エピローグ(3)
迷宮突破には成功したものの、お宝であったダイヤは焼失してしまって早、数日が経過した。
新たな部室は東第三校舎地下に設置され、またしても多忙な日々が始まっている。
だが充実感が違う。
日々、向き合う問題は確かに難解で、そのうえどこか幼稚だ。
子供の頃のなぞなぞ遊びをまさに彷彿とさせる。
なのに、
そんな作業を楽しいと思う。
精神年齢が低いから?
大人になりきれていないから?
答えは胸を張って言える。
遊ぶことが人生における目的のひとつだと自覚したからだ。
人は生まれてくる。
何のため?
今なら自信を持って言える。
(楽しむため)だと。
人生で行う努力はすべてその、(楽しむため)の布石だ。
楽しむために勉強をする。
楽しむために仕事をする。
一見、苦しい作業も、要は準備。
土台作り。
一生で知れることなどたかが知れている。
それでも、懸命に学ぶのは何故か?
楽しむために決まっている。
知ることは楽しい。
知らないことを知るのは楽しい。
知れることに限りがあることは悪いことじゃない。
むしろ幸運だ。
常に、死ぬまで知る楽しみを失わずに済む。
楽しみ続けられる。
そして、
今日もそんなことを思いつつ、誠は部室へ向かう。
その行きがかり、
唯と出会う。
「あら、斉部君おはよう。昨日はよく眠れた?」
「はい、智守さん。おかげさまで」
「それはよかった。今日の(関門)もかなり大変そうだから、期待してるわよ」
「ご期待に添えるよう、頑張りますよ。それより、智守さん今日も髪が……」
「ああ、もう、ダメね。ほんと、このクセ毛には我ながら嫌になっちゃう」
「ま、いいじゃないですか。俺、智守さんの髪、けっこう好きですよ」
臆面も無くそんなことを言う誠に、ふと顔を赤らめて唯は足を止め、髪を指で梳く。
しばらく進むと、部室への入り口が見えてくる。
東第三校舎裏のドア。
それを開けると、緩やかな階段が地下へと続く。
「あ、マコッちゃん。おはよ」
階段を下りてゆくと、新しい部室で玲奈が待っていた。
「テッちゃんとアッちゃんはもう入り口で頑張ってるよ。マコッちゃんも早く手伝ってね」
「了解。すぐ手伝いに行くよ。と……ああ、それと露草」
「ん?」
「今日の髪留め、可愛いぞ」
にっこり笑ってそう言う誠に、なんとも照れくさそうにしながら玲奈も笑う。
さらに部屋を横切り、
部室の片隅で入り口の(関門)にかかっている鉄子と梓を見つける。
「おはようございます春賀さん。三囲もおはよう」
「お、やっと来たか斉部」
「……おはよう」
分かりやすく温度差のある返事が返ってくる。
「それで、今度の(関門)はどんなもんなんです。手間取ってるようですけど」
「ああ、いつもながら入り口の(関門)は毎度、一番の難関だよ。今回も頭が痛くなってくるような問題ばかりさ」
「大丈夫ですよ。才色兼備の春賀さんがいれば、百人力です」
「……ふふっ、女子校での世渡り術が上手くなったな斉部」
「やっぱり……見抜かれてますか。でも、おかげさまで随分と鍛えられましたよ」
「そうさな。悪いことじゃないさ。その調子で、人づきあいと同じくらいに本業でも活躍してくれよ」
言われ、入り口の(関門)へと目を移す。
壁に刻まれたメッセージを読む梓と隣り合わせるように、誠は梓の横へつき、
「どうだい。なんか進展は?」
「まだ特には。でも、ここからが勝負よ」
「その意気やよし、だな。それに……」
「何よ、おためごかしの世辞なら、あたしには効かないわよ」
「いや……」
そう言い、ひと間を置いて誠は一言、
「今日も、三囲はシトラスの香りだな……」
優しげに微笑む。
今日も、謎とともに一日が過ぎる。
明日も、謎とともに一日は始まる。




