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ようこそ、虎子ヶ原学園迷宮部  作者: 花街ナズナ
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ブレイン・シャッフル(3)


苛立ちに任せてドアを力いっぱい、引き開いた鉄子が急に固まったのは、ちょうどその背中に視界を阻まれ、新たな部屋の中がうかがい知れない体勢になった時だった。

それに即座、反応して横へずれ、次の部屋の様子をその目にした誠は、軽く絶句する。

ここもまた、極めて特徴的な部屋。

長い。

まるで、廊下のように長い。

ドアを入ると、横幅はおよそ四メートル。

正面にはドアがひとつ。

ただし、そのドアまでの距離が軽く見積もっても三十メートル近くある。

「これはまた……次から次と……」

部屋の異常さに、鉄子の横から覗いた誠は言葉をそこまでしか発せなかった。

ここまでも奇妙な部屋が続いていた。

ただ、今度の部屋は特に気味が悪い。

何がか。

それは、

探索範囲があまりに広い点である。

正面ドアまでの約三十メートル。

見落とし無く、何かを探してゆくのは至極困難だ。

「……こいつは造りから察して、まず目の前のドアまで行ってみるのが良さそうに思うけど、みんなはどう思う?」

しばしの硬直から脱した鉄子の提案に対し、

まず唯は、

「異存は無いです。とにかくヒントやメッセージらしきものがありそうなところへ足を運ぶのは当然だと思います」

玲奈は、

「玲奈もそれでいいよ。テッちゃんの考えたことなら、大丈夫だよ」

ここまでは賛成票。

しかし梓は、

「あたしは……少し慎重に行ったほうがいいと思います。何せドアまでの距離が長すぎます。その間に、もし何かの仕掛けがあったりしたら、どんなことになるか……」

反対票が一票。

だがこれは致し方ない。

梓は昨日の晩、この迷宮で起きた惨事を聞いている。

血が絡むような、危険な仕掛けが実際にあることを知っている。

そうなると、どうしても慎重にならざるを得ない。

と、言っても、

鉄子の言い分に理があるのも確かである。

危険は極力避けるべきなのは当然。

とはいえ、これは遊びでもある。

外部からの侵入者によって競争の様相を呈してきた今、精度はもちろんのこと、速度も求められる状況にあると言っていい。

そこを思えば、多少の危険を覚悟でまずはドアまで進む手もある。

見渡したところ、ドア以外には目立った何かがあるわけでないことも合わせれば、この選択が逆に自然だろう。

加えるなら、今のままではこの(関門)に制限時間があるのか無いのかさえ分からない。

ある意味ではこの部分のほうがよほど危険である。

「ふむ、困ったね。賛成ふたりに反対ひとり。私は多数決ってのがあまり好きじゃないから、出来れば三囲の意見も尊重したいんだが……」

珍しく、鉄子が本当に悩ましそうな顔をした。

恐らくは本音なのだろう。

多数決が嫌いだというのは。

多数意見によって少数意見を無視する。

そういう数の暴力に対する反抗が、どうやら鉄子にはあるらしい。

だとしても、答えは出さないわけにはいかない。

苦い顔をして考え込むことしばし。

それでも答えが出ず、鉄子が頭を押さえて溜め息をついた。

まさにその時、

「俺が行きますよ」

沈黙を守っていた誠が口を開いた。

「俺がまず、ドアまで行ってみます。それで何も無ければ、あとはそこから調べていくって形でいいんじゃないですか?」

途端に、誠へ四人の視線が集まる。

鉄子、唯、梓、玲奈。

思い思いに、

多少の差はあれど、

心配という感情だけは共通した目で。

「待っててくださいよ。たかが三十メートル。さっさとここの(関門)も突破して、先越した奴らに追いつきましょう」


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