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自分の横腹をちょっと摘まんでしまった。
羨ましい‥‥ぷよぷよな部分など皆無だろう鍛えられた隊士の皆さんへ、ぴしっと直角に頭を下げる。そうだ、無遠慮に部屋を見回してしまった私の印象を変えねば!
「初めまして、スイと申します。来た‥‥ああいや、生まれたばかりでまだ分からない事だらけですが、どうぞよろしくお願いします。仲良くして下さい」
ちょっと間違えたけども、噛まずに言えて達成感に包まれながら顔を上げたら、一列に並んでいた隊士さん達の手がぷるぷるしていた。
どうしたのか首を傾げれば半数はくるりと反対を向くし、もう半数は手で顔を覆っているしで、困ってルディさんを見上げればいい笑顔で頭をぽんぽんされた。
「まあなんだ、守備隊や巡視隊は基本男所帯だからな。それに城の女は腕っぷしも気も強めだし、スイ様みたいなぽやっとした雰囲気にやられただけだから気にすんな」
なんか褒められてる気がしないなー。ぽやっとした雰囲気って‥‥‥私、そんなにぼーっとした風に見られてるのか?と言うか、城の男の人達は尻に敷かれてるって事だよね。女の人ってフルーさんしかまだ知らないけれども、フルーさんそんなに気が強めじゃないと思うけどなぁ。お茶に誘ってくれるし、お話も楽しいもん。気配りも出来るお姉さんって感じかな?
とりあえずジト目でルディさんを見返して、少しは落ち着いただろう隊士の皆さんにもう一度、今度は軽くお辞儀をしてよろしくお願いしますと笑顔で挨拶をした。
「自己紹介はスイ様がもうちっと慣れてから警備やら見回りの時にでもしろな」
「「えー!」」
「えーじゃない、慣れない事だらけで疲れてんのにこれ以上覚えさせて倒れたら嫌だろーが」
「「それは嫌です!」」
「そうだろ?ったく、スイ様もこいつらバカですまねぇな」
言っちゃなんだけど、幼児に言って聞かせる親のようだなぁ。ほのぼのしてる雰囲気に和む。きっと普段も楽しい人達に違いない、名前は多分今は覚えられる気がしないのでルディさんの申し出は有りがたい。でも、温かい気遣いに嬉しくなる。
「早く慣れる様に頑張ります。御名前聞けるの楽しみにしてますね」
そろそろ戻るかルディさんに言われて、隊士の皆さんにお騒がせしましたと挨拶したら、とんでもないっ感動です!と熱く返されてちょっと困ったけれど。
演習場に戻ればサイラスさんが迎えに来てくれていて、思わずサイラスさーんなんて大声を出して手を振った私をルディさんはあの微笑ましいものを見る目で見て、サイラスさんはにこやかに手を振り返す大人の対応。途端に恥ずかしくなり真っ赤に顔を染め上げたのだが。‥‥私ってこんなに子供じみていただろうか。まあ、たまに弾けたようにはっちゃけたりはしたけどさ。
「あぅ、なんて恥ずかしい‥‥」
「その反応がまたな~、くるもんがある」
「スイ様、この変質者は放っておきましょう。フルーが渡したい物があるとかで執務室で待っていますので、参りましょう。執務室へは転移で行きましょうか」
「えっフルーさんが?待たせちゃってるんですよね、急ぎましょう。ルディさん今日もありがとうございました、また明日もよろしくお願いしますね!」
「‥‥変質者って。スイ様も否定してくれよ、いやまあいいけどよ。またな」
ひらひら手を振るルディさんに私も振り返して、執務室で待たせているらしいフルーさんの元へ転移を使う。
しかし、自分の執務室をイメージするとどうも私はあの椅子が印象に残ってるらしく、転移したらふかふかの椅子に腰掛けているのだ。