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テンプレな魔術学園ファンタジー(神様基準値)  作者: 横浜のディカプリオ
9/10

ポショポチョ、死す

・時刻:ポショポチョ氏の七回目の死亡から一日前(訂正)

・場所:サルでも入学できる魔術高等学園・大広間


 時刻は午前。

 魔術学園の広場にて、約三十人ほどの亜人や転移者が和気藹々と鍛錬を行っていた。魔術に精を出す者や剣技に集中する者。互いが互いに指摘して己を高め合う。そして時には熱く拳を交わし合い、正に青春の時間を過ごしている。

 その中でも一際目立つ青年が其所に居た。

 容姿は整い、高身長に加えてハーフ顔。亜人と転移者を足して二で割り、二種族の良いところだけを併せ持った青年だ。

 右手には神々しい両刃の剣を持ち、左手には青銅の盾。滴る汗を拭うだけで、女子生徒の視線を集める。


「ユウ、お疲れ様ね! はい、タオル」

「あぁ、アイシャ。ありがとう!」


 そんな汗だらけの彼に対し、献身的にタオルと飲み物を差し出したのは金髪のロングが特徴のアメリカ人。日本語が流暢なところを見るに、彼女は日本留学中に異世界転移したのだろう。

 彼女の容姿は端麗。美少女と例えるに相応しく、周りと比べても異端とすら感じる。


「昨日に比べたらスキルの使い方が分かってきたみたいね。やっぱり、転移者から教わると違うの?」

「そう……だね。亜人のスキル持ちは転移者の子孫だけで凄く少ないから、今まで教わる人が居なかったんだ。そのお陰で独学だったけど。此処は違うだろ?」

「まぁ、転移者は逆にスキル持ちしかいないからね。スキルの使い方はみんな熟知してるわね。変にスキルを隠す人もいないし……」

「ありがたいよ。聞けば教われるって言うのは自分を一番速く成長させてくれる」

「ストイックねぇ。転移者からすれば、なんでそんなに強くなりたいのか分からないけど……私は応援するわ。聞きたいことがあるなら遠慮無く聞いてね? でも、あんまり無理はしないように」


 青年は彼女の言葉に少しの照れを含んだ笑みを帰して頷いた。

 お似合いの二人だ。共に容姿は整い、魔力だけで見るなら明らかに実力者。己を高め合う事に迷いはなく、仲間として。そして男女としても良好な関係を気付いている。


「よし。休憩終わりっ! 鍛錬再開だ!」

「疲れたら休むのよ?」

「分かってる。それより、手伝ってくれるかい?」

「勿論よ」


 地べたに座り込んでいた青年は気合いを入れ直して立ち上がると、剣と盾を構えて彼女に言う。彼女は青年の求めを柔やかに承諾すると自らも剣を構えて青年へ闘志を露わにした。


 其所から始まる実技訓練。

 青年の流れるような剣技に対して、彼女はソレを見事に受け、隙を見つつ反撃を入れる。時にはスキルを巧みに使い、また青年もスキルで歯向かう。

 正に青春の一幕だ。

 切磋琢磨。何かに突き動かされるように己を高め続ける青年と、ソレを支える純真なヒロイン。


 彼の名前がユウシャ・エラバレシーとか言う失笑すら沸かず真顔になるクソみたいな名前ではなかったら純粋にそう感じただろう。サトウ・テンシ・ミカエルちゃんよりはマシだが、それでもウンコみたいな名前には変わりない。


 そんな彼等を影から眺めるのは、黒服に身を包んで壁により掛かりながら不敵に笑う俺とワフゥ。


「中々面白いチームだね……」

「あぁ……特にあの勇者」

「ポショポチョ氏と同じリーダーだね。どう? 止められそうかい?」

「さぁな……」

「おいおい……うちのリーダーがそれでどうするんだい」


 多分、周りから見た俺等は格好いいと想う。

 正直、真っ正面から闘ったら一秒で俺の死体が出来上がるね。良く漫画である「は、早過ぎて動きが見えねぇ……ッ」って奴。アレを俺とワフゥは今、体験してるからね。嘘でしょ? アレ、鍛錬なの? ドラゴンボールみたいな動きしてるけど?

 ユウシャ・エラバレシー。

 名前に差異がないようだ。野糞みたいな名前だから、きっと馬糞みたいな実力かと想ったらマジモンの勇者レベルな強さじゃねぇか。勝てる奴いんのかな。

 俺はチラリとワフゥを見る。


「……まだまだ、動きが鈍いね。隙だらけだ」


 ワフゥは急にイキりだした。

 ちなみにワフゥのステータスは俺と同等だ。確か【レベル:2】だったはず。勿論の如くユウシャ・エラバレシーと敵対すれば二秒で死体が転がるだろう。どの口で言っているのか。


 此奴、アレだ。

 七百万を手に入れるため、死んでも優勝を逃したくないから心を奮い立たせるよう、無理矢理イキッてるんだ。自分の命と金を天秤に掛けて金を優先しやがった。


「ふっ……せいぜい、ミュカバ先生と同程度か。ゴッコルさんの敵じゃねぇな……こりゃ期待しすぎたか?」

「ッ……」


 俺は事実を言いながらワフゥに続いてイキった。

 俺も七百万は死んでも逃したくない。けど、アレに勝てる気が欠片もしない。そんな両方の葛藤に挟まれている。


「……ポショポチョ氏なら片手でいけるね」


 グングンとイキッてる。


「ワフゥなら二秒ってとこか」


 俺も負けじとイキった。


 そんな俺達を余所に二人の鍛錬は激しさを増していく。

 まるでベジータと悟空の闘いだ。なんなエネルギー弾みたいの撃ってるし、大体合ってる。

 余波だけで鍛錬場がビキビキと音を鳴らして悲鳴を上げていた。その割に、ユウシャくんの顔には楽しそうな笑顔が浮かんでおり、軽々と女のスキルを弾いている。


「やっぱり、アイシャは強いなァっ!! 楽しくなってきたよっ!!」

「あら? こんな私が強いと言っていることじゃ、他の転移者には勝てない、わよッ!! 【ソードスキル:ブレイバー】ッ!!」

「分かってるさッ!! 【プライマ・マテリアル・シールドスキル:カードインパクト】ッ!!」


 なにあのスキル。ユウシャくんが持つ盾が翡翠色の結晶に覆われると不可思議な衝撃によって女のスキルが掻き消されやがった。亜人と血を混合させたことによってよく分からないスキルに目覚めてやがる。


「すごいね」


 ワフゥの目は完全に死んでいた。


「うん」


 俺の気持ちも完全に死んでいた。

 どうすれば勝てるかを模索するが、どう考えても正攻法では勝てる気がしない。所詮、ショットガンを持ったおっさんでは戦闘民族に敵わないのだ。

 だが、ユウシャくんを闘えなくするだけなら幾らでも方法がある。問題は、どの方法が一番最適なのかって点だ。こりゃ、少し作戦を捻る必要性があるな。


「あの……」


 あァ?

 俺とワフゥは突然話し掛けられたので、気持ちの良い返事と共に顔を向ける。其所にはユウシャくんと同じクラスだと想われる汚れを知らなそうな転移者の男が居た。


「……なに、してるんですか? 今は授業中ですけど、貴方達は……?」

「お構いなく」

「僕達はその辺の塵だと想って気にしないでくれ」

「いや、えぇ………? あの……?」


 あんだよ、うっせぇな。

 俺は汚れを知らぬ眼で青年を真っ直ぐに見つめ、清廉潔白な気持ちを胸に秘めて口を開いた。


【詐欺師スキルが発動しました!!】


 俺達は見学者だよ。まだまだ学園には知らないことが多くてな、先生に許可を貰って巡ってんの。なんなら担任に聞いてくれても良いぜ。保健室の先生が許可くれた人だからよ。まぁ、なんだ。確かに他人に見られちゃ気まずいかも知れないが、別に変なことしようとは想ってねぇ。この女が言ったように、俺達はその辺の塵だと想ってくれ。御茶とか本当に良いからね。良くあるでしょ? ちょっと客先に行ったら高価な御茶だされるヤツ。俺、あれ嫌いなんだよね。どのタイミングで吞めば良いのよって。良く出されたら飲み干せとか一口だけ飲めとか言われるけどさ。熱い御茶だった場合どうすんの。猫舌な人は確実に嫌な想いするだけだよね。まぁ、どうでも良いか。話がズレたな。兎に角、俺達はゴミの塊だと想ってくれて構わねぇ。


「……はぁ。そうなんですか……貴方、ポショポチョさんですよね?」


 違うよ。

 俺は素直に嘘を付いた。

 クソが。逢ったこともない奴に名前を特定されてるとか、俺はどんだけ人気者なんだ。情報源は恐らく掲示板だろう。“異世界ネットワーク技術者組”の奴等が異世界にまでネット環境を造りやがったのがそもそもの原因だ。百年前まで中世ヨーロッパのようなテンプレ異世界だったのに、今じゃ下手すれば現代の地球より便利な世界になってやがる。


「ほんとかなぁ……?」


 ほんとだよ。

 俺は適当に言葉を返して、男と肩を組んだ。


 なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?


「えっ、い、いや……な、なんすか……?」


 狼狽える男へ、俺は気持ちを落ち着かせるように木陰へと引っ張り込み、ワフゥと俺で男を取り囲む。


 いやさ、闘技大会あるだろ? あ、闘技大会知ってる? クラス対抗でレクリエーションするとか言ってるけどな、コレ、絶対に中身は転移者の殺し合いになるだろうな。まぁ、んなことはどうでも良い。アンタ、このクラスに知り合いはいるか? ん?


「え、あ、あの……いますけど……」


 いる。そうか、仲良きことは良いよな。クラスの友達ってのは早めに造っておいた方が良い。うんうん。で、誰と友達になった? やっぱり、ユウシャくんかな?


「……そう、っすね。彼奴、凄い変で牛糞みたいな名前だけど、亜人の中じゃ普通みたいで。俺達からユウシャとか呼ばれても柔やかに返事するんすよ。気持ち良いくらい、すっげえ良い奴で……今日もこの後、一緒に遊ぶんす」


 へぇ……

 俺は笑みを深めた。

 木陰にいた怪しい風貌の俺達に話し掛けてくる行動力と良い。此奴はコミュニケーション能力がそこそこ高い。なるほど。出だしとしては上々な人物と言えるだろう。

 俺はワフゥにアイコンタクトを送ると、ワフゥもワフゥで頷く。


 よし。ワフゥ。一本だ。


「うん」


 ワフゥがバックからスッと取り出したのは、数万の札束。


「……な、なんすか……?」


 これで、ユウシャの行動を探れ。


 俺は直球にぶち込んだ。

 男は目を見開いて俺とワフゥを見つめた後、わずかに後退る。


「な、なにを……? ま、まさか、アンタ等ッ!! これでユウシャくんの弱点を探し当てて教えろって言うんすかっ!? やっぱり、お前、ポショポチョだろッ!?」


 違うよ。福山雅治だよ。


「誤魔化すの下手くそすぎないっすかッ!?」


 うるせぇな。名前とか俺が誰とかどうでも良いんだよ。俺が気にしてるのはやるのかやらないのかだ。答えは今此処で決めろ。


 男はゆっくりと俺達から逃げようとするが、それは無駄な行動だ。逃げ場は俺とワフゥが完全に塞いでいる。


「ふ、巫山戯んなよ……俺が仲間を裏切るモノか……っ! なにをされようが口は割らないし、スパイなんかしないッ!! お金なんかに絶対に負けるモンかッ!!」


 これは前金だ。ユウシャの情報を此方に流すごとに倍の額は出すぞ。


「半日。それで有益な情報を集めてみせるっす」


 即墜ち二コマってのはこの事を言うのだろう。男はワフゥの足下に跪くと忠信を誓う騎士のように祈りを捧げた。これだよ、これ。俺はこう言うヤツを求めてた。やはり転移者ってのはドイツも此奴もこう言う奴が多い。ゴミの塊だが、俺にとって有益となるなら肩を並べ合う仲間だ。

 お前、名前は?


「トウサツマ」


 クソみたいな名前……お前、まさか?

 俺は瞬時に察した。転移者であり、羊の糞みたいな名前のヤツは必ず亜人さんのペットだ。トウサツマと名乗った男は小さく頷く。


「飼い主はナズナ・ッエッタルさんっす。転移した同時に捕獲されて檻にぶち込まれたんす。其所からペットになるまで躾されて……正直、滅茶苦茶怖かった……」


 なるほど。俺もゴッコルさんと出会ったときは、初対面から二秒でモツ抜きされたからな。何処の亜人さんも転移者をペットにしようとするヤツは同じらしい。

 しかし、トウサツマか。


「趣味が盗撮っす」


 なるほど。盗撮魔って事か。なんでお前は優良クラスにいんの? え? 最底辺クラスの俺って盗撮野郎より下に見られてんの? 


「さぁ……正直、このクラス分けって良く分かんないんすよね。あっ、これ有益な情報っすけど……聞きます? 聞きたいってんなら……ねぇ? 俺も慈善事業って訳じゃなく、身体張ってるんすよねぇ? 情報も安くないっすから」


 お前、絶対に優良クラスにいるヤツじゃねぇな。正直、嫌いじゃないわ。

 俺は本性を包み隠さなくなってきたトウサツマに一万を手渡す。トウサツマはへへっとゲスな笑いを零しながら金を受け取り、軽い口を開く。


「いやね。この優良クラスには前科持ちの屑共が数人いるんすよ。ぶっちゃけ余裕でENDクラスに行くような奴等。優良クラスだけじゃない。他のクラスにも数人は紛れてるっす」

「……クラス分けは犯罪歴じゃないってことかい?」

「いや、姉御。それも微妙っす。ENDクラスは犯罪歴の多い転移者が固められてるのも事実っすから。恐らく、学園側はなにか特殊な判別でENDクラスの奴等を決めてるかと」


 ほう。予想より有益な情報が聞けたな。

 ENDクラスのメンバーはミュカバ先生が決めているだろう。あのイカれたクソ眼鏡女には、必ず裏がある。ひょっとしたら闘技大会にも関わることだ。


「まぁ、この辺りはおいおいと調べるっすよ。王都じゃ“情報屋のトウサツマ”と言われてた俺っす。金さえ貰えれば何でも調べるってのがポリシーっすから。へへっ……」


 なんで恥ずかしそうに誇ってるんだろう。情報屋の盗撮魔って救いようのない犯罪者だけど誇れるの?

 しかし、まさか優良クラスにこんな使える元い面白い奴がいたとは。実力次第だが、今後も活用しても良い。


「……ボクから一つ。TS組について」


 ワフゥが必要以上の情報を与えないように問い掛け、銅貨を差し出した。日本円にして五円である。


「さぁ?」


 勿論の如く、トウサツマはすっとぼけた。

 まぁね。いくら俺でも五円で口を割る訳ないと想う。凄い。ワフゥはやはり凄い。こんな時にすらお金を全力でケチる。子供のお小遣いすら他人に渡したくない姿勢、俺は大好き。でも、五円は有り得ないと想う。

 俺はワフゥに続いて二万を差し出した。


「今んとこ全力で調査してるっす。俺がこのクッソつまらないクラスにいるのもそれが理由っすからね」


 この金次第で何でも喋るの良い。やだ、ポショポチョくん、この子のこと好き。

 TS組を調べるのが、このクラスにいる理由と言ったな?


「うっす。俺の調査でもTS組は中々に脚を見せない奴等っす。元男って言っても、見た目や性格、仕草まで完全に女っすからね。でも……奴等にはある特徴があるっす」


 完璧過ぎる事だな。

 俺はすかさずに言う。TS組は見た目だけでは絶対に判別出来ない。なんせ、TS組の奴等は完全に女を演じきっている。いや、演じきっているという例え方も少し違う。フジサンのスキルは男を完全な女に変える。身体だけではなく、思考回路や性格も。これによって、奴等は特に意識しなくても女らしさを表せているのだ。


 だが、それはあまりにも完璧過ぎる。

 この世の女はアニメや漫画のように完璧な女など居ない。

 そりゃ、ワフゥのような見た目だけなら美人と言える転移者はいるが、性格は何奴も此奴もクソなのだ。

 そんな美人のクソ性格の中に紛れ込むTS組は、異質。


「TS組は女のボクから見ても有り得ない。性格も良くて、家事も完璧。容姿端麗で、正に出来る女……彼奴等は正になろう女主人公だ。現実にそんな女が居る訳ない」

「このクラスにも一人。あまりにも完璧過ぎる女が居るんすよ」


 なるほど。それで、その女は?

 俺の質問に、トウサツマはゆっくりと鍛錬場に目を移す。視線を辿ると、其所には鍛錬を終えたユウシャ・エラバレシーと、その相棒と思わしき金髪の女が、まるで恋仲のように手を繋いで顔を赤らめている光景。


 あっ………


 察した。俺はあまりにも非道な現実を察した。


「アイシャ・リィーシャ。過去の経歴がなく、自称では一年前の転移者……日本に留学中の日系アメリカ人。一年前の転移者にしてはスキルや亜人に詳しすぎる上、アレは正になろう女主人公っす」

「……ユウシャくんと仲が良いな」

「恋仲っす。俺の感じゃ……今日、大人の階段を上がるかと」


 嘘でしょ? 学園始まってから、二日しか経ってないけど? もう、恋仲になって大人の階段を登るの? 

 どうやらユウシャくんの下半身も勇者らしい。エロゲ主人公の要素も兼ね備えるとは、正に名前に相応しい男だ。絶対に真似したくないし、真似できない生き様だ。

 俺は無意識に敬意を覚えた。なんて凄い男なのだろうと。


「アイシャは恐らく、TS組としてユウシャくんを探っている。恋仲になっていれば相手に踏み込みやすく、情報も探りやすいっすからね……俺がTS組を嫌う理由はこれっすよ。彼奴等は、男の純情を弄ぶ……」


 えっ、もしかして……トウサツマくんも?


「二年前のことっす。美女が……ウッ……頭が……ッ」


 よせ、想い出すな。

 俺はそっとトウサツマの背中を撫でた。可哀想に。TS組の被害に遭った奴の殆どは女性不信になってしまう。女と対面しても常に「此奴は男かも知れない」という恐怖に怯えることになるのだ。

 しかも、此奴はトウサツマ。女性がターゲットなのに、女性を信じられなくなり、本業もままならないだろう。


「………盗撮の本業がままならないなら良いと想う」


 ワフゥがぼそりと呟いたが、俺は聞き流す。


「俺は……俺はTS組を許さない……ッ……必ず正体を暴いて、お天道様の真下に晒してやるっす……その為なら、俺は友人すら利用する……ッ」


 本音は?


「ユウシャくんってイケメンで最強でモテてって、ねぇ? 一回くらいTS組に引っ掛かって欲しいかなぁって」


 やっぱり、此奴のこと好き。


 俺はトウサツマの肩を叩いて言う。

 資金面で困ったなら、俺かワフゥに相談しろ。情報を真っ先に届けることを条件に、ある程度の融通は効かせてやるぜ。お前はもう、俺にとって掛け替えのない仲間の一人だからな。資金面だけじゃなく、困ったことでも相談しに来い。俺は何時でもお前を歓迎する。


「旦那……出会ったばかりでろくに俺のこと信用してない癖に口から出任せで適当に言うスタイル、俺は好きっす……」


 俺もさ。

 俺とトウサツマはニッコリと笑い合って抱き合う。

 友情が誕生した瞬間だ。


「汚い友情だなぁ……」


 ワフゥがぼそりと呟いたが、俺は聞き流す。


「じゃあ、俺はこれで。今夜、蘇生の協会で落ち合うのは?」


 構わねぇ。

 俺がそう言うと、トウサツマは小さく頷いてユウシャくんに駈け寄っていく。まるで本当の友人のようにユウシャくんの肩を叩き、TS組の疑いがあるアイシャとの仲をからかいだす。其所に一切の本音がないことに、俺は尊敬の念を覚えた。仕事とプライベートを完全に割り切ってやがる。なんで、彼奴は優良クラスに居るんだろう? 俺って、あんな屑野郎より下に見られてんのかな?





 さてと。


 俺はゆっくりと腰を下ろして土下座する。



「相談は終わりましたか? ポショポチョさんとワフゥさん」



 あぁ。

 俺とワフゥは後ろから聞こえてきた恐怖の声に言葉を返した。ワフゥはぷるぷるっとチワワのように震えている。


「さて、授業をサボった言い訳は?」


 巫山戯んな、イカれたクソ眼鏡女め。言い訳だと? 言い訳をしてもどうせ殺されるんだろう。どの耳が言い訳を聞くんだよ。

 と、脳内で罵倒しながら、俺とワフゥは非常に申し訳なさそうな表情でしゅんとした。


「あのですね」

「―――【観察眼】ッ!!」


 言い訳をしようとした時、ワフゥは即座に行動した。悩むなんて一切無い。一ミリの迷いもなく、己のSSRスキルを発動させやがった。

 反逆だ。これはワフゥの反攻だ。殺されるくらいなら殺してやろうという強い思いの行動だ。日常からバトルへの展開が早過ぎる。普通のラノベなら二万文字くらい使って伏線を張るのに、ワフゥはそんなこと一欠片も気にせず、二秒でナイフを抜きやがった。

 

 ワフゥの目がビキビキと唸る。黒い触手のような筋が瞼を這いずり回り、腐ったドブのようなどす黒い血が瞳から流れた。開く瞳孔は七つに分かれ、全てが個々に動く。

 いつ見ても最高に気持ち悪い。

 人間の欲望を絵に描いたような歪な気持ち悪さ。


 これがワフゥの【SSRスキル:観察眼】だ。

 視界に映る全てを観察し、思考にて全てを推測する。ワフゥは時系列観測スキルと例えていた。その名の通り、情報から全てを推測すれば、未来や過去だって分かる。


「………ふむ。それがワフゥさんの【観察眼】ですか。使いようによっては世界を制すとまで言われたマテリアル・スキル……切っ掛けはやはり……まぁ、良いでしょう。貴女はそのスキルで私の動きを確実に捕らえられるのでしょう?」

「………そうだよ。これは未来予知だ。間違いはない」


 俺はゆっくりとミュカバ先生の後ろに回り込んだ。

 この後の展開は予測するまでもない。ワフゥは【レベル:3】程度のクソザコ。なんならクソザコ筆頭のゴブリンにすら敗北する。未来予知という凶悪スキルを持っているが、それは変わらない。


「では宣言しましょう。私は貴女を右ストレートでぶっ飛ばす」

「幽介……ッ!?」


 俺は今後の展開を察した。


 ワフゥは緊張した様子でナイフを構える。

 ミュカバ先生はソードスキルでポショポチョくんを軽く殺す。


「来ないのですか、ワフゥさん?」

「貴様、良くもポショポチョ氏をぉおぉおおーーッ!!」


 ワフゥは勢いよく飛び出し、【観察眼】を光らせる。


「……ハァッ!!」

「甘いッ! 君の動きは全て見えているッ!!」


 ミュカバ先生は宣言通り、右ストレートを放つ。風を切り、唸りの轟音を響かせる拳はそのままワフゥの身体を貫いた。


「―――ガッハァ………ッ!?」


 まるで吉良に貫かれる康一くんのような死に様だった。悲鳴を上げる暇も無く、無惨に殺された。まぁね、いくら動きが見えていようが、本人が十メートル走っただけで過呼吸になるクソザコ女なんだから意味ないよね。動き見えても躱せないんだから、ワフゥは可愛い。



 それとさ、俺を殺すなとは言わないけどさ。

 こんな適当な殺し方あります? ワフゥはまだ良いよ。ちょっとは闘ったからね。でも、ポショポチョくんは気付いたら死んでたみたいな死に方じゃん? もうちょっと大切にポショポチョくんを殺して欲しい。


 思考回路がぶっ壊れてきたことを自覚しながら、俺とワフゥは火垂るの墓のように光の粒となって空に搔き消えた。



 

とある異世界観測者の一言

:アリのように儚い命。その輝きは鈍く光る害虫のよう

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