冒険の意味(1)
部室から開いた入り口の大きさは高さ約二メートル、幅約五十センチと、人ひとりが入っていくのにそれほど苦労しない程度の大きさをした長方形の穴である。
開く前には分厚い板状の石で塞がれていたが、どうやらこうしたからくりが、この迷宮の中には随所に仕掛けられているのだろう。
入り口を抜け、入った新たな部屋の造りを見て、誠のそうした考えは確信的なものになった。
今度の部屋は、T字型の広い部屋。
鉄子の声に誘われ、ある程度、奥まで進むまではT字の上部分が確認できず、少々、心細さを覚えてしまったことは、あえて鉄子には内緒にした。
というより、
そんなことを気にかける余裕が無かった。
真っ直ぐな細い通路を進み、突然、左右に広がった部屋の構造に対してではない。
その広がった左右の空間の右側。
そこで……、
「爆発があったのはここで間違い無いね」
静かな声で鉄子が言う。
なるほど、言われた通りである。
右側の地面から、まだ未練たらしく煙が上がっている。
とはいえ、煙は薄くなっているので、地面の状態は苦労無く確認できた。
ただ問題は、
それを確認できたことが幸運だったかどうかの判断が難しかったことである。
爆発した場所らしき位置には直径にしておよそ一メートルほどの穴。
その周囲に多数の金属片と真っ黒い煤の跡。
そして、
飛散した血の跡と、肉片らしきものがいくつか……。
「学園長に聞かされちゃいたけど、どうやら財宝目当ての間抜けが、見事に罠へ引っかかったらしいわね。爆薬は指向性で、真下に向かって最大威力が出るようになってたみたい。それで下向きに開いた穴に巻き込むようにして発生した爆風に体が吸い込まれたわけか。ま、死体を処理する手間が省けて幸いといったとこかな?」
落ち着いた調子でそう語る鉄子に、誠は今日ダントツで最大級の恐怖を感じ、背筋が凍るような感覚に、膝を中心にして全身がガクガクと震えた。
「しかし、厄介なことしてくれたもんだわ。これで今日は夜更かし決定……」
「……は、は、春賀さん!」
「ん?」
「なん、で、そんな落ち着いてられるんです。人、人が……死んでるんですよ。それにその、ば、爆薬って何の話なんですか!」
半分、正気を失いかけた誠が叫ぶように言い放つ。
が、
その問いに対しても、鉄子の落ち着きは変わることが無かった。
「簡単さ。(関門)だよ。見たところ、ここの(関門)は爆発物処理。それも幸運なことに、チャンスは二回だ。まあ、一回はどっかの欲ボケに台無しにされちまったけど、まだひとつは残ってる。運が良いか悪いかで言えば、まず良いと言って差し支えないだろ」
「どこがだってんです!」
鉄子の落ち着きに反比例するように、誠はさらにヒートアップする。
「こ、こんな、血やら、に、肉……肉が飛び散ってる状況で、なんでそんな落ち着いて……」
「……はー、うっさいね。おたくときたら男のくせに、さっきからギャンギャンと」
そう言い、さもうるさげに耳を指で塞ぐ仕草を見せると、鉄子は右側の爆発地点へすたすたと歩み寄り、そこらに散らばった肉片をつま先で地面に開いた穴の中に蹴り込んでゆく。
「ほれ、これで何事も無し。オーケー?」
「オーケーなわけないでしょが!」
「だってこれで誰かが死んだとか死体がどうのとか、見た目では分からなくなったんだから、何も無かったのと一緒でしょ?」
「そこいらにこびりついてる血の跡はどう説明すんですか!」
「んなもん、ペンキペンキ。赤いペンキだとでも思えば済むことよ」
「思えるかっ!」
あまりに非常識な鉄子の対応と態度に、ことの異常さを含めて頭に血が上りすぎた誠は、ついに立ちくらみを起こしてその場にへたり込んでしまった。
無理はないと言えばまさにその通り。
正常な感覚ではとても有り得ない。
学園内で人間が爆死。
普通ならその事実を聞いただけでも狼狽する状況にも関わらず、鉄子はその現場にいながら、落ち着いた状態を崩さない。
それどころか、飛び散った肉片を穴に蹴り落としてみせた。
繰り返すが、人間の肉片である。
他の何物でもない、同じ人間の肉片をである。
一緒に付き合う人間がめまいのひとつも起こすのはごく当然。
当たり前すぎて、わざわざ説明するのもおかしな気分になるレベルだ。
さりとて、
気の毒なことだが、誠はその場にへたり込み、そのままことが解決してくれるほど、生易しい状況にはいなかった。
まだ何も解決していない。
それが事実。
まだ何も終わっていない。
それが事実。
そう、本当の生き地獄をまだ、誠は認識していなかったのである。




