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Please speak!  作者: 長野原春
104/113

ロケットキス

「ただいまー!」

 冬姉が元気に家の中へ入って行く。

「そういえばハルさんは帰ってきてないんだね。」

「大学かな?」

「早くびっくりさせたいんだけどな。」

「春姉泣くんじゃないかな。」

「ありそう。」

 うん、なんか容易に想像できるぞ。

 もしかしたらミー子が喋った瞬間にびっくりして泣くかもしれない。

「帰ってくるの楽しみになってきた。」

「父さんも忘れるなよ。」

「清松さんも泣くのでは。」

「あり得る。」

 父さんも春姉も瞬間的に泣きそう。

 実際俺も泣いたしな。

「陽花に電話してみようかな。」

「まずミー子から電話がかかって来た時点で相当驚くと思うぞ。」

 今までは喋らないから電話をすることはほとんどなかった。

 これからはそれが可能になるわけだ。

「やってみよう。」

「あとなっち、いつまで外にいるんだろう。」

「・・・俺の部屋行こうか。」

 冬姉の後ろにいたからね、忘れてたよね。


「じゃあやろう。」

「やってみよう。」 

 ラインの画面から、祈木のトークを開く。

 そして、無料電話をかける。

 すると、祈木はすぐに出た。

『もしもしー?アヤだよね?』

 まさかの俺扱い。

 そりゃそうか、ミー子は喋らないから電話をしてこないと思ってるわけだよね。

 俺が代わりに電話してきてると思ってるんだな。

『あれ、なんか長くない?もしかしてかがみん?』

「はぁい陽花。あなたのかがみんですよー。」

『えっ!?だ、誰だっ!』

「えっ。」

 予想していない反応が返ってきた。

 でもそうか。

 祈木にとっては知らない女がいきなりしゃべり始めたということになるんだよな。

「は、陽花!私です!鏡崎美衣です!!」

『ほんとに!?ほんとにかがみん!?』

「ほ、ほんとだよ!!」

『そ、そっか・・・かがみんなんだね。』

「なんか一気に静かになった。」

『う、うぅ・・・。』

「泣いた!?」

『かがみん・・・よかったぁ・・・。』

 ガチ泣きだった。

『かがみん・・・声可愛いね。』

「そこには触れないでいただきたい。」

「だよな祈木。ミー子の声可愛いよな。」

「うるせぇんだよちょっと黙っててくれよ。」

 やっぱりミー子の声はかわいいんですよ。

『かがみん、学校で待ってるからね・・・ぐすっ。』

「わ、分かった。」

『じゃあね。』

 電話が切れる。

 めっちゃ泣いてたじゃん。

 ミー子のことを大切に思っててくれたんだな。

「次は京介くんに電話しよう。」

「ノリノリですね。」

「京介くんがびっくりするところも楽しみなわけですよ!!」

「なるほどね。」

「さて・・・。」

 電話を起動しようとしたところで、ミー子のケータイが鳴った。

 相手は京介だ。

「まさか・・・。」

 微妙な顔をするミー子。

 このタイミングでかけてくるということは、まあそういうことだろう。

「とりあえず俺が代わりに出てみよう。」

「よろしくね。」

 ミー子からケータイを受け取り、電話に出る。

「もすもす?」

「夏央!?美衣ちゃんが隣にいるんだろ?」

「あ、はい。」

「陽花から聞いた!!」

 やっぱりね。

 ミー子もちょっと残念そうな顔をした。

 仕方ないのでミー子にケータイを渡す。

「も、もすもす?」

 真似すんのかよ。

『美衣ちゃん!!ほんとに声出てんじゃん!!』

「お、おかげさまで。ありがとうございます。」

『・・・なんかよそよそしくね?』

「そ、そんなことありませんって。」

『いやあるよね?めっちゃあるよね!?』

「ねえっつってんだろ。」

『ハァーン!それでこそいつもの美衣ちゃんだね!』

 こいつうるせえな。

『それにしても美衣ちゃんのちゃんとした声初めて聴いたよ。』

「そうだね。」

 京介と知り合ったのも中学からだし、まわりはミー子の声を知らない人だらけなわけか。

『かわいい声してるな!』

「陽花に京介くんが浮気してるって言いつけるね。」

『なんで!?』

 やっぱそこには触れてほしくないのか。

「やっぱり京介も―――むぐ。」

「なっち。」

 ミー子が笑顔で威圧してきやがった。

 なんだよもう。

「と、とにかく!私は声が戻ったので!」

『それに関してはマジでおめでとう!また学校で会おう!』

「うん、またね。」

『じゃ!俺はこれから陽花の家に遊びに行くので!』

「そこまで聞いてない。」

『辛辣ゥ!』

 そういって電話が切れた。

 あいつほんとうるせえな。


「私の声が戻ったって、言うべき人が多いね。」

「ああ、今度病院にもいかないとな。」

「そうだった。」

「あと、店長にもな。」

 専門学校の合格報告も込めて。

「店長、今電話したら出るかな?」

「夕方時って多分忙しいんじゃないかな。」

「・・・そうだよね。」

 店長への電話はもうちょっと後でもいいかもしれない。

「あ、紗由さん。」

「多分京介よりもうるせえと思うぞ。」

「そうだよね・・・。」

 家に飛んでくる可能性すらあるからな、あの人は。

「というか、春姉が帰ってきていないってことは紗由さんも帰ってきてないんじゃないか?」

「・・・そういえば同じ大学だったね。案外言うべき人多くないかも。」

 そもそも交友関係もそこまで広いわけではない。

「ああそうだそうだ、あいつにも連絡しておけば?」

「・・・あいつ?」

「ほら、時羽(ときわ)だよ。」

「あ・・・。」

 ミー子がはっとした。

 時羽は去年の旅行の時に会って以来俺は知らないが、どうもミー子は連絡を取っているらしい。

 もとは仲が良かったんだ、問題はないだろう。

「前に一度ちゃんと話し合ってさ、一応もう許してるんだ。だから・・・そうだね、連絡してもいいかも。」

「俺、リビングにでも行ってようか?」

「いや、いいよ。聞いててほしい。」

 ラインの画面を再度開き、時羽に電話をかける。

 時羽はすぐに出た。

『え、ミーちゃん?電話って・・・あれ?』

 ミー子から電話が来たことに戸惑っているようだ。

『も、もしかして間違えたのかな?』

(かなで)、聞こえる?」

『え、えっ!?ミーちゃん!?』

 時羽が驚きの声を上げた。

「・・・。」

 ミー子はそのまま何も言わない。

 時羽の反応をうかがっているんだろうか。

『あ、あの。』

「な、なに?」

 あ、違う。

 こいつ緊張してるのか。

『その、電話してきたのって・・・。』

「あ、ああ、その、声が戻ったからさ。」

『そうだったんだね。おめでとう。』

「まあその、それだけ。」

『・・・ミーちゃん、緊張してる?』

「し、してないし。」

 してますね。

 顔赤いし。

『ふふっ・・・でもそっか。それならさ、今度ゆっくりお話しでもしようよ。』

「・・・する。」

『うん、約束ね。教えてくれてありがとう。それじゃあ、またね。』

「・・・うん。」

 電話を切ると、ミー子がため息をついた。

「疲れた顔してんね。」

「うるさいな。」

「まあ、前みたいにまた仲良くなれたらいいんじゃないの?」

「・・・そうね。」

「おっじゃましまーす。」

 勢いよく扉が開き、冬姉が飛び込んできた。

 そして俺の頭を撫でる。

「頭を撫でた理由は。」

「もちろん、夏央が可愛いからだよー?」

「じゃあ私も。」

 そういってミー子も参戦してくる。

「やめなされ。」

「やーめない。」

「なっち、嫌だった?」

「嫌ってことはないけどさ。」

 もうそんな歳じゃないし・・・恥ずかしいし。

「じゃあお姉ちゃんがちゅーしちゃおっかなー。」

「いらん。」

「美衣ちゃん、夏央がお姉ちゃんに厳しいよ。」

「なっちへのちゅーは私が許さん。」

 抱き着いてくるミー子。

 まあ悪い気はしない。

「そんなこと言うなら今美衣ちゃんが夏央にして見せてよ。」

「なんてこと言うんだこの姉は!!」

「分かった。」

「ミー子!?」

 姉の前で公開キスとか嫌なんだけど!?

「い、行くぞなっち。」

「ほんとにすんの!?」

「おおー!」

 嬉しそうな声を上げる冬姉。

 ミー子の顔が真っ赤になっている。

 ちょっと暴走してません?

「ちょっとなっちあんまこっち見ないで。」

「手で固定されてるんだけど!?」

 って、冬姉カメラを構えるんじゃねえ!

「そぉい!!」

「んー!!!」

 頭突きされたかと勘違いするような勢いのあるキス。

 直後、ミー子から香る柑橘系の匂いがやってきた。

「おー!情熱的ー!」

「ぷはっ!!はい終わり!」

「・・・。」

 何が何だかよくわからなかったけど、柔らかかった。

「よーしじゃあこの写真いろんな人にみせてやろー!!」

「「やめろー!!!」」

 俺とミー子で冬姉を抑える。

 それも全力で。

「助けてー!夏央と美衣ちゃんにまわされるー!!」

「おい!?」

「なんで私まで!!」

 この状況だと冬姉が言うような状況は絶対に起きない。

 というかそもそも今この家に助けに来るような人はいない。

「ミー子!今のうちに冬姉のケータイを!」

「もう消した。」

「早いな!?」

 光の速さで俺とのキス写真を消していたらしい。

「伊達に何年もケータイと生活してないからね。」

「会話のためのツールだったもんな・・・。」

 多分操作は誰よりも早いんじゃないだろうか。

「あーあ、消されちゃったなー。」

「恥ずかしいです。」

「まあ前の写真が残ってるからいいけどね。」

「なっちもう一回冬華さんを押さえつけて。」

「パソコンに保存しちゃってるもんねー。」

「・・・じゃあここに縛り付けておいて冬華さんのパソコンを破壊しに行こう。」

「仕事できなくなるんだけど!?」

 パソコンで絵描いてるもんな。

 でも消してほしいです。

「じゃあここで血反吐を吐くまでタコ殴りに・・・。」

「美衣ちゃんが物騒だ!?」

 ミー子がそんなこと言うなんていつものことじゃないか。

「まあでも夏央と美衣ちゃんがラブラブだってことは分かったよ。こりゃ安泰だわ。」

「私となっちは・・・その、今後のことまで考えてますから。」

「そ、そうだな。」

「まったく、見せつけてくれちゃって~。」

 やれって言ったの冬姉だろ。


 ケータイを見ると、母さんから連絡が入っていた。

『ごめん、今日の夕飯お願いするわね。』

「残業かな?」

「秋穂さんはいつも仕事頑張ってるもんねえ。」

「あたしらの自慢のお母さんだよね。頭が下がるよ。」

 春姉もまだ帰ってきてないし、それなら俺が作ろう。

 ・・・それとも冬姉に作らせようか。

「あたしは夏央のおいしいごはんが食べたいなあ。」

 くっそ、先手を打ってきやがった。

「私も食べたいなあ。」

「おっと、俺一人かい?」

 ミー子がまさかの冬姉側についてしまった。

 仕方ない、それじゃあ俺が一人で作ろうか。

「なっち、楽しみにしてるね?」

「おう、任せとけ。」

 まあ、毎回手伝ってもらってるわけだし、たまにはいいか。


「夏央って冷蔵庫にあるものでなんでこんなにおいしく作れるんだろうね。」

「私もできます。」

 俺が作った夕食を勢いよく食べる冬姉とミー子。

 春姉とか母さん父さんの分も残してね?

「張り合うね美衣ちゃん。」

「なっちに料理を教えたのは私ですから。」

 そうだね、料理もお菓子作りもね。

「夏央がここまで上達すると思ってた?」

「なっちは飲み込みが早いので一緒にできるようになるって思ってました。」

「夏央が教えてくれって言ってきたの?」

「なっちに教えを請われました。」

「中学生・・・なるほどね。」

 そこからあまり深く聞こうとしない冬姉。

 中学生の時はちょうどミー子が引きこもっていた時期。

 あの時のミー子は忙しい那空さんの代わりに料理をすることが日課になってたんだよな。

 本人も料理することは好きって言ってたし、それなら一緒にやりたいと思ったんだっけ。

 今じゃ進路にまでかかわってきたからな。

 本当、何があるか分からないな。

「ちなみに冬姉は普段どうやって作ってるんだ?」

「調べれば簡単に出てくるでしょ?」

「なるほど。」

 クックパッ○か。


「ただいまー。」

 春姉が帰ってきた。

「お帰り春姉。夕飯は?」

「あ、連絡するの忘れてた!ごめんね!紗由と食べてきちゃったんだ!」

「そっかそっか。じゃあこれしまっとくよ。」

「美衣ちゃんと冬華さん、来てるんだよね?」

「ああ、今一緒に風呂入ってるよ。」

 よくあんな狭い風呂で2人も入るよなあ。

 ミー子と一緒に入ってた俺が言うのもなんだけど。

「私、まだ美衣ちゃんとお風呂入ったことないんだよね・・・。」

「誘ってみれば?」

「い、いいのかな。」

「いいんじゃない?」

 何を遠慮しているのかは知らないけど、別にミー子なら問題ない気がする。

 春姉だって悪いことしてるわけじゃないんだし。

「ただいまー!!」

 夜も遅くなりそうな時間だというのに、でかい声が聞こえてきた。

 夕飯しまっちゃったけど、もう一回出さないと・・・。

「お父さんお帰り。」

「おう春女!ただいま!」

「お帰り父さん。夕飯用意するからちょっとだけ待ってて。」

「夏央!ただいま!いつもすまんな!」

「ビールは?」

「飲む!」

 父さんの夕飯を用意していると、ミー子と冬姉が戻ってきた。

 暑い時期だから仕方ないのかもしれないけど、キャミソール1枚で出てくるのはやめてほしい。

「あ、春女もお父さんも帰ってきてたんだ。お帰りー。」

「ただいま。」

「冬華ちゃん来てたんだな!ただいま!あともう1枚何か着た方がいいぞ!」

「忠告ありがとねー。」

 冬姉が手に持っていたシャツを着る。

 そして、となりにいたミー子が口を開く。

「ハルさん、清松さん、お帰りなさい。」

「「・・・。」」

 笑顔のまま固まる春姉と父さん。

「おー、固まってる固まってる。」

「まあこうなるよな。」

「ハルさん?清松さん?」

「・・・えっ、あっ、美衣ちゃん?」

「はい、きっと義姉の義妹になる可能性大の鏡崎美衣です。」

「・・・なんだって?」

 ミー子がよくわからないことを言い出す。

 義姉の義妹?

 そんなまどろっこしいいい方しなくてもいいんだよ。

 そんなん俺の嫁でいいんです。

「美衣ちゃん、あたしは?」

「何言ってんの冬華さん、ただの義妹になるだけですよ。」

「美衣ちゃんが喋った!?」

 大きな声を出す父さん。

「ほ、ほんとだ!?」

「私です。」

 そのまま春姉の方へ向かっていく。

「よかった~~~!!!」

 春姉がミー子のことを抱きしめる。

「え~~~~~~~ん。」

 そのまま春姉が泣いてしまう。

「ちょっと待ってそんな感じで来られたら私も泣いちゃう。」

 涙声になるミー子。

 まあこんな時くらいはいいよな。

「美衣ちゃん!!よかったじゃないか!!」

「ありがとう・・・。」

「感動の瞬間だねえ。」

「そうだな・・・。」

 冬姉が俺の頭を撫でてくる。

「夏央だって泣いてもいいんだよ?」

「なんでだよ。」

「すっきりするんじゃない?」

「俺はもう泣いたからいいんだよ。」

「お姉ちゃんの前で泣いていいんだよ?」

「いいです。」

 春姉とミー子が抱き合ったまま泣いている。

 父さんもうんうんとうなずきながら涙目だ。

 よかった。

 本当に、よかった・・・。

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