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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第5章 世知(せしる)を救え!
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-4-

世知(せしる)! どうしたんだよ!?」


 教室に着くなり、僕は世知に詰め寄った。


「あ、レモン。おはよう」

「おはようじゃないっての!」


 つかみかかる勢いで怒鳴りつける僕に、弱々しい視線が向けられる。

 それ自体、いつもの世知じゃない。


「どうして来ないんだよ!?」


 来ない。

 苺ぱるふぇ・オンラインの世界に、どうしてオンしてこないのか。

 わざわざ皆まで言わなくても、僕の言いたいことは伝わるはずだ。


 実際、世知はまっすぐ見つめる僕から目をそむけた。

 意味がわかっていての反応なのは間違いない。


「べつに……なんでもないよ。ちょっと用事があるってだけ」


 それでもなお、世知はしらをきる。

 なんでもなくないのは、明白すぎるというのに。


「なんでもないって様子じゃないだろ!? いつもの勢いもないし! 僕に抱きついてもこないし!」


 席に座ったままの世知は、小さく縮こまっているように思えた。

 150センチ程度の身長しかない世知だから、もともと小さいのは確かだ。

 でもそれ以上に小さく小さくなっていた。

 ……いつもどおり、胸だけは大きいのだけど。


 世知はなにも答えてくれない。

 代わりに、別の声が飛び込んでくる。


「世知の大きな胸が押しつけられなくなって寂しいんだろ、レモン!」


 声の主は、ようやく登校してきた剣之助だった。


「そ……そういうのじゃなくて!」


 僕は断固否定する。

 本当に世知を心配しているだけだったのだから。

 ちらりちらりと、視線が胸に行ったりはしていたかもしれないけど。


 ここで当人である世知は、迷うことなく剣之助の言葉のほうを受け入れる。


「そうなんだ。それくらい、いくらでもするよ」


 ふにょん。

 そっと抱きついてきて、世知の大きな胸が僕の体に押しつけられた。


 いつもどおりの弾力はあるけど、

 いつもの勢いはない。


 こんなの、世知じゃない!

 痛みを伴うほどの突撃をかまして、ぶつかってくるくらいじゃないと!


「絶対におかしいだろ! 世知、なにがあったんだよ!?」


 問うてみても、世知からまともな返事は得られない。


「なんでもないってば」


 抱きつかれたことで、至近距離から吐息がかかる。

 押しつけられている胸の柔らかさも相まって、こんな状況だというのに、体は無意識に反応してしまう。

 相変わらず、この胸は反則的だよな、こいつ……。


「なに鼻の下を伸ばしてんだか!」


 剣之助が茶々を入れてくる。


「べ……べつにそんなことは!」

「じゃあ、別のところを伸ばしてる?」

「なななな、なにをおっしゃるウナギさん!」

「どうしてウナギ……。動揺しすぎだろ!」


 僕たちがこんなやり取りをしていても、世知はまったくの無反応。

 心ここにあらず、といった様相だった。


「ほんとに、どうしちゃったんだよ?」

「べつに……普段どおりだよ。そろそろ先生も来るし、席に戻ったら?」


 そう言うと、世知は僕からそっと離れる。

 やっぱり、世知はおかしい。

 なにかあったのは確かだろう。


 僕は落ち着いた口調で、もうひとつだけ訊いてみた。


「今日はオンするのか?」


 答えは期待できないかもしれない。

 それでも、ホームルームの時間になる前に、しっかり確認しておきたかったのだ。


「無理……かな。今日も用事があるから……」

「用事ってなんだ?」

「ん、ちょっと……」


 これまでの流れで、僕は確信していた。


「用事なんて、本当はないんじゃないか?」

「…………」


 押し黙ってしまう世知。

 沈黙が肯定を物語る。


「話してみなよ。なにか力になれるかもしれない。……失踪事件のニュースで、親になにか言われたの?」


 うちと同じように、親からやめろと言われ、苺ぱるふぇ・オンラインの世界に来なくなったのではないか。

 僕はそう推測していた。

 いや、おそらくは間違いあるまい。


 用事があるなんて嘘だというのは、疑いようもない。

 そしてそうであるなら、世知が自らの意思でオンしなくなったとは思えない。

 ブレイン・インパルスのヘッドホンを取り上げられたとか、パソコンを取り上げられたとか、ネット回線を停止させられたとか、そんな強制力を行使された結果、諦めざるを得ない状況に追い込まれた。

 それ以外に考えられなかった。


 回線まで止められてしまっていたら、復旧するのに時間がかかりそうだけど。

 まずは状況を把握しないことには、対策も立てられない。

 そのためには、世知本人に話してもらうことが不可欠だ。


 でも。


「……放っておいて」


 世知は心を開いてくれなかった。

 すぐに担任の先生が入ってきて、会話は中断するしかなくなってしまう。

 しかも世知は、休み時間のたびに僕たちを避け、どこかへやら身を隠す。


 放課後になっても、状況は一向に変わらない。

 結局、世知は僕たちとひと言も、視線すらも交わさないまま、まるで逃げ出すように下校してしまった。




 帰宅後、僕はオンライン上でみんなに世知のことを話した。

 今日はフランさんたちはいない。

 いつものメンバー――いちご、僕、クララ、天使ちゃんの4人だけだった。


「あれは絶対に、親にやめさせられたんだと思う」


 僕が告げると、


「そんなの許せない! 断固抗議すべきだ!」


 息巻くいちご。

 ふんがー! と、女の子とは思えないほど鼻息を荒げている。


 そ……そんな姿であっても、いちごならラブリーだ!

 若干、引き気味の僕だったけど。

 それはともかく。


 いちごが不意に立ち上がる。


「家まで乗り込もう!」


 猪突猛進。

 さすが、いちごだ。


「行くべきだ! 仲間なんだから!」

「そう……だな」

「ええ、そうですわね」


 異論はない。僕も、クララも。


「……ボクも行くの……?」


 一方、天使ちゃんは困惑気味だった。


「もちろん、仲間だからな!」


 いちごは当然のように言いきったけど。

 僕たちは中学も一緒だったりして家が近いからいいけど、天使ちゃん――えんじゅ先輩は、どうやら電車移動を含めて30分くらいかかる場所に住んでいるらしい。

 わざわざ来てもらうというのも、迷惑になるのではないだろうか?


「嫌なのか? 仲間のためなのに!」


 そんなことに気づくはずもなく、いちごは天使ちゃんを責め立てる。


「……嫌じゃない。ただ、時間がかかる……」

「到着を待ってから出発する! 当たり前だろ!?」

「……なら、是非とも同行させて……」

「よしよし! そうでなくちゃ!」


 いちごは満足そうだったけど、本当にいいのかな?

 現実世界の後輩として、そっと耳打ちしてみる。


「先輩、いいんですか?」

「……ここでは先輩なんて呼ばないで……。それに、遅れちゃうのが悪いかなって思ってただけだから、気にしないでいい……。待ってくれるなら、ボクだって一緒に行きたい……。仲間……だから……」


 天使ちゃんはそう答えてくれた。

 仲間、という言葉に、満足そうな笑みを添えて。


 うん。

 こう言ってくれているのだから、迷惑なんてことはないだろう。

 それどころか、ここで僕たちだけで行ってしまったら、仲間外れにしてしまうことになる。


 僕たちの気持ちはひとつになっていた。


 いざ、世知の家へ!


 戦いの地へと赴くため、僕たちは苺ぱるふぇ・オンラインの世界からログアウトした。


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