6:知識を詰め込む、と見せかけて?
「おはようございます、スイ様。本日も良い空ですよ」
光が射してきて一昨日からよく聞くようになったサイラスさんの声で起こされる。ふかふかのベットの端で目覚める私は、どうも広すぎるベットに無意識でも落ち着かないらしく端に端にと寄って落ちるか落ちないか位の所で落ち着くらしい。
昨日はノックの音で起きたのに、今日は随分熟睡していたのかと自分の神経の図太さに苦笑いするしかない。
「おはようございます、サイラスさん」
「よくお眠りのようで安心致しました。スイ様が違う世界での記憶を持っている事で、ずっと気を張って疲れを溜めているようで心配していたのです。少しずつ我らに馴染んで、穏やかに過ごせるようにとルディ達と話してはいたのです」
「‥‥‥そうですね、早く馴染んで楽しみを見つけようと思います。まだ整理が出来たわけじゃないですけどそこは、時間の問題だと思うし‥‥」
気長にいきましょうと言われて、少し肩の力が抜けた気がする。やはり急激な変化に力が入っていたんだろうなぁ。顔を洗いに洗面所へ行き、冷たい水で軽く洗えば僅かに残っていた眠気もなくなった。
知らない事だらけのこの世界で生きていくのだ、幸いにもサイラスさんをはじめフルーさん達は良くしてくれる。現実を見たくないとばかりに泣き喚くのはもうしないと決めた、洗面台の鏡に写る自分の顔がほんの少しだけ凛々しく見えてくる。頑張ろう。
すっきりして、今日は昨日着るか迷っていた白地のワンピースにした。下着は何故か忽然と衣装部屋に現れていた鍵つきの収納に入っていてびっくりしたけれどサイズが合ってて戦慄しかけた、が、無いと困るのは自分なので色々飲み込んで気にしない事にした。
着替えてから部屋の外で待機しているサイラスさんに声を掛けると扉を開けてくれる、流石に扉は自分で開けられますからと抗議した所、私がしたいのです。とそれはそれは麗しい笑顔をもらってしまいタジタジになってる間に流されてしまって、タイミングがなくなった。
執務室で今日はフルーさんが魔力についての講義をしてくれるみたいだ。明日はサイラスさんがこの世界について教えてくれるとの事だ。
「スイ様、おはようございます。私楽しみにしてたんですわよ、今日は沢山お話しましょう!」
「わっ、フルーさんおはようございます。ええっと沢山お話しましょうね?」
「勿論ですわっ!さ、サイラス後は任せてちょうだいな。」
「くれぐれも変な事するなよ。スイ様、私はこれにて下がりますが何かあればお呼びください。飛んで参りますから」
「あ、はい。が、頑張ります。サイラスさんもお仕事頑張って下さいね。えと、また後で」
「はい、また後ほど」
礼をする時に流れる赤い髪の毛がサラッサラで羨ましい、自分の黒い髪をつまみんでみてもあそこまでじゃないな。普通の指通りだ。サイラスさんが退出してフルーさんに髪の毛サラサラですよねぇ、と漏らしたのがツボに入ったのかくすくす笑われてしまった。今日もぷるんぷるんの胸が小刻みに揺れている。
「ふふ、サイラスったらスイ様の事よほど気に入ってるようですわね。普段は近寄りがたい雰囲気を出していますから、きっと皆さっきまでの様子を見たら驚くと思いますわ」
「サイラスさんが近寄りがたい雰囲気、ですか。なんかうまく想像が追い付かないですね」
「スイ様は皆が驚く方のサイラスしか見たことがないですもの、仕方ありませんわ。今度、こっそり私と見に行きましょう!」
「こっそり‥‥‥‥‥、怒られないですか?」
「バレなきゃ大丈夫ですわ!」
バレたら怒られるんですね。胸を張るフルーさんはとても誇らしげで、可愛かったので黙っている事に。
サイラスさんをこっそり覗き見計画を練るのに二人とも盛り上がってしまって、魔力については何一つ講義は出来なかった事を報告します。お昼ご飯を運んで来てくれたサイラスさんが青筋立てて怒ったのは言うまでもない。