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6:方法を探す①

 僕が住むことになった場所は、六十代くらいの夫婦の家だ。


  女性は【ジェミリー】、男性は【カイラン】。二人は昔から母の祖父の代に仕えてきた人たちで、つい最近引退したらしい。


 どうやら僕が【愚者】を授かった直後、母は即時通信できる魔法の手紙で彼らに連絡し、僕の面倒を頼んだようだ。そして二人も快く引き受けてくれた。


 ここに住み始めて三日後、僕は図書室のソファに一人で座り、周囲に大量の資料や参考書を積み上げていた。


 この小さな家に図書室があるのは本当にありがたい。


 理由を聞いてみると、ここは昔、母が幼い頃に育てられた場所らしい……どうやらかなり深い縁があるみたいだ。


 まあ、その話はいい。とりあえず今は―僕はギフトに関する資料を手に取り、確認する。




【愚者】

【利点】―【愚かであるため、プレッシャーに強い】

【欠点】―【所有者は中級以上のスキルに到達できない、モンスターから最優先の獲物として認識される、状態異常の存在を認識できない、勘が働かない、全体的に運命が悪い】




 利点……愚かであるため、プレッシャーに強い……プレッシャーに強い……ん? 待てよ。


「……なるほどな」


 僕は自分の頭を軽く触り、やがて笑った。


「ははは、ちゃんと利点もあるじゃないか」


 プレッシャーに強い―つまり思考の妨げになる要因。けれど愚者だから、それが消える。ここ十日ほどでやっと気づいたけど、僕は集中力や思考の制御が以前よりずっと上手くなっていた。


『フォーカス』『分析』『気が散らない』。このあたりが特に顕著で、昔とは比べものにならない。


 たとえば魔法を使うならマナへの集中が必要だけど、今の僕の頭なら詠唱が明らかに速い。要するに、思考の流れを上手く制御できる能力ってことだ。


 まあ、最悪のギフトにしては利点は名前どおり実用的だ。でも本当の問題は欠点のほうだ。


【所有者は中級以上のスキルに到達できない】―つまり使えるのは初級魔法と初級剣術まで。たとえば【炎】みたいな簡単な魔法とか、マナを軽くまとわせた剣くらいで、破壊力もせいぜい木一本程度。


【勘が働かない】―自分の勘を信用できない。だからすべて事実を頭で分析して回避するしかなく、感覚的に察知することができない。


【状態異常の存在を認識できない】―危険な状態に気づけない。愚者のギフトのせいで、毒にかかっても気づいた時にはもう死んでる、なんてこともあり得る。


【全体的に運が悪い】……ノーコメントだ。


 そして最大の地雷が――【モンスターから最優先の獲物として認識される】。


 これのせいで僕の人生はかなり詰んでる。モンスター討伐なんてできない。狩ろうとした瞬間、逆に大量に引き寄せてしまうからだ。


 思わず頭を抱えたくなるけど、唯一の利点のおかげで思考整理はできている。僕は無理に討伐へ行くのはやめて、図書室でモンスター関連の本を読むことにした。


 もしかしたら欠点にも活用法があるかもしれない。他のギフトだって、使い方次第で化けることはあるし。


 そう考えた僕は夕方まで図書室にこもり、腹が減ってようやく外に出た。今日もまた部屋に引きこもり、風呂も入らず、食事の時だけ出てくる一日だった。


 積み上げた本を全部読むには、最低でも十日はかかるだろう……もし魔導士のギフトでもあれば、二日で読み終えられただろうに。


 そう思うと、なんだか胃が痛くなってくる。


「……ん?」


「えっ、ベラミ様、まだお休みになっていなかったんですか?」


 僕に声をかけてきたのは世話係の一人、六十歳前後の女性だ。彼女の名前は【ジェミリー】。この家を夫の【カイラン】と一緒に守っている人で、年齢もだいたい同じくらいらしい。


 二人は僕の専属執事やメイドというわけじゃない。すでに仕事は引退していて、ただ情けをかけて僕を引き取ってくれただけだ。それに僕は、昔彼らが仕えていた家の子どもでもあるしね。


「はい、ちょっと調べたいことがありまして」


 僕が穏やかに笑って答えると、ジェミリーはくすっと笑った。


「噂どおり勤勉ですねえ。うちの孫娘も半分くらい見習ってくれたらいいんですけど」


「それは……まあ、そうですね」


 僕は適当に相槌を打つ。


 二人の孫娘は「カイリー」。20歳くらいで、この家に一緒に住んでいるけど、どうも一日中部屋にこもるタイプの怠け者らしい。


 結果だけ見れば、今の僕とあまり変わらない気もするけど。


「何か食べに来たんですか?」


 僕がうなずくと、ジェミリーは嬉しそうに笑い、焼きたてのパンケーキを持ってきてくれた。


「どうぞ、遠慮なく食べてもいいですよ」


「……すみません、本当はその時の僕は健康にいい物しか食べない主義で……あ、いや」


 この寝不足状態で何を気取ってるんだ僕は。昔みたいに衛生や健康ばかり気にしてる場合じゃない。今はギフトの活用に全神経を向けるべきだ。


「いただきます。ありがとうございます」


「どういたしまして」


 僕は素直にパンケーキを受け取り、そのまま図書室へ戻った。そしてモンスター関連の本を片っ端から読みながら、パンケーキを食べる。


 正直、やっていることは大海原で針を探すようなものだ。


 それでも全部読み、古い記録まで思い返し、ギフトの利点を使って徹底的に分析した。そしてついに一つの結論へたどり着いた―図書室に引きこもってから、さらに十日後のことだ。


 僕は扉を蹴り開け、風呂にも入らず十日過ごした姿のまま部屋を飛び出した。


 最初に出会ったのはカイリーだった。20歳の少女で、ジェミリーの言う通り怠惰な生活をしているらしい。


 カイリーはぼさぼさの髪に、体より二、三サイズ大きいTシャツ、ゆるい長ズボン、サンダル姿。


 お菓子の袋をぶら下げたままの寝起きみたいな格好だ。


 僕を見るなり鼻をつまんだ。どうやら相当臭いらしい。


「えっと……ベラミ様?」


「ジェミリーさんとカイランさんはいますか? それと今何時ですか?」


「い、今はいませんよ。朝は町へ商売に行くので、帰りは夕方くらいです」


 なるほど、祖父母が働いてる間もこの女性は家でのんびりお菓子生活か。


「タイミング悪いな……仕方ない。カイリーさん、お願いがあります。森まで案内して、モンスターの『スライム』を探すのを手伝ってくれませんか?」


「えー、やだ」


 即答だった。


 やる気ゼロなのが伝わってくる。


 あの二人を待つのは時間の無駄だし……どうするかな ……ああ、そうだ。この手があった。父母がよく使ってたやり方だ。


「いくら欲しいですか?」


「……」


 冷たい視線を向けられるけど、僕は気にしない。


「依頼料を払います。僕の指示どおり動いてくれたら金を出します。お金が欲しいなら、今すぐスライム探しに付き合ってください。僕みたいな没落貴族でも、小遣い程度なら何日分かは出せますよ」


 僕は笑顔で言った。


「家にこもって家族に養われてるだけじゃ収入ないでしょう? 僕が払いますよ。落ちぶれたとはいえ、多少の貯金はありますから」


「人のこと引きこもり扱いして、しかも寄生してるみたいに言いますね……わかりました。でもその前に――」


 その前に?


「まずお風呂入ってきてもらえます?」


 ……うん、まあ、そりゃそうだよね。


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