2:運命の流れ②
【ギフト・愚者】は、歴史上最悪のギフトとして誰もが知っているギフトだ。
どれくらい最悪かって?
それはもう、子ども向けの童話や教訓話、ことわざ、名言やフレーズなんかにまで「絶対に手にしてはいけない呪い」として記録されるくらいだ。
昔々、とある王国の王子がこの【ギフト・愚者】を得たせいで王家から追放されたこともある。しかも最悪なことに、彼の運命は自分の愚かさに原因で命を落とす形で終わったらしい。
この王子の話は有名で、子ども向けの物語に何度も記録されたり、いろんな形で語り直されたりしている。
結末は決まって「身の程を知らない運の悪い愚か者」というものだ。
一方で、具体的なデメリットや何を失うのかは、歴史にははっきり記録されていない。むしろ実在するものというより、子どもを脅すための作り話みたいな扱いになっている。
ここ数百年は確認例すらなく、記録上では約五百年―誰も得ていないらしい。
そこから得られる教訓は一つだけ。 絶対にこのギフトに選ばれるな―ということ。
そして。
そう……僕が、よりにもよってそれを得てしまった。
マティル公爵家の長男、【ベラミ・フォル・マッティル】。十二歳。将来もっとも完璧な存在になるはずだった僕は、正式なギフト鑑定の結果【愚者】の所有者だと宣告された。
そのアナウンスが響いた瞬間、僕の顔は真っ青になった。
誕生日以上に大切な人生最大の日。年齢を迎えた子どもたちが各地から集まり、ギフトの鑑定を受けるその日。
その日に僕は夢を粉々に砕かれ、世界が真っ暗になった。
僕はその場に立ち尽くしたまま、奥歯を強く噛みしめる。
「か、勘違いですよね? 何かの間違いですよね? この装置、故障してるんじゃないです...か?」
「そ、そうですね……念のためもう一度鑑定しましょう」
係員たちも同じ考えだったらしく、すぐ再鑑定が始まった。
それから何十回もの再鑑定が続いた――
―同じ装置でも、新しい装置でも、未使用の装置でも、結果はすべて【愚者】のままだった。
それでも僕は、結果が変わらないと分かっていながら、愚かにも鑑定を繰り返した。
…愚かだよな。これがギフトの影響なのかどうかは分からないけど。
ギフトの鑑定が成立すると、そのギフトの使い方や性質は自動的に理解できる。体も自然に適応して、まるで手足みたいに扱えるようになる。
【愚者】の使い方も、ギフトが現れた瞬間から僕の頭に刻まれていた。ただ、認めたくなかっただけだ。
結局、僕は人々の視線にさらされながら教会を後にすることになった。手には簡単な能力鑑定の紙が渡されていて、僕はそれを手に取って見た。
【愚者のギフト】
【利点】―【愚かであるため、プレッシャーに強い】
【欠点】―【所有者は中級以上のスキルに到達できない、モンスターから最優先の獲物として認識される、状態異常の存在を認識できない、勘が働かない、全体的に運命が悪い】
あくまでこれは、魔法技術によって過去の【愚者】所有者のデータを参考にした大まかな評価に過ぎない。もしかしたら他にも活用できる利点があるかもしれないし、未知の能力が眠っている可能性だってある。
なにせ、あまりにも最悪すぎて参考例すらほとんど存在しないギフトなのだから。とはいえ……僕はその評価用紙を握りつぶした。
「……ふざけるなよ」
結局それはただの言い訳に過ぎない。どんなギフトにも頂点へ到達した者はいる。けれどこのギフトにはそれがいない。頂点が存在しないのではなく、誰一人そこへ辿り着けなかっただけだ!
プレッシャーに強い、愚かだから―だと? はぁ!? ふざけてるのか!?
中級以上の魔法に到達できない? 冗談か!? 僕は魔法の天才だったはずだぞ。
勘が働かない? つまり何一つ正しく予測できないってことか。
状態異常を認識できない? 精神系の魔法でも喰らえば、気づいた時には手遅れってわけか。
ギフトの補助なしで成長? こんなデバフまみれの状態で?
そして最悪なのが……モンスターに特別に狙われる、最優先の獲物。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
そもそも利点として書かれているそれは何なんだ? どこがメリットなんだよ。こんなの利点と呼べるか!?
この世界は不条理だらけだ。頂点にいたはずの僕が、一気にどん底へ突き落とされるなんて。
まるで童話みたいな話だが、笑えないぞ……! 僕の物語から得られる教訓なんて、不運以外に何もないじゃないか!
しかも「全体的に運命が悪い」だと? そんなのギフトを得る前から僕に備わってたんじゃないのかよ!?
僕は頭をかきむしり、身体を揺らした。まるで、いつも僕に負けては悔しがって暴れるあの永遠二位の王女みたいな姿だ。こんな真似、人生で一度もしたことがなかったのに。
僕は努力してきた。金も地位もある家に生まれ、必死になる必要なんてない立場だったのに、それでも誰よりも努力した。
同年代の連中より何倍も。“将来、必ず夢を叶える男―そう呼ばれてもおかしくないくらいには。
それなのに……たった一つのギフトごときで、全部ぶち壊しだっていうのかよ?
全然笑えない、まったく笑えない!!! なんで僕なんだよ!!!
最強になるんだ、僕は世界最強になるんだ。たとえ普通のギフトでも、そこまで辿り着くつもりだった。ずっと夢見てきたのに……でも【愚者のギフト】で、最強への道なんてあるのか!?
下位ギフトならまだ努力でどうにかできた。でもこれは……闘志すら一緒に消えていく感じだ。
僕は教会の前で、亀みたいに身体を丸めて倒れ込んだ。人目なんてどうでもいい。
みんなに一番のスターだと持ち上げられてきた僕だけど、今は全部が台無しだ。
終わった。
僕の人生は終わった。
まだ十二歳だっていうのに、もう終わりだ。
「くそっ、くそっ、くそっ……この世界……こんな理不尽だらけの世界!!」
【愚者】と最強の距離は、普通のギフトと【神の子】の差なんかより、ずっと遠い。
泣きたいのに涙が出ない。僕は泣けない。最強を目指すと決めた日から一度も泣いたことがないし、泣きたいと思ったこともなかった。
最強への道は無敵であることから始まるって信じてたから。でも、いざ泣きたくなったら涙が出ないなんて……くそっ。
子どもなのに無理して大人ぶってたせいで、涙のない人間になったのかよ。
消えろよ! 特にあそこで立って見てるあのガキ! 集まって笑ってる連中も! カメラ構えて撮りまくってる記者どもも!
消えろ、消えろ、消えろ!!!!
そんな目で僕を見るな!!
僕は地面を転げ回り、やがて大の字になってバタバタ暴れた。
かつて一番輝く星と呼ばれた僕は、完全に駄々っ子みたいな姿になっていた。
暴れ疲れて止まり、夕方の空を見上げる。
……ああ、そうだ。僕、何時間も騒ぎ続けてたんだな。少なくとも二、三時間は。
記者や同年代の子どもたちも、いつの間にか散っていった。
幸い、あの万年二位のあいつは僕がギフト鑑定を受ける前に帰っていた……でなければ……想像もしたくない。
この世界から消えてしまいたい。
生きていること自体が、どうしようもなく恥ずかしい。
僕は唇を噛み、血がにじむほど力を込めた……そしてまた現実から逃げるように身体を丸める。
ドンッ....誰かが僕につまずいて、転びかけた。
痛みはまったく感じない。ただ―目ぇ付いてないのかよ、このクソ野郎と考える。
「うっ…」
うっ? ……は? 今の「うっ」って?
僕は慌てて振り向いた。すると、茶色の髪の男の子が僕を見下ろしていた。
表情は……まるで笑いをこらえているみたいだ。
笑いをこらえてる? 誰に対して?
―この僕、ベラミ・フォル・マティルに対してに決まってる。
そいつは僕の顔を見た瞬間――
「うっはははははははは!!」
遠慮もなく爆笑した。
「……!!」
「ははは、マジかよ……君さ、運悪すぎじゃない?」
うるさい……うるさい……うるさい。
「めちゃくちゃ可哀想だね」
黙れ……黙れ……黙れ。
僕は顔を伏せ、奥歯を噛み締めながら、この屈辱の嵐が過ぎ去るのをただ待った。
「……」
「……大丈夫?」
顔を見て笑い飛ばしておきながら、やけに優しそうな声でそう尋ねてくる。
善意なのか悪意なのかは分からないが、僕はその声を無視することにした。
さっさと消えてくれ、話しかけてくるな―そう言ってやりたい。でも今の僕は、何も話したくなかった。特に、僕の顔を見て笑ったこのクソ野郎とは。
「……」
「隣、座っていい?」
「……」
返事も待たず、そいつは僕の横に腰を下ろした。
そいつ―性別はよく分からないが、とりあえずそう呼んでおく。
顔立ちは整っていて、男とも女とも判別しづらい。ただ服は普通の男の格好だから、ひとまず男なんだろう。
肩まで伸びた茶色の髪。けっこう長い。瞳はメープル色で、白い肌。よく見れば、その目はまるでメープルの葉みたいに細かな色合いが混ざっていて、不思議と印象に残る。
「……何の用だよ。哀れむつもりなら、とっとと消えろ」
「まぁ、可哀想だとは思ってるけど……別に消えたいとは思わないかな」
本当だ。普段なら僕が他人を憐れむ側なのに、今は完全に逆転している。
「それで、何があったの?」
「……」
「名前は?」
「僕を知らないのか?」
同年代で僕を知らない奴なんているのかよ。
……はぁ。
別に自分の惨めな話を聞かせたいわけじゃない。だから僕は黙り込むことにした。するとそいつは肩をすくめ、そのまま僕の隣に寝転がる。真似しやがって。
「……ベラミ、か」
知ってるじゃないか。
「最近知ったばかりだけどね。輝ける星とか、史上最強の子とか……まぁ、いろいろ」
そいつはうんうんと頷きながら呟き、そして僕に向かって微笑んだ。
「でも、どんなにすごい人でも弱る時はあるんだね。僕たち人間って、ほんと複雑だよなぁ……よかったら話してよ」
「ほっとけ」
「人には優しくしろって教わってるんだ。困ってそうな人がいたら、何も考えず助けろってさ」
……そんなお子様向けの教え、現実で通用するわけないだろ。
「早く話してくれたら、僕も用事を片付けてすぐ行くから」 「……」
「全部じゃなくてもいいよ」
「……」
「……望んでないギフトをもらったの?」
何のギフトをもらったかは言いたくない。少なくとも、これ以上僕のことを知られたくはない。だけど―もしかしたら僕は、本当に助けを求めているのかもしれない。
そう思ったら、問い詰められて少し気持ちが緩んだ。
僕は大きく息を吐き、手を空に掲げてから胸の上に落とし、かすれた声で語り始めた。
「ずっと努力してきたのに……ギフトに裏切られた。今までやってきたこと全部が無駄になりそうで、夢も簡単に終わりそうなんだ」
血のにじむような努力が、ただの無駄になるかもしれない。
僕はそれが怖い。
「……頂点にいたはずの人間が、一気にどん底に落ちたんだ」
僕は鼻で笑った。こんな無作法な仕草、今までしたこともなかったのに。
「僕の話なんてそれだけだよ。欲しいものが手に入らなくて騒いでるだけのガキ……ただの、クソガキだ」
「やっぱり、可哀想だね」
「もしかしたら、僕は世界で一番可哀想な人間かもしれないな」
「見た感じ、そういう雰囲気あるよ。人生失敗してスラムにいる人みたい」
全部同意しなくていいだろ、この野郎!!
僕が睨むと、相手は不思議そうに首を傾げた。まるで何も分かってない。空気読めないにもほどがあるだろ。
「そっかぁ。僕だったら、やっぱり悲しくなると思うな」
「はっ、まぁそうだろうな」
「今、どうせ想像で適当に言ってるだけだろって思ったでしょ。浅いなぁって。でもたぶんその通りかも。僕、そんな無理するほど努力したことないし。できることだけやって、無理なことはやらない。身の丈に合った生き方ってやつ。でも、それでもやっぱり、すごく落ち込むと思うよ」
そいつは楽しそうに話す。
「ちょっと頑張ったことでも失敗したら普通にへこむしね。たとえばシスターに水運んでる途中でこぼして、また汲みに戻る羽目になるとかさ」
「僕の問題を、そんな日常レベルの話と一緒にするなよ」
「そんなつもりじゃないよ……でも一応ごめん。今のガラスみたいに脆い君を傷つけたならさ」
……
……強がりやがって。
「……ベラミ」
「え?」
「名前だよ」
「ああ、僕は……」
そいつは少し黙ってから答えた。
「『カエデ』っていうんだ」
カエデか。あとで笑い飛ばされた借りを返す時のために覚えておこう。
僕はカエデのほうを向いて言った。
「用事あるんだろ? さっさと済ませてこいよ」
「あると言えばあるかな。ギフトの鑑定。でも……そうだね、急がなくてもいいか。今寝てるこの地面、ほどよく硬くてさ。ちょっと痛くてマッサージみたいなんだよね」
さっき急ぐって言ってなかったか?
こっちは恥さらしてまで話したんだから、さっさと消えろって意味だったのに。
……はぁ、もう言い返すのも面倒だ。どうでもいいや。
「ギフトってそんなに大事なのか?」
「世界中みんなそう思ってるよ。僕だけじゃない」
「……いや、その……まあ確かに重要だよね。たとえば僕が【釣り人】のギフトをもらったら、きっと漁師になると思うし」
「ほらな?」
「でもさ……もし良くないギフトだったら、その後の人生は終わりなの? ただ疑問なだけで、からかってるわけじゃないからね」
「それ、普通にからかってるって言うんだよ。初対面のカエデさん。落ち込んでる相手への接し方、もうちょっとないのか?」
カエデはぱちぱち瞬きをして、少し笑った。
「……知らない人によしよしっていいの?」
「全然よくない」
「えー、でもそんなにいないよ? 見ず知らずの人に優しくしてくれる人って」
「誰がよしよししてほしいなんて言ったんだよ」
「よしよししたくないの? せっかく『よく頑張ったね、えらいえらい』って言おうとしてたのに」
「お前、人の話聞いてるか?」
カエデは首を傾げ、それから僕の頭に手を伸ばして撫でてきた。
は?
「聞いてるよ聞いてる。話してくれてえらいね。えらいえらい、いい子いい子」
「うるせぇ! 黙れ!!」
僕はその手を振り払った。
カエデは三回ほど転がって距離を取り、起き上がって僕を指差す。
「暴力で解決するのはよくないよ、ベラミちゃん!」
「じゃあどうやったら人を黙らせられるんだよ。口を塞ぐ以外でな、あぁ!?」
「……都会の人って怖いね。さっきの係の人もそうだったし。はぁ、早く村に帰りたいなぁ」
「……くそ。お前と話してると、もらったギフトのせいで脳細胞がどんどん死んでく気がする。中身なさすぎだろ、お前」
「ひどいなぁ。こう見えて僕だって頭くらいあるよ」
「……」
気づけば、ギフトのことよりカエデへの苛立ちのほうが強くなっていた。
怒りのせいか何なのか、僕は体を起こして、のんびり座ってるカエデを見下ろして言った。
「人生が終わったわけじゃない。でも……夢は終わった。消えたんだ。僕にとって一番大事なスタートラインだった日にさ」
「夢かぁ。そういえば人間ってそういうのあるんだよね。忘れてたよ」
「……」
「僕、夢とかない人だからさ。あんまり分からないんだ。ごめんね」
カエデは適当に手を合わせて謝った。
夢がない、か。
自分がカエデみたいな考えだったらどうなるか想像してみたけど―結論は簡単だった。そんな人生なら死んだほうがマシだ。
それならいっそ【愚者】のギフトをもらった時点で―死んだほうが楽だったかもしれない。
そう考えるとまた気分が沈んできて、寝転がって転げ回りたくなった。でもこのままだと、このカエデってやつがずっと喋り続けそうだ。
「でも、でも、でもさ!」
そう思って、あいつはまた口を開いた。
「僕ね、夢を持てるってすごいことだと思うんだよね。何かを自分の夢だって言えるってことは、それを学びたいとか、手に入れたいっていう強い気持ちがあるってことだろ?そういうのって、僕は一度も味わったことがないし、想像すらしたことないんだ」
カエデは明るく続けた。
「だからきっと、すごく素敵なんだろうなって思う」
頭の中にあることを、無邪気な笑顔のまま全部口にする。
「ねえ、ベラミ。夢を持つって、どんな感じなの!?」
「……どんな感じって言われてもな……多分、今日は何もしないでじっとしてられないって感じかな。十分以上ダラダラ寝てたら、自分の顔を殴ってでも起きて、何かしら自分のためになることをやろうって思う、そんな感じだ」
「すごいすごい!僕なんてさ、一日中寝てばっかりで、一人で走り回って遊ぶだけだよ。シスターに用事頼まれてもすぐ逃げて寝に行くし、つまり―人生で何もしてないし、何も求めてないって胸張って言えるんだ!!」
しかも誇らしげに言いやがる。ほんと情けないやつだ。
こいつを見てると、たとえ僕が史上最悪のクソみたいなギフトをもらったとしても、こいつだけは絶対に僕より下だろうって思えてくる。
生き方が人として終わってる。
僕は心の底からカエデを軽蔑した。
「はっ!中身スカスカの人生だな」
「そうそう、僕は完全に空っぽなんだよ。吹く風のままに生きてる、まるで自分の運命を決められない一枚の葉っぱみたいにね。何も予測できないしさ。これからどんなギフトをもらっても、僕の生き方はたぶん一ミリも変わらないと思う!」
カエデは立ち上がり、吹いてきた風を抱きしめるかのように両腕を広げた。
「だってさ、言われている通り――
―生き方って変えられないなんだ!!」
風が吹き抜け、カエデの髪がその風に揺れた。あいつの瞳に似た色の葉っぱも一緒に舞っている。
頼りなさそうな体は吹いてきた風に流され、そのまま前のめりに地面へ倒れ込んだ。……が、あいつは鼻血を垂らしながら顔を上げ、それでも無邪気な笑顔は変わらない。
「いてぇなぁ、ははは!」
風が止むと、カエデはまた勢いよく跳ね起きて両腕を広げた。
「ほら見た?」
「すごいすごい。まったく見習うべきじゃない生き方だな」
「人生で唯一誇れるのがこの生き方なんだよね。誰とも違うしさ、カッコいいでしょ?」
「へえ、カッコいいっすね、カッコいい」
僕は隠しもせず白々しく答えた。カエデは気にも留めず鼻血を拭き、服の埃を払うと歩き出し、笑顔で僕に手を振った。
「じゃあギフトの鑑定行ってくるね。また戻ったら続きを話そう!」
「ああ、好きにしろ」
あいつが教会へ入った瞬間、僕はくるりと踵を返し、この教会の敷地から一刻も早く出ようと歩き出した。
カエデと話していても、得られるのはどうでもいい情報ばかりで中身がない。最初からさっさと離れるべきだったんだ。
でも、落ち込んでるときに話しかけられたおかげか、少し頭が冷えた。
僕を待っているであろうマリアのことや、……僕がひどいギフトをもらったせいで困ってるはずの人たちのことも思い出した。
やるべきことは山ほどある。
そう思い、僕はここを急いで離れる決意をした。
―だが。
「大ニュース!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
監督官の叫び声が響いた。
十人以上の監督官が一斉に教会の扉から飛び出し、拡声器で発表し始める。
それを聞き、それぞれの生活をしていた人々が一斉に注目した。監督官たちの反応は様々で、踊り回る者、騒ぐ者、泣き出す者までいる。
子どもが【騎士】や【魔導士】のギフトを得た時よりも嬉しそうな様子だ。
どうやら、とても有用で珍しいギフトらしい。
誰がそんな最高のギフトを得たのか気になって、僕は足を止めて様子を見た。
……あ。
監督官たちの横からカエデがひょこっと顔を出している。どうやらあいつらしい。
それを見た瞬間、僕は興味を失い、そのまま歩き出した。
夢もないようなやつが、どんないいものを得たところで面白いはずがない。
「【ギフト・勇者】の保持者が現れた! 三百年ぶりだ!!!!!!!!」
―そう思った直後、監督官のアナウンスに僕は足をもつれさせ、盛大に前へ転んだ。




