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第51話 奪われた世界
『――始原外存在』
その名前が。
世界中に響いた。
直後。
空が。
黒く染まる。
「……ミラ!」
アリアが叫ぶ。
ミラは。
自分の胸元を押さえていた。
「私の……」
「どうした?」
「世界との接続が」
「切られてる」
【世界創造者】
【ミラ】
【権限:0%】
【接続:遮断】
俺は。
表示を見つめる。
「どうやって」
「ミラの権限を奪った?」
答えは。
空から返ってきた。
『奪ったのではない』
『戻しただけだ』
「……!」
黒い雲の向こう。
巨大な目が開く。
人の目ではない。
世界そのものを。
外側から観測しているような。
巨大な目。
『その権限は』
『本来、私のもの』
ミラが。
震える声で言った。
「違う」
『何が違う?』
「私は」
「あなたから奪ったわけじゃない」
『では』
『なぜ世界が存在する?』
「……」
『私が願ったからだ』
ミラが。
顔を上げる。
「……」
『私が』
『最初に願った』
『誰かにいてほしいと』
『その願いから』
『お前が生まれた』
『そして』
『お前が世界を作った』
『だが』
『世界は』
『私の願いから遠ざかった』
俺は。
拳を握る。
「だから」
「世界を作り直す?」
『そう』
「全部?」
『そう』
「人も?」
『必要なら』
「魔物も?」
『必要なら』
「エリスも?」
沈黙。
そして。
『彼女は』
『最初の誤差だ』
エリスが。
息を呑む。
「……誤差?」
『願いと世界が接触した際に』
『余計な構造が生まれた』
『それが』
『エリス』
俺の中で。
何かが切れた。
「……ふざけるな」
『?』
「エリスを」
「誤差って呼ぶな」
エリスが。
俺の袖を掴む。
「蓮……」
俺は。
空を見る。
「お前が世界を作った?」
『そう』
「なら」
「一つ聞く」
『何だ』
「世界に生まれた存在が」
「お前の思い通りにならなかったら」
「それは失敗なのか?」
『……』
「違うだろ」
「生まれたものには」
「生まれたものの人生がある」
「願った本人ですら」
「全部を決められるわけじゃない」
空の巨大な目が。
細くなる。
『理解できない』
「だろうな」
俺は。
笑う。
「だから俺が整理する」
【始原整理・完全解放】
【選択構造】
発動。
世界中の可能性が。
俺の視界に流れ込んでくる。
無数の未来。
街が滅びる未来。
平和になる未来。
魔王が世界を支配する未来。
人間と魔族が争う未来。
エリスが消える未来。
エリスが生きる未来。
リナが故郷に帰る未来。
アルベルトが王国を守る未来。
フェンリオスが永遠に守護獣として生きる未来。
そして。
俺自身が。
この世界から消える未来。
「……多すぎる」
頭が。
割れそうになる。
【警告】
【可能性過多】
【処理限界】
「くそ……!」
選択構造は。
未来を見せる力じゃない。
未来を残す力。
つまり。
全部を見ようとすれば。
俺自身が耐えられない。
「なら」
俺は。
目を閉じる。
「全部見る必要なんてない」
エリスが。
俺の手を握る。
「蓮」
「……?」
「私たちは」
「ここにいるよ」
リナも。
「うん」
アルベルトも。
「ここにいる」
フェンリオスが。
「グルル」
アリアが。
「私も」
ミラも。
「私も」
俺は。
目を開いた。
「そうだな」
「今を見る」
未来を全部決める必要はない。
今。
何を残すのか。
それだけ。
【選択構造】
【対象範囲を縮小】
【現在構造のみを保持】
俺の視界が。
一気に軽くなる。
そして。
黒い空間に。
一本の線が浮かんだ。
始原外存在と。
この世界を繋ぐ線。
「……見つけた」
『何?』
「お前の権限じゃない」
「お前と世界の」
「接続だ」
【境界整理】
発動。
だが。
線は。
切れない。
【警告】
【対象:始原外存在】
【接続強度:測定不能】
「やっぱり」
「普通には無理か」
すると。
アリアが前へ出た。
「なら」
「私が」
「アリア?」
「この接続」
「私の願いから生まれたものだから」
アリアの身体から。
淡い光が溢れる。
ミラも。
手を伸ばす。
「私もやる」
エリスが。
二人の手を取った。
「私も」
三人の光が。
重なる。
【始原構造】
【願い】
【世界】
三つの構造が。
一つの線になる。
俺は。
その線を見る。
そして。
気づいた。
「……これ」
「切る必要ない」
「え?」
「この接続は」
「始原外存在を世界から切り離すためのものじゃない」
俺は。
線を指す。
「逆だ」
「世界と」
「外側を」
「正しく繋ぐためのものだ」
ミラが。
目を見開く。
「……境界を」
「閉じるんじゃなくて」
「整える」
俺は。
頷く。
【始原整理】
【境界構造】
【再分類開始】
巨大な線が。
少しずつ形を変えていく。
だが。
その瞬間。
始原外存在が。
初めて。
怒鳴った。
『やめろ!!』
世界全体が。
揺れる。
『それを整理してはならない!』
「……!」
『その境界が開けば』
『私だけではない』
『もっと外側にいるものまで』
『この世界を認識する!』
俺は。
息を呑んだ。
「もっと外側?」
『そうだ』
『私は』
『最も近い場所にいるだけだ』
『この世界の外には』
『さらに』
『さらに外がある』
そして。
黒い空に。
巨大な亀裂が走った。
始原外存在より。
さらに向こう。
何もないはずの場所から。
白い指が。
一本。
こちら側へ伸びてきた。
『――見つけた』
始原外存在が。
初めて。
恐怖の声を漏らした。
『来てはいけない』
俺は。
その指を見つめる。
そして。
新しい表示を見た。
【未知存在】
【分類:始原外存在より上位】
【名称:――】
【接触まで】
【10秒】




