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ようこそ、虎子ヶ原学園迷宮部  作者: 花街ナズナ
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迷宮部員の顔合わせ(3)


誠が、手渡された暗号を解いた直後に唯が叫び出し、それに答えて梓が部室……らしき場所の壁を何やら操作して新しい道を開いた。

それが、聞いていた(関門)とやらを突破したことを意味すると誠自身が知るには、しばらくの時間が必要だった。

少なくとも、昼食までの時間が。

「五人とも、本当にご苦労様。また今度の入り口もダメかと思って、半分あきらめてたけど、よく突破してくれたわね」

本校舎内の食堂へ集結した誠、鉄子、唯、梓、玲奈に鏡花が心からの賛辞を贈る。

「さあ、みんな早く席に着いて食事にしましょう。せっかくの料理が冷めてしまうわ」

促され、各自が思い思いの席に座ってゆく。

一方で、

誠はまたしても不慣れな場に招かれた緊張のせいで、くたびれきった神経をさらに擦り減らしていた。

やはり高い天井。

洒落た調度品。

学園長を含めて六人でメシを食うにはどう考えてもでかすぎるテーブル。

その上には、これも生まれてこのかた見たことが無いような、豪華でお上品な料理が所狭しと並ぶ。

正直を言って、今自分の目の前に置かれた皿の上に乗っている料理が何と言う料理なのかも、皆目見当がつかない。

「わあ、今日は子羊のリブソテーですか。私、これ大好きなんですよ」

目の前の皿を遠い目で見つめていた誠の耳に、唯の感激する声が入ってくる。

(ああ、なるほど。これは子羊のリブソテーという代物なのか……)

知らぬ知識を思わぬ形で補填してくれた唯に、誠は心の中で感謝した。

「それは良かったわ。今日のお手柄は智守さんだとは春賀さんから聞いてるわよ。遠慮無く、何皿でも食べてちょうだい」

「あ……いえ、あれは私だけで解いたわけじゃなくて、斉部君の助けがあったから解けたようなものでして……」

「あら、それは本当?」

変化の少ない表情に驚きを映し、鏡花が鉄子を見て問う。

と、鉄子は少し首を斜にしつつ、いたずらっぽく笑いながらうなずいた。

「そう……さすが、初日から期待にたがわぬ活躍、お見事ね斉部君」

「あ、や……別に俺は渡された暗号の一部を解いただけで、結局は答えを出したのは智守さんなんで、大したことは特に……」

照れ隠ししながら、しかし本心ではまんざらでもない気分で誠は形式的に謙遜する。

しかし、

「その通り。経過で多少は役に立ったのは認めるけど、あくまでも最終的に問題を解いたのは智守さんです」

いい気分から一転。

横から水をぶっかけられるような言葉が梓から飛んでくる。

やはり理由の分からぬ悪意を抱かれると、どうにも有効な対処法が思い浮かばない。

「そうは言っても三囲、最初の取っ掛かりを作ったのは間違い無く斉部だ。それだけでも十分にお手柄だと言えるんじゃないのか?」

「それは……確かにそうですけど、だけど……」

「いいか、このメンバーは全員得意分野が違う。そうなればおのずと活躍出来る時も出来ない時もある。なら、役に立たなかった時も責めず、役に立った時には素直に褒める。それが正道だと私は思うが、違うかい?」

「……」

鉄子のこの意見に、さしもの梓も口をつぐんでしまった。

確かに鉄子の言う通り、今日のような問題などは、ひとりひとりで解くには難解すぎる。

三人寄らば文殊の知恵とも言うが、まさしく、部員が複数人いるのはそうした事態に対処するためのものだろう。

ただ、

唯のように普通に協力関係が構築できそうな相手ならいざ知らず、梓のように自分をどうにも毛嫌いしている風に感じる相手とは、協力しての作業はあまり期待ができない。

こうなって、誠の先行きに対する不安はさらに増大した。

……さて、

そんな誠の心の内とは関係無く、各人の会話は進む。

「はあ……今回も玲奈はなんもできなかったよ……」

急に嘆息しながら玲奈が言う。

細かな事情はまだ来たばかりゆえに飲み込めていないが、どうやら玲奈の知識は今回、問題を解く助けにはならなかったらしい。

「気にしなさんな露草。私だってここ最近は全然役立たずさ。焦らなくても、いつかはあんたが必要になる場面が来る。それまで辛抱してな」

「……ありがとう、テッちゃん……」

玲奈の返事に、鉄子が苦笑いを返す。

付き合いは自分よりかは長いのだろうが、やはり鉄子も玲奈のつける奇妙なニックネームには慣れないようだ。

「そう言えば、マコッちゃんは今日入ってきたばっかりなんでしょ。それだとまだ分かんないこととかいろいろあるんじゃない?」

他人事ながらに鉄子の苦笑いするさまを見て、同情の念を抱いていたところへ、同一の境遇が襲ってきた。

やはりこのニックネームは、親友同士での限定した関係でも無ければかなりきつい。

とはいえ、玲奈の指摘はまたもうすらぼんやりとしていた誠に、問うべき疑問を思い出させてくれた点では感謝に値した。

そう、まだ聞くべきことは多いのだ。

「あの、学園長。ちょっとまた質問、いいですか?」

「ええ、なんでも聞いてくれて構わないわよ」

「始めてお会いした時にも話されてましたけど、まだ(関門)ってものがよく分からないもんで、少し詳しく説明願いたいんですけど……」

「ああ、(関門)ね。それは多分、部のほうで現場も見ていることだし、当たりはついているんだろうけど、まだ細かくは理解出来てないってところかしら?」

「まったくその通りです」

「了解よ。じゃあ分かりやすく話しましょう」

「お願いします」

「春賀さんからおおよその話は聞いてると思うけど、この学園の地下には祖父が造った迷宮がそれこそ敷地全体に及ぶまで広がってるの。そして、学園の主要な建物の中には大抵その迷宮への入り口がある。ここまでは大丈夫?」

「はい」

「だけど問題なのは、この迷宮への入り口が一筋縄では開けられないってことなの。そりゃ、大仰な道具でも使って無理やり開けるなんて方法もあるけど、それをやったら野暮もいいとこでしょ。で、素直に開けるための手段となると、入り口付近に記された問題を解くこと。これが一番確実で安全かつ、粋な開け方というわけ。でも、さっき言った通りで、ここの地下には迷宮のような空間が広がってる。入り口に入れたらはい、それでおしまいとはいかない。そこからさらに先へと進むためには、入り込んだ部屋ごとに新たな問題を解く必要がある。これを総称して入り口含む通過点を、(関門)と呼んでるのよ」

いつもながら、表情の薄い鏡花も、ことここの地下迷宮に関する話になると途端、目が輝く。

子供のような目の輝きというのはまさにこれ、このような目を言うのだろうなと思う。

「ちなみに、入り口の(関門)は突破に取り掛かった時点からカウントダウンが始まる仕組みになっていてね。もしも制限時間以内に問題を解けなければ、以後その入り口は一年間は解放不能になる。すでに着手して失敗した入り口は十二箇所。入り口の総数は、分かってる限りで三十ほど。今日ぎりぎりで入り口を突破したのは幸運としか言えないわね」

そう言って、またも鏡花は見て取るのに苦労するほどの薄い笑顔を浮かべた。


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