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整理整頓しかできない俺、異世界では世界の法則まで片付けられるようです  作者: ももにく


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3

第3話 その少女、魔法が使えないらしい


「……とんでもない人を見つけてしまったかもしれない」


少女はそう呟いた。


「?」


俺には何のことか分からなかった。


とりあえず、目の前の少女を改めて見る。


年齢は俺と同じくらい……いや、少し下かもしれない。


長い金髪。


青い瞳。


白いローブ。


そして腰には細身の杖がぶら下がっている。


いかにも魔法使いという格好だ。


「えっと……」


俺が声をかけると、少女はハッとしたように顔を上げた。


「あ、ごめんなさい」


「いや、大丈夫」


少女は少し慌てた様子で頭を下げる。


「私はエリス。エリス・アストレア」


「俺は蓮」


「レン……?」


「ああ」


「珍しい名前ね」


「そうかな」


異世界だから当然だろう。


「ところで、こんな森の中で何してるの?」


「それはこっちの台詞よ」


「俺?」


「あなた、どうしてこんな場所にいるの?」


「さっき転生したばっかりで」


「…………」


エリスが固まった。


「転生?」


「うん」


「……あなた、何を言っているの?」


「いや、本当に」


もちろん、信じてもらえるとは思っていない。


俺だって昨日まで異世界なんて信じていなかった。


エリスはしばらく俺を見つめていたが、やがてため息をついた。


「まあいいわ」


「信じた?」


「半分くらい」


「半分?」


「あなたが普通じゃないことだけは分かったから」


「普通だよ」


「普通の人間は、魔物の呪いを触っただけで解除しないわ」


「そうなの?」


エリスは呆れた顔をした。


「そうよ」


そう言われても、実感がない。


俺はただ整理しただけだ。


「じゃあ、あのウサギって珍しいの?」


「ブラッドラビットよ」


「名前怖いな」


「見た目通り危険な魔物よ」


「でも今は大人しいよ」


俺の足元で、ブラッドラビットが尻尾を振っている。


「それがおかしいの」


エリスはしゃがみ込んだ。


「少し触ってもいい?」


「いいよ」


エリスが恐る恐る手を伸ばす。


ブラッドラビットは逃げなかった。


むしろエリスの手を鼻でつついた。


「……本当に大人しい」


「かわいいだろ?」


「かわいい……?」


エリスが複雑そうな顔をする。


「昨日まで人間を襲っていた魔物なのよ」


「そうなの?」


「そうよ」


「じゃあ、やっぱり整理してよかったな」


「……またそれ」


「ん?」


「あなた、その『整理』って何なの?」


「スキル」


「名前は?」


「整理整頓」


「…………」


また沈黙した。


「そんなスキル、聞いたことがない」


「俺も昨日もらったばかりだから」


「昨日?」


「神様から」


エリスが頭を抱えた。


「ちょっと待って」


「何?」


「神様に会ったの?」


「うん」


「直接?」


「うん」


「本当に?」


「本当に」


「……あなた、いったい何なの?」


「普通の人間だって」


エリスは完全に困ってしまったようだった。


「……まあいいわ」


そう言って立ち上がる。


「私も詳しいことを聞きたいけど、ここに長居するのは危険よ」


「危険?」


「この森にはブラッドラビットより強い魔物がたくさんいるの」


「例えば?」


エリスが答えようとした、そのとき。


――ズン。


地面が揺れた。


「……!」


エリスの表情が変わった。


「今の……」


「何?」


「逃げるわよ」


「え?」


「早く!」


エリスが俺の腕を掴む。


「ちょっと!」


「走って!」


俺は引っ張られるまま走った。


後ろから。


――ドンッ!


木が倒れる音。


続いて。


――グオオオオオオッ!


森全体を震わせるような咆哮。


「何だよあれ!」


「見ないで!」


「いや、気になるだろ!」


俺は振り返った。


巨大な熊のような魔物がいた。


体長は三メートル以上。


腕だけでも俺の身体ほどある。


「……でか」


「グランドベアよ!」


「強い?」


「Aランク相当!」


「Aランク?」


「冒険者でも一人じゃ絶対に戦わない魔物!」


エリスは必死に走っている。


俺も走る。


けれど。


グランドベアのほうが速い。


「追いつかれる!」


「分かってる!」


エリスが杖を構えた。


「なら、私が足止めする!」


「危ないって!」


「あなたは逃げて!」


エリスが立ち止まる。


俺も止まった。


「いや、置いていけないだろ」


「何言ってるの!」


「仲間を置いて逃げるなんて無理だよ」


「仲間って……」


エリスが一瞬、目を見開いた。


けれどすぐに杖を構え直す。


「……私、魔法が得意じゃないの」


「え?」


「正確には、魔力がほとんどない」


「魔法使いなのに?」


「だから、私は落ちこぼれなの」


エリスは苦笑した。


「王都の魔術学院に通っていたけど、魔法が使えないせいで……」


言葉が止まる。


その目に、ほんの少しだけ寂しさが浮かんだ。


「……だから、ここで死ぬのかもね」


「そんなこと言うなよ」


俺はグランドベアを見る。


巨大な身体。


鋭い爪。


大量の魔力。


怖い。


正直、逃げたい。


でも。


俺はエリスの前に立った。


「俺がやる」


「何を?」


「整理する」


「…………」


グランドベアが迫ってくる。


俺は手を伸ばした。


【対象:グランドベア】


【状態:正常】


【魔力:過剰】


【筋力:非常に高い】


【生命力:非常に高い】


【構造情報を取得しました】


「……情報、多いな」


エリスが叫ぶ。


「何をしてるの!?」


「ちょっと待って」


頭の中に流れ込んでくる情報。


魔力。


筋力。


骨格。


神経。


本能。


そして――


一箇所だけ、妙に乱れている場所があった。


「……何だこれ?」


胸の奥。


魔力の流れが、一部だけ絡まっている。


まるで糸がぐちゃぐちゃに絡まっているようだった。


「整理できそうだ」


俺はそこへ意識を集中させた。


「整理――」


その瞬間。


グランドベアが目の前まで迫った。


エリスが悲鳴を上げる。


「レン!」


俺は反射的に手を伸ばした。


「整頓!」


――パァンッ!


爆発のような音が森に響いた。


グランドベアの身体が吹き飛んだ。


十メートル。


二十メートル。


そして――


ズドン!


巨大な魔物が地面に倒れた。


「…………」


「…………」


俺とエリスは、同時に固まった。


俺は倒れたグランドベアを見る。


「……死んだ?」


恐る恐る近づく。


グランドベアは動かない。


けれど。


【状態:正常】


【魔力:安定】


【筋力:正常】


【生命力:正常】


【攻撃衝動:消失】


「…………」


俺は首を傾げた。


「生きてる?」


「……生きてる」


エリスが呆然と答える。


「じゃあ、なんで倒れてるんだ?」


「あなたが何をしたのよ……」


「整理しただけ」


エリスは額を押さえた。


「……もう、その言葉を聞くのが怖くなってきたわ」


「?」


俺には何がそんなにおかしいのか分からない。


そのとき。


倒れていたグランドベアがゆっくり立ち上がった。


エリスが身構える。


「まだ動く!」


「大丈夫じゃない?」


「え?」


グランドベアは俺たちを見る。


そして――


俺たちに背を向けた。


そのまま森の奥へ歩いていく。


「…………」


「…………」


完全にいなくなった。


俺は呟く。


「……ちゃんと片付いたな」


「それ、絶対違う意味よね?」


「そう?」


エリスはしばらく俺を見つめていた。


そして。


小さく笑った。


「……あなたって、本当に変な人ね」


「よく言われる」


「でも――」


エリスは少しだけ頬を緩めた。


「悪い人ではなさそう」


「それならよかった」


「ねえ、レン」


「ん?」


「もし行く場所がないなら……」


エリスは少し迷ってから言った。


「私と一緒に来ない?」


俺は少し考えた。


異世界に来たばかり。


右も左も分からない。


だったら。


「お願いするよ」


そう答えると、エリスは嬉しそうに笑った。


「……うん」


こうして俺は――


異世界で初めて、人間の仲間を得た。


そしてまだ知らなかった。


この少女との出会いが、後に俺の人生を大きく変えることを。

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