。そん時、夢に風羽ちゃんが出てきたんだよ。」
『え、風羽が?』
「そうそう。多分風羽ちゃんがあのまま成長してたならこんな感じかなってやつ。ミー子に似てかわいかったぞ。」
『あら、さすがは私の妹。』
「表情も豊かだったぞ。」
そういうと、ミー子が俺をじっと見つめた。
「な、何だ?」
『私に何か求めてる?』
ミー子が小さく首をかしげた。
『その夢の中の風羽みたいに表情豊かにしてほしい?』
「・・・慣れないからいいや。」
『ちゃんと声が出さえすれば変わるかもしんないけどね。』
「じゃあ、その時まで待つぞ。」
『あらやさしい。がんばるよ?』
「頑張るっつっても、焦るのはよくないからな。」
『何年待つつもりよ。』
「そりゃおめー、いつまでもだ。」
『よし決めた。私そんなに待たせてられない。』
ミー子がうなずく。
何にうなずいたんだ。
「とりあえず今日は病院だな。」
『そーね、寝てる時に起こされるとか嫌よ。』
そう言って、ミー子はまた横になった。
「・・・(もぞもぞ)。」
・・・。
「・・・(ぐいぐい)。」
・・・。
「・・・(ぐいーっ)。」
・・・。
「・・・(べし)。」
「んがっ。」
何だ。
何で俺は叩かれたんだ。
そもそも今何時だ。
「・・・ん。」
超至近距離にミー子がいた。
ミー子が俺の事を見つめていた。
「・・・何事っ!?」
「・・・(びく)。」
いきなり大声を出したせいで俺の腕の中でミー子の肩がびくついた。
・・・ん?腕?
「・・・あっ。」
時刻は5時。
ミー子にとっては起床時間であり、外に出る時間。
いつもなら着替えて外を走っていることだろう。
しかしミー子は今それができずにいた。
・・・はい、俺が抱きすくめていたせいですごめんなさい。
『ペナルティが発生しました。』
えっちょっとやだ嫌な予感。
『なっちも起きたんならちょうどいい。ほら行くぞなっち。』
「うあーやだー。」
1時間走らされた。
「ミー子足速いんだよまったく・・・。」
「・・・ふふ。」
ミー子が息だけで笑った。
珍しいこともあるもんだ。
『なっちも走りつづけたら速くなるかもよ?』
「走るの好きじゃないから無理かもな。」
『スピードスター・・・いや、速さの神だって目指せる。』
「俺をヘルモーズにするな。」
『そんなマイナーな神の名前が即座に出てくるとは・・・さてはお主、厨二病じゃな。』
「うっせうっせ。気になってた時期があんだよ。」
『それを厨二病というのでは。』
「うっせうっせ。」
家に戻ってリビングでゆっくりしていた。
『そういえば寝ないのね。』
「なんか眠くなくなっちまった。昼間眠くなりそうで怖いわ。」
『その時は私も一緒に寝よう。』
「病院行くんだろが。」
『テ ヘ ペ ロ ☆』
「わざわざ間隔空けないでいいわ。」
ちょっと笑っちまったじゃねーか。
「おっ!夏央!美衣ちゃん!早いな!」
リビングに父さんの元気な声が響いた。
朝から本当に元気ですね。
「その格好はどうしたんだ?ってか、美衣ちゃんも夏央もなんか汗かいてない?」
『外走ってきたんです。私の日課です。今日はなっちを付きあわせたんです。』
「はは!そうかそうか!運動はいいぞ!それに、仲がよさそうで何よりだ!」
『もちろん、なっちは私の彼氏ですから。』
父さんが止まった。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
無言の時間が流れ、父さんは目だけで俺とミー子を交互に見た。
「あ・・・え?」
なんか情けない声を父さんが出した。
面白いことになってんな。
「え、なに夏央彼女できてたの!?」
「・・・(びく)。」
ようやく理解した父さんが大声を上げた。
突然の大声にミー子が肩をびくつかせる。
こいつびっくりしやすいな。
「なんかやったら仲良さそうだなーとか思ってたらそういう事だったのか!」
『まあさっきまで一緒に寝てたわけですし。』
「・・・。」
再び父さんが止まった。
どうやら予想外のことにかなり弱いらしい。
考古学なんて予想外のことだらけだと思うんだけど。
「な、夏央?ひ、避妊はしっかりな?」
「しっ・・・てねーよ!!ミー子のいる前で何言ってんだこの人!?」
ミー子もさっと顔を逸らした。
が、よく見てみると出ている左耳が赤くなっている。
「な、なんだよ!そうだよな!ただ一緒に寝ただけだよな!幼なじみだもんな!うんうん!」
父さんが大きく頷く。
何か自分に言い聞かせるかのように。
『面白い人だね。』
「面白いといえるミー子がすごい。」
ミー子も変わってるからか。
「・・・そうだねえ、まずはその夢の内容を教えてくれないかな。」
診察室で、二五市先生が難しい顔をしている。
『いっぱいあるんですが・・・。』
「じゃあ、最近の夢で一番印象に残っている夢で。」
「・・・(ちら)。」
一番印象に残っている夢と言われ、ミー子がこちらをちらと見た。
俺には言いづらい内容なのかな?
「俺、席外そうか?」
「・・・(ふるふる)。」
どうやら言いづらい内容ってわけでもないらしい。
『ちょっと長ったらしいので手話でもいいですか?』
「大丈夫、僕も手話は分かるからね。」
『ありがとうございます。』
そういうと、ミー子はケータイを置いた。
そして、手で言いたいことを伝え始めた。
『真っ白い部屋で、なっちがベッドに寝かされているんです。そのベッドの周りには、たくさん花が飾られていて、まるで葬式の棺のようでした。なっちには心電図が繋がっていて、40っていう数値で止まっていたんです。私は目の前でなっちを見ていたんですけど、急に数値が下がり始めたんです。なっちは苦しそうにしていて、私は何かしようとするんですけど、その場で全く動けないんです。その間も数値はどんどん下がっていってそのまま・・・っていう夢です。』
それがあの時の夢の全容か。
それは・・・きついな。
何もできずに、目の前で・・・。
・・・そういえば、前に俺も似たような夢を見た。
あの時は、俺の目の前でミー子が自殺したんだけど。
「なかなか、辛い夢だね。美衣さんは何度もその夢を?」
『似たような夢は、何度か。シチュエーションが違くても、なっちが死ぬのは確かなんです。』
「そういう夢ばかりなのかな?」
『そういうわけではないんです。小学校の頃、いじめられている時の夢とか、あと、高校で先生に襲われそうになった夢とか、思い出すような夢を見るときもあるんです。』
「そういう夢か、前の出来事の記憶を思い出させるような夢、ということだね。」
「・・・(こくり)。」
・・・改めて考えると、ミー子はだいぶやばい状態だな。
俺だったら多分、耐えられないと思う。
夢の中で、何度もミー子が死ぬなんて。
「そうだねえ・・・美衣さんは、夏央くんのことで困ってることとか、ないかな?」
「・・・!」
ミー子の肩が反応を見せた。
俺に対して困ってること・・・?
「その夏央くんが死ぬっていうのは・・・いや、基本的に恋人が死ぬっていうのは悪い夢じゃないんだ。希望や新たな可能性を象徴してる場合が多い。でも、美衣さんの話だと、夏央君は病気で死ぬんだよね?その夢はね・・・。」
「・・・。」
ミー子が先生の話を真剣に聞く。
「そう、恋人に憶病になっていることの暗示なんだ。相手を大切にしたいばかりに控えめになってしまっている、ということだね。『こんなこと言ったら嫌われちゃうかな?』とか・・・『私の行いで迷惑かけてないかな?』とか。」
「・・・!」
「あっ!」
俺も思わず声をあげてしまった。
それには心当たりがある。
「正直に言ってほしい。」
『迷惑かなとか、重くないかなとか、毎日思ってるんです。なっちは普段から眠そうで、でも私のせいで睡眠時間が減っちゃうし、心配かけたくなくて、早く治したいんですけど治らなくて、それでさらに迷惑かけてないかなって。』
「・・・なるほど、それは悪循環だ。」
「ミー子、お前そんなこと・・・。」
『遠慮はいらないって言われてもさ、どこか気にしちゃうんだよ。』
「まあそれは人として仕方ないことだ。でも、美衣さんがどんな状態でも、夏央君は真摯に接してくれるはず。甘えたっていいと思うよ。」
「おう、どんとこいだぜミー子。」
ミー子がうつむいた。
「それにね、夏央君は、そういう風に考えちゃう美衣さんを心配しちゃうと思うんだ。」
「・・・!」
ミー子が顔を上げた。
うん、それはそうだ。
ミー子が心配じゃないはずがないから。
「自分を出して、いいって言ってくれるなら素直に甘えるのが一番いいと思うよ。」
「だってさ、ミー子。」
『素直に甘えると私大変なことになっちゃうけど。』
「別になんてことないんだぜ。」
『本当にいいの?』
「当たり前だろ?」
「・・・。」
ミー子が斜め下を向いた。
まだ、少し戸惑っているのかもしれない。
「あっ、じゃあ、とりあえず突拍子もないこと言っていい?」
「・・・?」
「ミー子さ、仮に声が出るようになったとして、どんな声なんだろね?」
『本当に突拍子ねーな!?』
これにはさすがに驚いたらしい。
「いやいや、これはこれで俺とミー子の明るい未来への予想だぜ?」
『未来は明るいのね。』
「当ったり前だろ。お前との未来がお先真っ暗でたまるかっつんだよ。」
『まあそれもそうだけども。』
「で、どんな声だと思う?」
「・・・。」
ミー子が、あごに手を当てて考え始めた。
少し気分替えになったかな?
「・・・?」
ミー子が首をかしげた。
想像はつかないらしい。
「小学生の時のままとかだったら面白いよな。」
『恥ずかしすぎるだろそれ。』
「かわいいんじゃない?」
『別の意味で声出せなくなるわそんなん。』
「でもちっちゃい時ミー子って結構かわいい声してたよね?」
ミー子が固まった。
かわいいと言われたからか、ミー子の顔が赤くなった。
『そんな声してましたっけ。』
「してたしてた。なんならビデオテープかなんか残ってるんじゃねえの?」
『ちょっと待って見る気?』
「見ようぜ。ちっちゃい頃の俺たちがどんなもんだったか。」
『嫌なんだけど。』
「それれっつらごー!」
「・・・(じたばた)。」
とりあえずテープが残ってるであろうミー子の家に、ミー子を抱えていった。




