4:『愚者ベラミ』と『ダメ勇者カエデ』
数えきれないほどの出来事を風は運んでいく。
昔と変わらず、その風に流され続けている僕自身さえも例外じゃない。何一つ変わっちゃいない―あの人と語り合った通りに。
人生の生き方なんて、そう簡単には変えられないって話だ。
まあ結局、僕は風のままに流れ、いろんな出来事を経験して、気づけば今は【イグドラシル】の街にある。世界の学院の特別課程の学生になっていた。
あの人が言っていた通りに。
毎日が退屈だ。強制的に授業を受けさせられ、勇者として多くの責任を背負えと繰り返し言い聞かされる。助けを求める人々を見せられたり、戦争だの、モンスター災害だの、あれやこれやを見聞きさせられて――
「もっと頑張らなきゃいけない」と思わせるためらしい。
でもさ、正直どうでもいい。興味もないし、気にもしてない。
相変わらず怠け者の僕は、隙あらば訓練も授業もサボってばかりで、内輪じゃ『ダメ勇者』なんて容赦なく呼ばれてる。
まあ、気にするほどの問題でもない。僕はそういうの、全然引きずらないタイプだから。
新学期がもうすぐ始まる。もうすぐ17歳になる僕は、学院の二年生へと進級した。
豪華な個室50フィートほどの広さの部屋で鏡を覗き込み、制服姿の自分を見つめる。
昔よりずっと成長した体。身長はたぶん170センチくらい。耳にかかる短めの髪。胸には勇者であることを示す特別なエンブレム付きの制服。
「めんどくさいなぁ……今日サボろうかな……。いや、またサボったら再履修になりそうだしなぁ……はぁ……」
少し伸びてきた髪の先を指でいじる。最近は長くなりすぎないよう何度も切ってるけど、正直ちょっと面倒だ。
「……ま、気が向いたらでいっか」
そうやって思考を雑に打ち切り、僕は部屋を出て、そのまま学院へ向かった。
学生であふれる通路を歩きながら、晴れ渡る空を見上げ、ある人物のことを思い出す。
少し拗ねやすい男の子がいた。彼は「最強になりたい」と願っていた。
彼と出会ったのは四年前―ギフトの鑑定所でのことだ。いつかここで再会しようと約束した。
自分を止める風になる、と彼は言った。できるかどうかは知らないけど、面白そうだから楽しみにしてた。
でも、あれだけ大口叩いてたのに、一年目は影すら見なかった。
正直、ちょっとだけガッカリした。
まあでも、結局は運命の流れに身を任せるしかない。目の前を舞う木の葉みたいに、僕もただ流されてるだけ。
世界が思い通りにならないだけの話だ。
そう―ちょうど、目の前のメープルの葉みたいに―
「……?」
が―その葉が、誰かの手で止められた。
「……」
「……」
まず目に入ったのは、宝石みたいな赤い瞳。それから黒紫の髪、蜂蜜色の肌。昔より少しだけ伸びた高さ。それでも相変わらず、整った顔立ちの美形だった。
本当に、見た目はあまり変わってない。特に身長は……僕と同じくらいか。昔は同年代より大きい印象だったのに、成長が止まったのかもしれない。
彼は同じサイ【エンティア学院】の制服姿。ただし一般課程だ。
左腕だけ、腰まで届く黒いケープで覆われているのが特徴的だった。
記憶とほとんど変わらない姿。
彼は少し気まずそうに頭をかき、大きく息を吐いてから言った。
「約束……忘れてないよな?」
……最初の一言がそれ?
「覚えてる?僕の名前はぺらぺら」とかじゃなくて?
「ぷっ……ははははははっ!!」
思わず笑ってしまった。
四年間音沙汰なしだったくせに、突然現れて風に舞う葉を止めて、何かを示唆するような真似をして、そりゃ分かるけどさ―その上ちょっとゾッとする台詞まで。
「ははは、ダメだ……君、無表情でボケる才能あるよ? しかも一年遅刻じゃん。去年試験落ちたの?」
「チッ……相変わらずうるさいな、お前」
「ごめんごめん。まずはさ、久しぶりなんだし普通に挨拶からじゃない?」
彼は鼻で笑い、肩をすくめた。
「まあいいけど。こういう再会も嫌いじゃない。ちょっとロマンあるしな――」
ずっと待ってた。風がまた僕らを引き合わせる日を。
「待ってたよ――『愚者ベラミ』」
「……へっ、ずいぶん偉そうだな。『ダメ勇者カエデ』」
―これはスタートライン以前の物語。
ベラミが最初の一歩を踏み出す前の話。
『愚者ベラミ』という伝説が始まる前の物語だ。
そう、まだスタートラインですらない。序章ですらない。たとえこの先、【神の子】を倒そうが、最強のモンスターを討とうが、本物の強者たちと戦おうが――彼の最初の一歩は、僕を倒したときに初めて始まる。
……まあ、その「最初の一歩」の結末が訪れる前に、四年前へ戻る必要があるだろう。
真の強者に対抗できる力を求めて足掻いた日々。努力と、その裏側。
僕すら知らない―『愚者ベラミ』の物語が、これから語られる。




