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整理整頓しかできない俺、異世界では世界の法則まで片付けられるようです  作者: ももにく


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第13話 見えてしまったもの


遺跡から村へ戻ると、空気が少し変わっていた。


昨日まで村人たちを包んでいた恐怖が、ほんの少しだけ薄れている。


魔物は姿を消し、黒い霧もない。


けれど。


「完全に安心はできません」


村長はそう言った。


「森の異変が収まったわけではないのでしょう?」


「はい」


俺は頷いた。


遺跡の奥で見たもの。


黒い柱。


管理機構。


そして、世界の外から入り込もうとした何か。


俺たちが見たのは、その一部にすぎない。


「王都へ行きましょう」


エリスが言った。


「王都?」


「ええ。あそこなら古代遺跡について調べられる人がいるかもしれない」


「エリスは王都に詳しいの?」


「……まあね」


少しだけ歯切れが悪い。


「どうした?」


「私は王都の魔法学院に通ってるから」


「そうだったな」


「だから、戻らないといけないの」


リナが俺たちを見る。


「私も行っていい?」


「もちろん」


「村は?」


「お母さんたちには話した」


リナは少し寂しそうに笑った。


「私も原因を知りたいの」


「分かった」


こうして。


俺たちは王都へ向かうことになった。


村を出て、街道を歩く。


途中。


冒険者らしき一団とすれ違った。


「おい、そこの冒険者!」


後ろから声をかけられる。


振り返ると、三人の男が立っていた。


「この先の森から来たのか?」


「うん」


「何かあったか?」


「魔物が増えてたけど、今は――」


俺が答えようとした瞬間。


一人の男が膝から崩れ落ちた。


「うっ……!」


「おい!」


仲間が慌てて支える。


男の顔色が悪い。


「大丈夫?」


俺が近づく。


「来るな!」


別の男が剣を抜いた。


「こいつは呪いだ!」


「呪い?」


「森に入ってからずっとこうなんだ!」


俺は男を見る。


その瞬間。


【構造解析】


勝手に発動した。


「……!」


頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。


【対象:人間】


【生命活動:正常】


【魔力:軽度の乱れ】


【呪力:微量】


【異常構造:胸部】


【原因:異物】


「異物?」


俺は男の胸を見る。


何かがある。


黒い。


小さな糸のようなもの。


「これ……」


俺が手を伸ばした瞬間。


男が苦しそうに呻いた。


「やめろ!」


「違う!」


俺は言った。


「この人、呪われてるんじゃない」


「何?」


「身体の中に、何かが入り込んでる」


仲間たちが顔を見合わせる。


「そんなこと分かるのか?」


「……見えるんだ」


「見える?」


俺自身も驚いていた。


今までなら。


魔力が乱れている。


呪いがある。


そこまでしか分からなかった。


でも。


構造解析が使えるようになってから。


人間の身体の中まで見えてしまう。


「これを取る」


「待って!」


エリスが止める。


「人間の身体にスキルを使うのは危険よ」


「でも、このままだと――」


俺は男を見る。


黒い糸が、心臓の近くまで伸びている。


「あと少しで危ない」


「……!」


男の仲間が青ざめた。


「助けられるのか?」


「たぶん」


「頼む!」


俺は男の胸に手を置いた。


「整理」


――光が広がる。


黒い糸が少しずつ浮き上がってくる。


男が苦しそうに叫ぶ。


「ぐっ……!」


「もう少し」


黒い糸を一本ずつ分離する。


魔力。


生命力。


異物。


絶対に混ぜない。


一つずつ。


あるべき場所へ。


「整理……!」


最後の一本が抜けた。


男の身体から黒い塊が落ちる。


地面に触れた瞬間。


――シュウッ。


煙になって消えた。


男は大きく息を吸った。


「……はぁっ!」


「大丈夫?」


「……痛みがない」


仲間たちが驚く。


「本当に治った……」


俺は地面を見る。


【対象:異物】


【分類:外部干渉】


【危険度:高】


【発生源:不明】


「まただ」


「また?」


エリスが聞く。


「これも、あの黒い糸と同じ」


「森の魔物についていたもの?」


「うん」


俺は黒い塊が消えた場所を見る。


「人間にも入り込んでる」


その言葉に。


冒険者たちの顔が強張った。


「じゃあ……俺たちも?」


「分からない」


俺は全員を見る。


構造解析を使えば分かる。


でも。


勝手に他人の身体を調べるのは違う気がした。


「心配なら、近くの町で神官に診てもらったほうがいい」


「分かった」


男たちは何度も頭を下げた。


「ありがとう」


「気にしないで」


彼らが去っていく。


リナが呟いた。


「レンって……本当に何でも治せるんだね」


「何でもじゃないよ」


俺は首を振った。


「死んだものは戻せなかった」


あの狼を思い出す。


「それに、さっきのも俺が勝手にやったら危なかったと思う」


エリスが頷く。


「そうね」


「整理って便利だけど」


俺は自分の手を見る。


「使い方を間違えたら怖い」


そのとき。


エリスが突然立ち止まった。


「……レン」


「ん?」


「今、私のことを解析した?」


「え?」


「あなたの目」


「……」


俺は固まった。


構造解析が発動したとき。


無意識にエリスの身体まで見てしまっていた。


【対象:エリス・アストレア】


【生命活動:正常】


【魔力容量:極小】


【魔力回路:損傷】


【封印構造:存在】


「……」


「何か見えた?」


エリスが聞く。


俺は答えられなかった。


魔力が少ない理由。


それだけじゃない。


彼女の魔力回路には。


普通なら存在しない構造があった。


「エリス」


「なに?」


「……魔力が少ないのって」


「昔からよ」


「そうじゃない」


俺は彼女を見る。


「エリスの魔力は、少ないんじゃない」


「え?」


「何かに封じられてる」


エリスの表情が止まった。


「……そんなわけ」


「ある」


俺は確信していた。


【封印構造】


【解除条件:不明】


【対象:本人】


そして。


その封印の奥に。


見たことのない巨大な魔力が眠っていた。


「……これ」


エリスの身体の奥。


そこにあるのは。


俺が今まで見てきたどんな魔力よりも。


圧倒的な量だった。


「エリス」


「……」


「君、本当は――」


その瞬間。


俺のスキルが警告を表示した。


【警告】


【対象の封印への干渉を禁止】


【理由:世界構造への影響】


俺は口を閉じた。


世界構造。


また、その言葉。


エリスは不安そうに俺を見る。


「何が見えたの?」


俺は少し迷って。


答えた。


「……今は、まだ言えない」


「どうして?」


「俺自身が、よく分かってないから」


エリスはしばらく俺を見つめた。


そして。


「分かった」


小さく笑った。


「じゃあ、ちゃんと調べて」


「うん」


「私も知りたい」


その笑顔は。


いつもより少しだけ寂しそうだった。


その日の夕方。


遠くに王都へ続く巨大な街が見えてきた。


しかし。


俺の頭の中には。


別の表示が浮かんでいた。


【新たな異常を検知】


【対象:エリス・アストレア】


【重要度:極高】


【推奨:王都到着後、直ちに調査】


そして最後に。


一行だけ。


【封印が解除された場合――】


【世界の魔力循環に重大な変化が発生します】


俺はエリスを見た。


彼女は何も知らず。


王都を眺めていた。

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